第112話 もんじゃ焼きます!

「はい! はい! はい、始まりました。はい、始まりました。『ご主人様チャンネル』第七回目の放送が、あ、始まりました」

「助手のメル蔵めるぞーです!」

「こら何で先に挨拶するの。皆さんこんにちは。黒男くろおです」


 カメラの前に白ティーおさげの女性が現れた。丸メガネの上からグラサンをかけている。


『始まったwww』

『何この番組』

『メル蔵ー!』

『月から見てます』


「あ、皆さん。夕飯時にも関わらず見にきてくれてありがとうございます。ぺっちりぺたぺたさん、飛んで平八郎さん、今日もね、よろしくお願いしますよ。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、月のお天気はいかがですか?」

「ゲストを紹介してください!」


「近所に住んでるマリ助まりすけですわー!」

「あ、じゃあ紹介します。あ、もう出てきた」


 カメラの前に金髪縦ロールにグラサンをかけた少女が現れた。


「マリ助お嬢様の助手のアンキモですわー!」

「じゃあ助手の……あ、出てきた。なんか今日被せてくるな」


 カメラの前に金髪縦ロールに紙袋を被ったメイドロボが現れた。


『マリ助クソかわ』

『アンキモセクシー過ぎる』

『メル蔵〜!』


「さて、皆さん。前回の放送は見てもらえたでしょうか? あの、あれ、なんだっけ。ジャイアントモンゲッタと戦った配信ですよ。みんな〜見てくれたかな?」

「いいともー! あ!」


『見た見た』

『今いいとも言ったの誰www』

『戦い凄かった』

『¥5000。金かけすぎでしょwww』


「あ、皆さん結構見てくれてますね。ありがとうございます。あ、ブレスオブザマイルドさん、ロボチャットありがとうございます」

「ご主人様! 今日の企画のもんじゃ焼きいきましょう!」

「あ、じゃあ今日の企画をね、発表しますよ。なんで先に言っちゃうの?」

「早まりました! デュルルルルルルル、デン!」

「ジャイアントモンゲッタ討伐記念もんじゃ焼きパーティ〜」

「パフパフパフ!」


『もんじゃ焼き?』

『もんじゃか〜』

『ジャイアントモンゲッタともんじゃをかけてるのねwww』


「はい、あのこれはですね、ジャイアントモンゲッタともんじゃをかけたコーナー、あれ? 先に言われてるな」

「わたくし、もんじゃ焼きは初めてですわー!」

「わたくしもですわー!」


『お嬢様はもんじゃ食わんだろなwww』

『もんじゃ美味いよね』

『もんじゃって何?』


「あ、私もね、もんじゃ焼きは食べた事ありません。あ、お兄ちゃんは玄米さん、もんじゃ焼きというのはですね、あの、二十世紀にここ浅草で生まれた料理ですね。お好み焼きを作ろうとしたら生地を薄くしすぎてしまったのが始まりとか言われてね、いますね」


『食べた事ないのかよwww』

『浅草にいるのに食べた事ないんかい』


 メル蔵がカメラを回すと駐車場にテーブルと椅子が設置されていた。その上にはガスコンロと巨大な鉄板が乗せられている。


「はい、この鉄板はですね、ボロアパートの倉庫を漁ったらありました。メル蔵!」

「はい!」

「作り方教えて!」

「お任せください!」


 黒男とマリ助とアンキモは席に着いた。既に鉄板には火が入っている。


「まず鉄板に油を引きます!」

「ほい、これね。タラタラと垂らして油引きでまんべんなく鉄板に広げます。正直ね、ご主人様は関西人だからね、もんじゃ焼きはあんまり、なんていうかね、あの、信用していません。我々からしたらね、お好み焼きのパチモンじゃろがいってね、そう思ってしまいますよ。本当に美味しいのかと。今日はそれをね、確かめてやりますよ」


『この貧乳話なげーな』

『いいからさっさと焼けwww』

『何もんじゃなの?』


「あ、私はですね、ゲソもんじゃでゲソ」

「わたくしはチーズトマトもんじゃですわー!」

「わたくしはゲソチーズもんじゃですゲソよー!」


 三人の前には器に山盛りになったもんじゃが並んでいる。


『ゲソゲソうるせーな』

『それうまいのwww』

『アンキモwww』


「なんでゲソを被せてくるかな。チーズとも被ってるし。まあいいや。メル蔵!」

「はい!」

「次はどうしたらいいの!?」

「上に乗った具をどけます!」

「どけるの!? なんで!?」

「知りません!」

「どけるなら最初から乗せないでよ!」

「どけてください!」


『確かにwww』

『ビジュアル重視だからだよ』

『そういうものなんだよ』


 黒男達は上に乗った具材を別の皿によけた。器には出汁だしとみじん切りのキャベツだけが残った。


「メル蔵! 次は!?」

「みじん切りのキャベツだけを鉄板に乗せます!」

「出汁は!?」

「出汁はまだです!」

「じゃあ出汁とキャベツ別々にしておいてよ!」

「無理です!」


『www』

『いちいちうるせーwww』

『はよ焼けwww』


 三人は出汁の中からキャベツをすくって鉄板に乗せた。ジュワーと激しい音を立ててキャベツが鉄板の上で踊った。


「ここで大きなヘラ二枚でキャベツを炒めます!」

「はいはい、これね。ほいほいと」


 黒男は金属のヘラを両手に持ち、チャカチャカとキャベツを炒める。


「もっとです! ヘラでキャベツを刻みながら炒めるのです! もっと! もっと! もっと激しく! キャベツを粉微塵にしてください!」

「じゃあ最初からもっと細かく刻んでおいてよ!」

「無理です!」


 黒男達は必死になってキャベツを刻んだ。鉄板にヘラが打ち付けられる音が鍛冶屋が刀を打つ様相を呈してきた。


『必死www』

『もんじゃって作るの大変なんだな』

『がんばれ』


「ハァハァ、まだ?」

「腕が疲れますのー!」

「お嬢様ー! 鼻水が垂れてますわよー!」

「頑張ってください! ここがもんじゃ焼きの肝です! ここで手を抜くと美味しいもんじゃが焼けません!」


 しばらく炒めると出汁を吸ったキャベツがトロトロのペースト状になってきた。


「ここで天かす、切りイカ、小エビを入れます! ゲソとチーズとトマトはまだです!」

「よしよし、やっとか」


 それぞれの具材が入ると急激にいい香りが漂ってきた。


「ああ〜、香りが! 美味そうな香りが!」

「ジャンク感のある香りですわー!」


『美味そう〜』

『やべえ腹減ってきた』


「ここで『土手どて』を作ります!」

「土手!? あれね。見た事ある」


 丸く伸ばしたキャベツの真ん中にヘラで穴を開ける。その穴を広げていくとキャベツで円形の土手ができる。


「土手の真ん中に最後の具材を投入です! 充分に火を通してください!」

「よしきた! ゲソイン!」

「トマトとチーズですわー!」

「ゲソとチーズでゲソよー!」


 激しい音をたてて具が焼かれていく。鉄板から煙が立ち上りカメラを燻す。


「ここで器に残った出汁を土手の中に入れます! いっぺんに入れるのではなく少しずつ入れてください!」

「なるほど、出汁がはみ出さないように土手を作るのね。それ」


 土手に出汁を注ぐと出汁がぐつぐつと煮えたぎった。


『もんじゃといえばこれだよな』

『ビジュアルがすげえwww』

『地獄の釜のようだ』


「まるで地獄の釜のようですわー……なんで被せてきますのー!」

「お嬢様ー! わたくしの土手が決壊しましたわー!」


 アンキモの土手から出汁が溢れてマリ助の土手へと押し寄せる。


『あーあー』

『もんじゃ合体www』

『アンキモwww』


「キャベツの刻みがあまいと堤防が決壊します。出汁を全部入れたらいよいよ最後の工程です! ヘラでひたすら混ぜてください! 餅をこねるように! おっぱいを揉むように!」

「よっしゃ! そいやそいや!」


 黒男は二本のヘラでもんじゃをこねまくった。ゲソの芳ばしい香りと出汁の香りが合わさり猛烈に食欲を駆り立てる。


「黒男さんのもんじゃとくっついてしまいましたのー!」

「こら! マリ助! あ! ゲソを持っていくな!」

「ゲソチーズトマトもんじゃになりましたわー!」

「さすがお嬢様ですわー!」

「「オーホホホホ!」」


『ゲソ強奪www』

『ひでえwww』

『¥8000。可哀想だから』


「ちくしょー!」

「はい! 完成です! あとはこちらの小さなハガシで少しずついただきます」


 親指と人差し指でつまめる小さなヘラで焼けたもんじゃを鉄板からこそぎとった。


「みなさん! ようやく焼けました。では、いただきます!」


 黒男はヘラを口の中に丸ごと差し込んだ。歯と唇を使いヘラに張り付いたもんじゃを舌の上に落とす。


「ほふほふ、熱い! ほふほふ。んん!? 美味い! 出汁の旨み、キャベツの甘み、具材の歯応えと香ばしさ。それらがトロトロのキャベツのペーストで包まれて一体となっている! このジャンク感! 駄菓子屋で一流の料理を食べているかのようだ!」

「うまうまですわー! チーズの濃厚なコク、トマトの爽やかな酸味。それらがキャベツに全て吸収されておりますわー! そしてこのジャンク感! 駄菓子屋で一流の料理を食べているかのようですわー!」

「エクセラン! 出汁に溶かされているウスターソースが絶妙な役割を果たしていますわー! 刻まれたキャベツがウスターソースの出汁を纏う事で全ての具材を優しくそして力強く支えているのですわー! そしてこのジャンク感! 駄菓子屋で一流の料理を食べているかのようですわー!」


『食レポがくどいwww』

『何この人達www』

『どうも食レポが被ってるんだよなあ』


「味変として醤油をかけたり紅生姜を入れたりもできます。青のりやかつお節なども最適です」

「なるほどなあ。もんじゃってお好み焼きとはまるで違うんだなあ」

「そうです。言うなればお好み焼きは『静』、もんじゃ焼きは『動』の粉もんなのです。お好み焼きは極力触らないように焼くものですが、もんじゃ焼きはひたすら触りまくるのです」


 三人は夢中になってもんじゃをヘラですくった。食べている間にももんじゃは鉄板で焼かれその姿を変化させていく。


「おお、お焦げができてる」

「パリパリになってきましたわー!」


 ヘラを使い鉄板からガリガリともんじゃを剥がす。より芳ばしい味を楽しめるのだ。


「ハフハフ、ところで皆さん。ジャイアントモンゲッタとのね、あの、戦いはどうでしたか」


『ジャイゲッタ強かったね』

『デカかった』

『てかなんで戦ってたのwww』


「あ、あれは火星でうろついていたワトニーを巡る戦いですね。ジャイゲッタがワトニーを連れ去ろうとしたので戦いました」

「もうギガントニャンボットには乗りたくないですわー!」

「あれ設計した人誰ですのー!」


『手に操縦席www』

『股間だったり手だったり酷い巨大ロボだな』

『乗りたい』


「あの、あれは、夕方のアニメでそうなっているらしいですね。アニメでも手に操縦席があるらしいです。まあでもね、なんだかんだでジャイゲッタを倒せましたから。我々の勝ちですよ」


『でもワトニー連れ去られたよね』

『ワトニーはどうしたんだよ』

『いや負けだろwww』


 するとカメラがぷるぷると震え出した。


「メル蔵! 落ち着いて!」

「はい!」

「ワトニーは今ね、月にいますよ。火星から月に移住しました。きっと月からね、放送を見てくれていると思いますよ」


『なんでだよwww』

『メル蔵ドンマイ!』

『mけいすkづsだよ』


「さあ、あの、雰囲気がしっとりしたところで今日のね、もんじゃパーティ終わろうかと思います。皆さんもね、あの、浅草にもんじゃ焼き食べにきてください。あ、チーズバーバリアンさん、フィレオスマッシュさん、テリヤキバーサンさん、また次回もね、見てください」


(軽快なBGM)



『ところでチャーリーはどうなったの?』

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