第109話 北海道です! その十

「グオオオオオ!」


 小樽天狗ロボスキー場にジャイアントモンゲッタ、略してジャイゲッタの雄叫びがこだました。身長十八メートルの巨大なクマが青と白の宇宙服を纏った姿でゲレンデをズンズンと歩いてくる。

 黒乃達は一斉に超伝導ソリに乗って巨大ロボから逃げ出した。


『モンゲッタどこだ〜い』


 ジャイゲッタのスピーカーから低い声がした。頭部をキョロキョロ動かし何かを探している。黒乃の背中にしがみついているモンゲッタを発見すると走って黒乃のソリを追いかけ始めた。


「うわわわわわ! きたきたー!」

「ご主人様! 逃げてください!」


 黒乃はソリを巧みに操作してゲレンデを疾走したが、ジャイゲッタの巨体による走行速度には敵わずあっという間に距離を詰められてしまった。走りくるジャイゲッタが黒乃を掴もうと手を伸ばしたその時、ジャイゲッタの足元がスパークした。短い足からバリバリと放電が起きた。


『アガガガガガガ! 痺れる〜』


 地面からの電撃でジャイゲッタの動きが止まった。


「この付近には超電磁地雷が埋め込まれているのだ! 我々のソリは浮いてるから地雷を踏まないんだよ〜」


 ジャイゲッタのスピーカーから声がした。


『君たちのロボチューブを楽しく見てたらモンゲッタが映ってたから迎えに来たのに、酷いじゃないか〜』


 黒乃はソリで走りながらジャイゲッタに向かって叫んだ。


「いつも配信見てくれてありがとう! でもワトニーは渡さないからな。ジャイゲッタにはぶっ壊れったになってもらう!」

「ご主人様! ジャイゲッタの股間の操縦席にニコラ・テス乱太郎が乗っているようです!」

「よし! とっ捕まえてロボマッポに突き出そう!」


 電撃から回復したジャイゲッタは再び黒乃を追いかけ始めた。


「そうはさせませんわー!」

「お嬢様! いきますわよー!」


 マリーとアンテロッテはソリを滑らせジャイゲッタを挟み込むように移動した。二人の中心にジャイゲッタが来ると手に持ったグレネードランチャーを発射した。射出されたワイヤーの両端には電磁石がついており、吸い付くようにジャイゲッタの足に絡みついた。


「超電磁ワイヤーですわー!」

「お嬢様のワイヤーがN極、わたくしのワイヤーがS極になっていて吸い付くんですわー!」

「「オーホホホホ!」」


 足を絡め取られたジャイゲッタはバランスを崩して激しく転倒した。その拍子に後頭部を激しく打ちつけて転げ回った。


『君達〜なんて事をするんだい〜。このニコラ・テス乱太郎を怒らせたいのかい〜』


 ジャイゲッタはプルプル震えながら四つん這いになった。すると宇宙服の背中のバックパックからアンテナが伸びてきた。


『喰らえ〜い、電磁パルスアタック〜』


 アンテナから発せられた電磁パルスを受け黒乃達の超伝導ソリが機能を停止した。


『フハハハハ、超電磁地雷も無効化したよ〜』


「やべえ! やっぱり中にパイロットが乗ってると強い!」

「ご主人様、どうしましょう!?」


 黒乃は動かなくなったソリを捨ててワトニーを担いで走り出した。


「よし、メル子! ギガントニャンボット招来!」

「わかりました! 出でよ! ギガントニャンボット!」


 メル子は首にかけたペンダントを掴み叫んだ。するとどこからともなく猫の鳴き声が聞こえてきた。


『にゃー……』

『ないだい〜この鳴き声は〜?』


 ジャイゲッタは足に絡みついたワイヤーを引きちぎりながら周囲を見渡した。鳴き声は段々と近づいてくる。


『にゃー』

「きたきたー!」

「きましたわー!」


 ドドーン!

 激しい音と振動が起こり黒乃達は地面に伏せた。雪が舞い上がり視界を塞いだ。やがて雪が霧散するとそこには巨大ロボが直立していた。


『にゃーん!(ギガントニャンボット見参!)』


 現れたのは身長十八メートルの巨大な猫型ロボットであった。赤い宇宙服を身に纏っている。そのお尻から生えている尻尾の先がぶるんぶるんと回転している。

 夕方に放送しているアニメ『ニャンボット』に登場する巨大ロボ『ギガントニャンボット』、略して『ギガニャン』である。


『にゃー』


 ギガニャンの頭部のスピーカーから猫の鳴き声が聞こえた。


「チャーリー! よく来た!」

「チャーリー! 偉いですよ!」


 ギガニャンの頭部の操縦席に乗っていたのはロボット猫のチャーリーであった。この時の為にトーマス・エジ宗次郎博士が浅草から拾って連れてきていたのだ。

 ギガニャンはズンズンとジャイゲッタに近づくと腕を振り回しアッパーカットを決めた。もろにパンチを喰らいジャイゲッタは吹っ飛んだ。


『ぐおおお! なんて事するのかね〜』

 

 ギガニャンは膝を曲げ勢いよく飛び上がるとジャイゲッタの胸板に肘を落とした。


ジャンピングエルボードロップですのー!」

「プロレスでは肘の先端部による攻撃は反則ですのよー!」


 更にギガニャンは飛び上がり膝を落とそうとした。しかしジャイゲッタは転がってそれをかわすとすかさずギガニャンのバックを取った。脇に腕を回し思い切りのけぞる。ギガニャンの頭は綺麗な弧を描いて地面に打ちつけられた。


「あれはプロレスロボのカール・ゴッ忠太直伝ジャーマン・スープレックスです!」

「チャーリー! 平気か!?」

『にゃー』


 二体の巨大ロボは攻守入り乱れた戦いを繰り広げた。しかし徐々にギガニャンが優勢になっていった。


『やっぱり猫型巨大ロボのパイロットはロボット猫に限るね〜』


「いけー! チャーリー!」

「ジャイゲッタを破壊するのです!」


 黒乃とメル子は足を止めてギガニャンを応援した。その時、突然背後から幼女の声がした。


「モンゲッタ〜うちくる〜」

「え?」

「なんです?」


 二人は後ろを振り向いた。そこにいたのは赤いサロペットスカートを履いた癖っ毛の幼女であった。


「え? 紅子べにこ!?」

「なんで紅子ちゃんがここに!?」


 紅子は呆気に取られている二人を尻目にワトニーをガシッと掴んで走り出した。呆然とそれを見ていた二人は我に返り紅子を追いかけようとしたが雪に足を取られひっくり返ってしまった。


「きゅいー!」

「ワトニー!」

「紅子ちゃん、ワトニーを返してください!」

「これモンゲッタだもん〜アタシのだもん〜」


 紅子はすごい速さでワトニーを抱えて走った。ジャイゲッタの側まで近づくと巨大ロボは二人を指で摘み上げた。そしてワトニーを頭部の操縦席に、紅子を胸部の操縦席に格納した。


『フハハハハハ! とうとうやったぞ〜モンゲッタが帰ってきたぞ〜』


 キュイーン!

 ジャイゲッタの目が光った。巨大な体をプルプルと震わせるとそのボディから光が溢れた。


「うわ、眩しい!」


 黒乃達は眩しさのあまり目を背けた。光が収まるとそこにいたのは金色に光り輝くジャイゲッタだった。


『ゴールデン・ジャイアント・モンゲッタだよ〜』


 ゴールデン・ジャイアント・モンゲッタ、略してゴジャゲッタは腕を天に掲げて吠えた。そしてものすごい速さでギガニャンに近づくと鉄山靠ティエシャンカオをお見舞いした。もろに技を喰らったギガニャンは激しく吹っ飛び動かなくなった。


「チャーーリーー!」

「チャーーリーー!」


『見たかね〜これがゴジャゲッタの真の力だよ〜無敵だね〜』


「メル子! こうなったら私達もギガニャンに乗り込んで戦おう!」

「はい!」

「わたくし達も乗りますわよー!」


 黒乃達は倒れたギガニャンに走り寄るとそれぞれ操縦席に乗り込んだ。メル子は胸部の操縦席、マリーは右腕、アンテロッテは左腕、そして黒乃は股間の操縦席だ。

 黒乃は股間の操縦席のスティックを握りしめると叫んだ。


「変身! プラチナ・ギガント・ニャンボット!」


 ギガニャンのボディから光が溢れた。


『ぐおお〜何かねこれは〜』


 光が収まるとそこに立っていたのは白金色に輝くプラチナ・ギガント・ニャンボット、略してプギニャンだった。

 プギニャンは一気に前進して距離を詰めた。そしてブンブンと右腕を振り回しゴジャゲッタにアッパーカットを喰らわす。まともに受けたゴジャゲッタは宙を舞った。


「腕を振り回さないでくださいましー! 目が回りますわー!」

「腕に操縦席があるのは完全に設計ミスですわー!」


 ゴジャゲッタは起き上がるとプギニャンの股間を蹴り上げた。


「いてててて! どこ蹴っとんねん!」股間の操縦席にいる黒乃はもろに衝撃を受けた。


 プギニャンも負けじとゴジャゲッタの股間を蹴り上げた。


『何をするのかね〜やめたまえ〜』同じく股間の操縦席にいるニコラ・テス乱太郎は衝撃に悶えた。


 二体の巨大ロボはお互いの股間を蹴り合った。


「巨大ロボが股間を蹴り合うな! 少年達の夢が壊れるだろ! イデデデデ!」

「ご主人様! これが一番効率がいいので仕方がありません!」

「てかなんで股間に操縦席があるの!?」


 二体はしばらく股間を蹴り合った後、同時に仰向けに倒れた。


「あかーん! これ以上股間蹴られたら潰れる! プチっと!」

『ぐおおお〜、どういう戦いなのかねこれは〜。しかし負けはせんぞ〜』


 ゴジャゲッタは地面に膝をつきゆっくりと立ちあがろうとしている。


「やばい! こっちも立ち上がって! マリー、アン子! しっかりして!」

「目が回って操縦できませんわ〜」

「設計した人アホですわ〜」


 その時、ヘリのローター音が聞こえてきた。


『むう〜なにかね〜?』


 ヘリからいくつもの黒い影が飛び降りた。ゴジャゲッタの上に着地をした。


「黒乃山! 待たせたね!」

「皆さんを集めるのに時間がかかりました」

「マヒナ!? ノエ子!? 皆さんて!?」


 マヒナとノエノエはゴジャゲッタのヘルメットに乗り攻撃を始めた。


「黒乃、メル子 おで 助けに きた」

「マッチョメイド!?」


 マッチョメイドはゴスロリメイド服がはち切れそうなほどの筋肉を使いゴジャゲッタの股間を殴りつけている。


「黒乃山、自分も来たッス」

「大相撲ロボ!」


 大相撲ロボはゴジャゲッタの右足にがっぷり四つだ。


「ウホ」

「ゴリラロボ!」


 ゴリラロボはゴジャゲッタの左足に張り手をかましている。


「ご主人様! みんなが来てくれました!」

「みんなありがとう!」

「最後の力を振り絞りますわー!」

「最後の大技ですわー!」


 プギニャンは立ち上がった。よろめきながらゴジャゲッタの元へ向かう。


「みんなの想い、無駄にはしない!」

「絶対にワトニーを救い出します!」

「にゃー」


 プギニャンはゴジャゲッタの胴に腕を回した。腰を入れ重心を下げた。


「あれは!? 黒乃山の必殺技!」マヒナ達はゴジャゲッタから離れた。


「うおおお! いくぞ!」

「「必殺さば折り!!!!」」


 プギニャンはゴジャゲッタを締め上げた。


「フンフンフン!」

『やめたまえ〜』


 プギニャンはゴジャゲッタを締め上げた。


「フンフンフン!」

『ぐおおお〜苦しい〜』

「さあ! 潰されたくなかったらワトニーを返せ!」

「返してください!」


 プギニャンはゴジャゲッタを締め上げた。


『むう〜それだけはできん〜。最後の手段、Mars Ascent Vehicle発射!』


 するとゴジャゲッタのヘルメットがパックリと左右に割れた。頭部からニョキニョキと円錐形の塊が生えてきた。火星上昇機のMAVである。MAVにはワトニー、紅子、ニコラ・テス乱太郎が乗っている。


「ええ!? 何これ!? ロケット!?」

「まずい、逃げられる!」マヒナが叫んだ。


 MAVから轟音と共に激しい噴射が起こり、プギニャンは吹き飛ばされた。


「うわああ、やばい! みんなこっちに集まって!」黒乃は皆を呼び寄せた。


 マヒナ達はプギニャンの陰に隠れた。プギニャンは盾となってMAVの噴射から皆を守った。しかしその勢いは凄まじく、もろに噴射を喰らったゴジャゲッタは木っ端微塵になってぶっ壊れった。


「ワトニー!」メル子は上昇を始めたMAVに手を伸ばした。その窓からワトニーがメル子を見ている。メル子とワトニーの視線が交わった。

 そしてMAVは空の彼方へと飛んでった……。


 最後にワトニーはメル子に信号を残していった。

『メル子、ありがとう』と……。

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