第108話 北海道です! その九

「はい! はい、始まりました『ご主人様チャンネル』〜第六回目の放送がね、はい、ふふふ、始まりました」


 カメラの前に白ティー長身おさげの女性が現れた。丸メガネの上からグラサンをかけている。


『久しぶりじゃん』

『待ってた』

『わろてるけど』

『なんで雪の上で白ティーいっちょなんだよ』


「あ、久しぶりにも関わらず早速コメントが来てますね。がっぷりよつよつさん、ありがとうございます。飛んで平八郎さん、今日もね、よろしくお願いしますよ。ベンザのアトリエさん、初めまして、楽しんでいってくださいよ」

「ご主人様! 名乗ってください!」

「あ、どうも黒男くろおです」


 メル蔵めるぞーはカメラをグルリと一周させた。


「はい、皆さん。今日はね、なんと、ほら見てください。今日はなんとね、スキー場に来ています。スイスのスキー場を貸し切りましたよ」


『今日もロケか』

『絶対スイスじゃないだろwww』

『小樽天狗ロボスキー場って看板あるwww』

『スキーいいな〜』


「今日はスイスのスキー場でね、みんなで遊ぼうと思ってますのでね、はい、メル蔵!」

「はい!」

「メル蔵!」

「はい!」

「ワトニーちょうだい!」


 すると青いメイド服に身を包んだメイドロボが画面に現れた。頭には紙袋を被っており、腕には小熊ロボを抱えている。メル蔵は黒男に小熊ロボを抱かせた。


『小熊ロボじゃん』

『可愛いwww』

『メル蔵きたあー!』

『でっか』


「はい、このワトニーはね、あの、火星でうろちょろしていた所をヘルメス号で拾って来ました。はい、ワトニー! 手を振って!」


 黒男はワトニーの手を掴んでぶんぶんと振らせた。


「ぶぶぶぶぶ!」ワトニーは唸った。


『めちゃかわwww』

『スキー場で白ティーで寒くないの』

マリ助まりすけ出せ!』

『あれ? これモンゲッタじゃね?』


「ご主人様! 最初のコーナーにいってください!」

「ではですね、最初のコーナーにいってみたいとね、思います。最初のコーナーは」

「デュルルルルルルル、デン!」

「カニ早食い対決〜!」

「パフパフパフ!」


『カニwww』

『さすが北海道』


「はい、こちら見てください。カニ尽くしです」


 カメラを向けると雪の上に長テーブルと椅子が設置されており、その上には大量の捌かれたカニが並んでいた。ぐつぐつと出汁が煮えている鍋、七輪も用意されている。


『すげえ』

『うまそー』

『なんでこんな金かけてるんだよwww』


「はい、このカニをですね、全てね、先に食べた方が勝利となります。私とメル蔵がコンビを組みまして、あの、戦いますよ。じゃあゲストの二人出てきて!」


 黒男が呼び込むと画面に金髪縦ロール、シャルルペローの童話に出てきそうなドレスにグラサンをかけたお嬢様が現れた。


「オーホホホホ! 近所に住んでるマリ助ですわよー! カニを食べ尽くしますわー!」


 その後ろにシャルルペローの童話に出てきそうなメイド服に頭から紙袋を被ったメイドロボが現れた。


「オーホホホホ! マリ助お嬢様の助手のアンキモですわー! カニならわたくしにお任しゃんせられー!」


『マリ助きたー!』

『アンキモ! アンキモ! アンキモ!』

『ドレスで寒くないのwww』

『変なお嬢様言葉www』

『なんか林の中に幼女立ってない?』


「お、凄い。視聴者が爆増してる。やっぱりカニは数字持ってるね」

 

『アホwww』

『カニのおかげじゃねんだわwww』


「さあ! 黒男とメル蔵VSマリ助とアンキモでカニの早食い対決をしますよ。あ、ワトニーはお助けキャラですからね。ワトニーに食べさせてもOKです」


 二つのチームはそれぞれ座席に着いた。


「メル蔵!」

「はい!」

「スタートの合図よろしく!」

「いきます! 3、2、1、スタートです!」


 四人は一斉にカニを食べ始めた。


「よしよしよし。まずはカニしゃぶからいきますよ。ぐへへ」


 黒男は巨大なズワイガニの脚を持ち上げると鍋に張った出汁に浸した。数秒後に引き上げよく湯を切ってからポン酢をつける。ぷりぷりの身を高々と掲げ、口を大きく開いて咥え込んだ。ちゅぽんと口から引き抜くと半透明の腱だけが残った。

 

『やべえ!』

『飯テロかよ』

『カニ食いてえ!』


 メル蔵は茹でカニをカニフォークでホジホジしていた。身を剥がすと紙袋の隙間から器用に口に放り込む。


『やっぱ茹でカニが王道だよな』

『爪の部分が旨いんだよ』


 マリ助はカニ味噌が詰まった甲羅に身をほぐして入れよくかき混ぜている。そこに酒と醤油を一垂らしして七輪に乗せた。


『カニの甲羅焼きwww』

『おっさんかよwww』

『お嬢様が食べるものじゃないwww』


 アンキモはカニクリームコロッケにタルタルソースをかけて紙袋の隙間からバクバクと齧り付いていた。


『カニクリームコロッケwww』

『なんかアンキモだけメニューがおかしくない?』

『カニコロにはソースだろ』


 ワトニーはカニの脚にガリガリと齧り付いていた。


『ワトニー食えてないじゃんwww』

『誰かワトニーを気にしてあげてwww』

『てかこいつら一言も喋ってねえ!』

『おい! 喋ってくれ!』

『カニ無口www』

『なんなのこの配信www』


 しばらく無言が続いた後マリ助チームがカニを完食した。


「やりましたの! 完食ですわー!」

「さすがお嬢様ですわー!」


『おめ!』

『¥6000。やっぱマリ助だわ』

『おい貧乳がまだ食ってるぞ』


 黒男達は素知らぬ顔でカニを食べ続けている。


『なにこのコーナーwww』

『対決の意味がないwww』

『カニ食べたかっただけかいwww』


 黒男とメル蔵も完食するとしばらくゆったりとした時間が流れた。


『おいwwwなんか言えwww』

『寛いでんじゃん』


 黒男はお腹をさすりながらカメラの横を見た。


「あ、そろそろ? そろそろ? はい! では次のコーナーいきますよ」

「デュルルルルルルル、デン!」

「超伝導二択クイズ〜」

「パフパフパフ!」


『超伝導?』

『なにそれ』

『やっぱこのクマ、モンゲッタだよね?』


「あ、このクイズはですね、超伝導ソリ、あの、すごい滑るソリに乗りましてね二択の扉に突っ込むというクイズですね。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、この子はモンゲッタじゃなくてワトニーですね」


『バラエティの奴ね』

『外れの扉に突っ込むと水に落ちるやつwww』

『なんかセットの規模がデカくない?』


「あ、クイズで正解の扉に突っ込むと何もないんですけど、外れの扉に突っ込むと温泉にね、落ちます」


『ご褒美じゃん』

『なんなんそれwww』


「メル蔵!」

「はい!」

「ワトニーを温泉に入れておいて」

「はい!」


 黒男達は超伝導ソリ用のゲレンデの頂上にスタンバイした。ゲレンデの下には扉が二つありそのうちのどちらかが温泉だ。斜面を超伝導ソリで滑り落ち扉に突っ込む。


 初めに黒男が超伝導ソリに乗った。


「メル蔵!」

「はい!」

「クイズお願い!」

「問題! アーサー・C・クラークの小説『幼年期の終わり』にて地球にやってきた宇宙船に乗っていたのは次のうちどちら? A『オーバーロード』、B『オーバーウォッチ』」


『知らねえwww』

『簡単やん』


 黒男は超伝導ソリで斜面を降り出した。


「フハハハハ! 答えばBだ!」


 黒男はBの扉に突っ込んだ。ソリが激突した勢いで紙製の扉がはち切れ、そのまま温泉へと突入した。


「ふーい」黒男は温泉に浸かったまま動かなくなった。その横をワトニーがぷかぷかと泳いでいる。


『また寛いでるwww』

『白ティーで温泉入るなwww』

『ダメだこの貧乳』


「次はわたくしですわー!」マリ助が頂上にスタンバイした。

「問題! オースン・スコット・カードの小説『エンダーのゲーム』で人類が戦っていた相手は誰? A『フォーミック』、B『バガー』」


『わからんて』

『何百年前の小説だよ』


 マリ助はソリを走らせ始めた。


「簡単ですわー! 映画を見たから答えを知っていますわー!」


 マリ助はAの扉に突入し、そして温泉に落ちた。


「何故フォーミックじゃないんですのー!?」

「映画版はフォーミックだけど小説だとバガーなんだよね」温泉で寛ぎながら黒男が補足した。


『マリ助の温泉きたー!』

『うおおお!』

『やったぜ!』


 アンキモがスタンバイした。


「問題! スタニスワフ・レムの小説『ソラリス』において惑星ソラリスに一体だけ存在する生物とは何? A『海』、B『グミ』」


『グミってなんだよwww』

『グミは無いだろwww』


 アンキモは滑り出した。迷わずBの扉に突っ込む。もちろん温泉に落ちた。


「温泉最高ですわー!」


『正解する気ないだろwww』

『紙袋がべしょべしょwww』

『エロいwww』


 メル蔵がソリに乗った。


「最後は私ですので自分で問題を出します! ジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』の主人公の勤務先はどこ? A『真理省』、B『がんばりま省』」


『問題がひどいwww』

『雑ぅ!』


 メル蔵は滑りだした。


「私は頑張る人を応援したいのでこちらを選びます!」


 メル蔵はBの扉に突っ込み、当然温泉に落ちた。


「いらっしゃい」黒男が寛ぎながら迎えた。


『全員不正解!』

『温泉に入りたかっただけだな』

『黒男そこ代われ』


「あー、あったけー。疲れが癒されるわ」

「ゲレンデで温泉入れるとは思いませんでしたわー」


 四人はしばらく温泉を堪能した後、着替えをした。ワトニーの毛皮もドライヤーでしっかりと乾かしてやった。


『今回の配信クソ長いwww』

『これどんだけ金かかってんの』

『ワトニーの毛皮がツヤツヤになってる』


「はい〜、では次のコーナーいきたいとね、思いますよ。あ、ロマンシング・ベガさん、お金はね、今回スポンサーがついていますから、大丈夫ですよ」


 黒男達は再び超伝導ソリに乗り込んだ。ゲレンデの中腹までソリで上がった。


「はい! はい、では次のコーナーにね、いってみたいと思いますよ」

「デュルルルルルルル、デン!」

「超伝導カーリング〜!」

「パフパフパフ!」


『また超伝導www』

『あれ? 今空になんか飛んでなかった?』

『なにあれ?』


 その時ゲレンデに巨大な影が現れた。ズンという大きな音が鳴り響き周囲を振動させた。黒男達はその方向を見た。そこには全長十八メートルの巨大なクマが立っていた。そのクマは青と白の宇宙服を纏い太陽の光を美しく反射している。


『なにこれCG?』

『いや金かけすぎだろ』

『¥9000。これ夕方のアニメに出てくるジャイアントモンゲッタじゃん』


 ジャイアントモンゲッタ、略してジャイゲッタは腕をブンブンと振り回しながら屈伸をしている。スピーカーから低い声が発せられた。


『モンゲッタ〜見つけたよ〜』


 ジャイゲッタは黒男達へ向けて巨体をいからせ歩き出した。


「あ、皆さん、これはですね、見事ジャイゲッタがね、我々の罠にかかりました。今から戦いますのでね、あの、戦いをね見てもらえたら、嬉しいですね。あ、ロボ谷翔平さん、ロボチャットありがとうございます。メル蔵!」

「はい!」

「ジャイアントモンゲッタをジャイアントぶっ壊れったにしてやるよ!」

「はい!」


(軽快なBGM)

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