「待ち合わせの階段」(デートリハ)

帆尊歩

第1話  デートリハ

美智さんとの初めてのデートとその反省会


「別に、お茶代を出して欲しいと言っているわけでは無いんです。

嘘でも出すそぶりでもしてくれれば、私だって遠慮します。

問題はそいう常識的なことをしていただけないことが問題なんです」

見合い後。

初めて二人でお茶に行き、そう言われて自分の部屋に帰って来たときだった

二十歳くらいの女の子が僕の部屋にいた。

「誰だ」という言葉は変に弱々しい。

その女の子がとんでもなく可愛かったから。

いや、ただ可愛いだけでは無い何かがあった。

「お帰りなさいパパ」

「パパ?」ああそうか、だから余計にかわいいのか。

イヤイヤ、僕は自分の考えを否定するように頭を振った。僕は見合いの後、初めてお茶をしてきて帰って来たところだぞ。

「ママとの初デートうまくいきましたか?」あり得ない話だが、僕はこの女の子が本能的に娘だと認識した。

ということで今日のデートのことを話す。

「何でお茶代くらい出すって言わないんですか、ママが素直におごられるわけないじゃないですか」

「いや、そんな事、知らないし」

「ああん、しかたがない、私が待ち合わせの階段に戻します。今度はうまくやってください」


美智との二回目のデート


「ごちそうさまです。なんか僕が出すつもりだったのに、お茶代ださせちゃって、今度の食事は絶対に僕が出します」

「いえ、なら、高いところはやめてくださいね、いつもの行きつけのところで結構です」


三回目の反省会

「パパ、いくらママが安いところと言ったからってラーメン屋は無いですよね」

「だって行きつけって言うからさ」

「だからラーメンですか。ああ、もう良いです。もう一度待ち合わせの階段に戻すのでお茶からやり直してください」


三回目やり直し

「素敵なお店ですね、こじんまりしているのにとてもおいしい」

「上司に教えてもらったんです、ここのオーナー、有名ホテルでシェフやっていたらしいんですよ」

「どうりで」

「それに、すごくリーズナブルなんです」

「すごいですね。次はどこかに遊びに行きたいですね」

「じゃあ。僕が良く行く遊び場に行きませんか」

「はいぜひ」


四回目反省

「ああああ、どういうことよパパ。結婚する気があるの。なんでよりによって競馬場なんて連れて行くのよ。いいパパとママがこのお見合いで結婚してくれないと、あたしが生まれてこないのよ」

「いや本当の僕を見せた方が良いかなって」

「いや、見せすぎでしょう。これで結婚が壊れたら、どお責任とってくれるのよ。あたしにだって夢があるんだからね。この世に生まれて、あんなこと、こんなこと」

「お前が生まれたら、お金がかかりそうだな」

「そんな事は覚悟してもらわないと困りますっ。とにかくもう一度あの待ち合わせの階段に戻すから、本当に、本当に今度こそ、うまくやってよね」

「またお茶からやるの?」

「当然でしょ」


四回目やり直し

「海、素敵ですね」

「ここ好きなんです。本当はもっと楽しいところにつれて行ってあげられれば良いんですけど。でもどうしてもこの景色をあなたに見せたかった。僕は辛いときや、悲しい時いつもここに来ていました。それで救われた、だからその風景をあなたに見てもらいたかった」

「今度うちに遊びに来ませんか。まだ正式に両親に紹介すると言うことでは無いんですが。私の家庭を見ていただきたくて」

「喜んで」

「でもあそびに来るだけなんで、気楽に来てくださいね。あんまりちゃんとしたかっこして来たらだめですよ」

「はい」


五回目反省

「ちょとパパ、いい加減にしてよね、結婚する気があるの。冗談じゃないわよ。あたしは悲しいよ、父親がこんなに常識がないなんて」

「だって。普段着でって」

「だからって、おじいちゃん、おばあちゃんの前に穴あきジーンズのボロボロのTシャツってなに。パパは馬鹿なの、ママの口車にのって。

本当に勘弁して欲しいんだけれど。

もう一度あの待ち合わせの階段に戻すから、本当に、本当に今度こそちゃんとやってよね。あたしが、生まれなくなっちゃうの。

パパは娘を原宿とディズニーランドに連れて行きたいと思わないの。

ポップコーンを買って。

砂羽、何でも好きな物買ってやるぞって言いたくないの」

「お前の名前は砂羽って言うのか?」

「そうだよ。パパとママが三日徹夜で考えたんだよ」

「そうなんだ」

「って感心してないでよ。パパがここでしくじれば、それもパーよパー」

「パパだけにパーか」

「面白くない!そんなくだらないこと言ってないでよ。

とにかく、もう一度あの待ち合わせの階段に戻すから。」

「えー。また最初からやるのか」

「パパがそいうことを言う?全部自分で蒔いた種でしょ。いい加減にしてよね」

「はい。わかりました」


まあいいか、僕はあと何回、この生まれてくるだろう砂羽と、こんな言い合いが出来るのだろう。

やっぱり娘は可愛いな。

いや独身だからこそ、そう思えるのかな。

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「待ち合わせの階段」(デートリハ) 帆尊歩 @hosonayumu

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