最終話


「ナルティと女は保護したよ。もう署の方へ着いてる頃だ」


 警官隊がパーディントンを連行した後、私は例の刑事と一緒に二人が隠れていた屋敷の庭で話していた。


「鉱山会社へは連絡してくれたか?」


「むろん、部下に言っておいたよ」


 刑事はタバコに火を点けた。


「それにしても、よくパーディントンを生かしといてくれたな。見直したぜ。助かる」


「あんたに礼を言われるとはね」


 私は頬の傷をなぞって言った。


「ただ殺したんじゃ、ランドールが許しちゃくれないからな。奴には死ぬまで償わせてやる」


「その点なら心配ない。ナルティたちの証言とこれだけの証拠があれば、必ずムショへぶち込めるさ」


「ねえ、あたしも証言してあげるって言ったわよね」


 声がしたので振り返ると、門のところにメイファが立っていた。


「そうそう、忘れるところだった。彼女がここまで案内してくれたんだ」


「知ってる。さっき頼んでおいたんだ」


 私は刑事と一緒に彼女の方へ歩み寄った。


「シェリーの友達だよ」


「それはそれは。ランドールといいシェリーといい、友達ってのはありがたいもんだな。改めて、ご協力感謝致します」


「別にあんたに協力したわけじゃないわ。あたし、警察って大嫌いなの」


 刑事は私の方へちょっと肩をすくめてみせた。


「さてと、嫌われ者は退散するとしようか。今夜は忙しくなりそうだしな。そうだ、お前の車も運んでおいたぞ。パトカーで送られるんじゃ、お嬢さんも嫌がるだろう」


「待ってくれ。俺が街中で撃ち合った件はどうなる?」


 私はパトカーへ乗り込もうとする後姿へ訊ねた。


「お前が撃ち合ったって?」


 刑事は片目を瞑った。


「そりゃ何かの間違いだ。奴らは仲間割れをして勝手に撃ち合ったのさ」


 パトカーは静かに走り去った。


 その姿が見えなくなるまで見送ってから、私はメイファをラングラーへとエスコートして行った。


 ひしゃげた車体が、銃撃戦の凄まじさを物語っている。


「さあ乗ってくれ。街まで送るよ……パトカーじゃないぜ」


 穴だらけのドアを開け、目を丸くしている彼女を助手席へ乗せると、私はゆっくりとラングラーをスタートさせた。


「ねえ、これからどうするの?」


 メイファは開いた窓から流れ込む風に、褐色の髪を泳がせている。


「さてな、しばらくはこの街にいるとしようか。なんせ、一週間分の宿代を前払いしてあるんだ」


「じゃなくて、あたしが言ってんのは街へ帰ってからの話」


「それはもう、キミの店だろう。生きて帰ったらおごってくれる約束だからな」


「とびきり上等なのをね」


「死んだ友と、新しい友のために」


 メイファの笑い声が、澄みきった青空へと吸い込まれて行く。


「でも、ジムがOKするかしら?」


「大丈夫。キミのためなら彼も文句は言えないさ」


 私は【レッドドラゴン】へ向け、ラングラーの速度を上げた。

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山を歩けば死体に当たる 令狐冲三 @houshyo

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