第3話 ちょうどよかった②


 口に煙管を咥えどこか気怠そうな雰囲気を放つ美女。


 彼女の名前はアイリス・ベルズ。


 歳はだいたい俺と同い年くらい。


 この『黄金の演奏ゴールデン・ライブ』のギルドマスターであり、幾つもの冒険者パーティを有名配信者へと育て上げてきた敏腕プロデューサーでもある。


 俺とはもう長い付き合いで、今や腐れ縁と言ってもいい。


「む、レトルじゃないか。ウチは受付嬢のナンパ禁止だぞ」


「そんなことしてる風に見えるか? 俺とエイナちゃんは一回り近くも歳が離れてるってのに……」


「そ、そうですよ! レトルさんにナンパなんてされたら、私……はわわ!」


 顔を赤くするエイナちゃん。


 なんだろう、やっぱり若い子はナンパみたいな出会いにでも憧れるのだろうか?


 おっさんにはよくわからん……。


「それで何用だ。暇してるなら茶でも付き合うか?」


「いいや、遠慮しとく。今日は冒険者証明書を返しにきたんだよ」


「冒険者証明書を……だと?」


 アイリスも俺の発言を聞くや、眉をひそめる。


「冒険者を辞めようっていうのか? なにがあった?」


「パーティから追放されたんだ。それに俺はもう今の冒険者界隈についていけない。ここらが潮時だと思ってな」


「近頃お前が所属していたパーティは『剣帝ちゃんねる』だったか? まったく、人の価値がわからぬ奴らめ……。とりあえず奴らのチャンネルは『アドベンチャラーズ』からBANするか」


「やめてやれ。アイツらだってこの世界で生き残ろうと必死だっただけだ。それに俺が動画内で不人気だったのも事実だし」


「……相変わらず優しい奴だな。まあいい」

 

 アイリスは階段を伝って二階から降りてくると、俺の傍までやって来る。


 そして口から煙管を外し、


「だが正直、ちょうどよかった。こちらとしてもお前個人に頼みたいことが出来ていたのでな」


「俺個人に?」


「どうせ冒険者を辞めても当てなどないのだろう? 証明書の返上を急ぐ前に、まずは話だけでも聞いてみないか?」


 アイリスの執務室まで通された俺は、ソファに腰掛ける。


 彼女は自分の執務机にどかっと座り、俺たちの下にはエイナちゃんがお茶を運んできてくれる。


「で、俺に頼みたいことってなんだよ? 先に結論を頼む」


「うむ、なれば結論から先に話そう。レトルよ――〝魔法少女のトレーナー〟となれ」


「……はい?」


 本当に結論から――いや結論のみ話された俺は頭の上に?マークが三つほど浮かぶ。


 魔法少女の? トレーナーに? なんで?


 まるで意味がわからなかった俺は目頭を押さえ、


「えーっと……すまん、やっぱり順を追って話してくれるか……?」


「最初からそう言え。では経緯から話すぞ」


 アイリスは机の中から紙の束を取り出し、それを机の上に置く。


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