第2話 ちょうどよかった①
――冒険者ギルド『
これまで俺が所属してきた場所で、色々と思い出深いギルドだ。
俺が『
ちらほらと冒険者がいる以外は、カウンターの向こうでまだ仕事をしている受付嬢の姿があるくらい。
そんな静かな空気の中で俺がカウンターに向かうと、一人の受付嬢がこちらに気付いてくれた。
「あ、レトルさん。こんばんは、こんな遅くまでご苦労様です!」
俺を迎えてくれたのは、明るい笑顔がトレードマークのエイナちゃん。
彼女がこの『
「エイナちゃんもお疲れ。今日は夜勤かい?」
「はい! 今日はやらないといけない書類整理がたくさんあるので……」
「そっか、ギルドの職員も大変だ」
「いえ、冒険者さんほどでは。それでレトルさん、今日はどんなご用ですか?」
「ああ……冒険者証明書を返上しようと思ってね」
俺がさらりと言うと、途端にエイナちゃんが目の色を変える。
「は……はあああああああぁぁぁ!? 証明書の返上って、ど、どうしてですか!?」
「実はついさっき、パーティから追い出されちゃってさ。正直もう年齢的にも身体が衰え始めてるし、そろそろ引退しようと思って」
「なにを仰いますか! レトルさんの身体は衰えてなんていません! なんなら今くらいが男としては食べ頃――ではなく絶頂期なはずです!」
「う、うん……? まあ身体はまだ動くにしてもほら、最近の冒険者は動画配信してナンボの人気商売になっちゃっただろ? おっさんはもうついていけないよ」
そう言うと、エイナちゃんは「むぅ」と膨れた顔をする。
実はこれまでも度々彼女には「最近の冒険者の在り方にはついていけない」みたいな愚痴をこぼしていたおり、ちょっとした相談相手になってもらっていたのだ。
その都度彼女は俺のことを励ましてくれたが、まだまだ若い彼女にこの感覚はわからないだろう。
「……ともかく、レトルさんの証明書は受け取れません。レトルさんは冒険者こそが天職なんですから」
エイナちゃんは断固として受け取らない姿勢を見せ、こちらに背を向けてくる。
「私は、レトルさんが冒険者でいるためにどれだけ努力してきたのかよく知っています。動画や撮影に関してわからないことがあればすぐ聞きに来てくれましたし、投稿される動画には映らない縁の下の力持ちとしてパーティに貢献していたことも知ってるんですから」
「エイナちゃん……」
「レトルさんは冒険者を続けるべきなんです。でないと、きっと後悔してしまいます」
「そうは言ってもな……俺はソロでじゃ人気なんて獲得できないし、今時はクエストをこなせるってだけじゃ食っていくのもしんどい。気持ちは嬉しいけど……俺はここまでだ」
「わ、私がなにかお手伝いします! そうです、新しいパーティの斡旋とか――!」
「――なんだ、騒がしいぞエイナ。揉め事か?」
俺たちが話していると、建物の二階から一人の女性が姿を現す。
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