【検証】パーティから追放されたおっさんが《魔法少女》を育成してみた結果 ~Sランクパーティを追放されて冒険者を辞めたいのに、ギルドが『魔法少女のトレーナー』になってと引退させてくれないんだが~

メソポ・たみあ

第1話 時代は変わった


「おっさん、アンタ今日でウチのパーティから追放な」


 酒場の中で、その男は俺を脈絡もなく言った。


 彼の名前はトバイリー。


 俺の所属するSランクパーティのリーダーだ。


 まだ麦酒を飲んでいる最中だった俺ことレトル・ナルニーは、いきなりの追放宣言に目を丸くする。


「追放って……なんで?」


「決まってんだろーが! アンタがチャンネル登録数・・・・・・・・の妨げになってるからだ!」


 怒りのままドン!とテーブルを叩くトバイリー。


 ああ……出たよ、その言葉。


 ――チャンネル登録数・・・・・・・・


 もううんざりするほど聞いた響きである。

 

 続けて、トバイリーの隣に座る女冒険者ミミカが小型端末『スマーホ』をポーチから取り出し、俺に見せつけてくる。


「これ、アタシたち『剣帝ちゃんねる』の今の登録者数。現在29万人で、30万の大台まであとちょっとなの。それなのに最近は登録数が伸び悩んで、オマケに各動画の視聴数も下がってきてる。……なんでかわかる?」


「……そのふざけたパーティ名のせいじゃないのか?」


「パーティ名は関係ないでしょ。それに最近はこういう取っ付きやすい名前にしないと避けられちゃうのよ」


「ああそうかい。じゃあアレか? 俺のせいだって言いたいのか?」


「ええそう。おっさんは顔も装備も動画映えしないし、視聴者に対するサービスってものがないわ。パーティメンバーの中でも人気は最低。もう完全に邪魔なの」


 ミミカの言い草にため息が漏れる俺。


 ――時代は変わった。


 かつて冒険者は身一つで故郷を飛び出し、危険を顧みず腕っぷし一つでダンジョンに飛び込み成り上がる、そういう存在だった。


 モンスターと戦って金を稼ぎ、町に戻ってきたら酒を飲んで仲間と笑い合う……そんな毎日を送るのが、俺の生きた時代の冒険者だったんだ。


 でも今は違う。


 魔導小型端末『スマーホ』と冒険者用の動画投稿プラットフォーム『アドベンチャラーズ』が確立したことで、冒険者の稼ぎ方は一変した。


『スマーホ』でダンジョン攻略や日々の様子を撮影し、動画として投稿。


 動画には各ギルドの広告が張られ、動画の再生数に応じて広告料をパーティ冒険者に支払う仕組みとなっている。


 これにより動画が再生されればされるほど莫大な広告料が発生し、一躍冒険者のライフワークと化したのだ。


 つまり冒険者=配信者となったのだ。


 人気冒険者パーティともなれば、ひと月で数億ギルもの大金を稼ぐのだとか。


 正直な話、まともにクエスト受注なんてしていたら絶対にそんな金は稼げないだろう。


 ちなみに最近は「モンスターをペットにしてみた」とか「ダンジョン攻略実況」みたいなジャンルが人気らしいが……俺にはよくわからん。


 そんなご時世の中で、俺が所属するパーティ『剣帝ちゃんねる』はチャンネル登録数29万人のSランクパーティ。


 動画配信が冒険者の主業務と言っても差し支えなくなった今では、チャンネル登録数によってパーティのランクが決まる。


 29万人という数字は文句なしのSランクで、パーティの人気を十二分に証明していると言っていい。


 そしてSランクパーティともなれば、メンバーそれぞれにファン――通称〝信者〟が付くのだが……俺はその〝信者〟がとても少なかった。


 故に不人気であり、メンバーに相応しくない。


 ミミカの言いたいことも理解はできた。


「……一応言っておくがな、俺は俺なりにずっとパーティに貢献してきた。忌憚のない言い方をさせてもらえば、このパーティで一番実力があるのは俺だろう。実際、これまで皆の窮地を何度も救ったはずだ」


「そうだな。そいつは否定しねーよ。だけどな、冒険者はもう強いだけじゃ食っていけねーんだよ、おっさん」


「…………」


 トバイリーの一言に、俺は言い返せなかった。


 ……俺が冒険者を始めた15年前は、世の中こんなじゃなかったのにな。


 気付けば俺ももう32歳。


 いつの間にか、すっかり世間についていけなくなってしまった。


 自分がロートルであることは自覚してたけど……いい加減潮時なのかもしれない。


「……そうかい、わかったよ。なら今日限りで俺はパーティから出て行く」


「おう、そうしてくれ! もしかしたらソロ冒険者として動画投稿を始めれば、まだワンチャンあるかもな? ギャハハ!」


「ちょっとトバイリー、おっさんがソロで人気取れるワケないでしょ。アハハ!」


 席から立ち上がる俺の背中を、小馬鹿にして笑い合う元パーティメンバーたち。


 そして酒場から出た俺は、冒険者ギルドへと向かう。


 俺の〝冒険者証明書〟を返上するために。


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