第2話

夕飯を済ませ店に戻る。

カーテンの隙間から差し込む月明かりを浴びる。

私の身体が白銀のヴェールに包まれる。

目を閉じて瞼の赤を感じる。

私の身体からヴェールがスルリと消える。


「まるで聖女だな、お嬢ちゃん。」


聞き慣れた声がした。

ゆっくりと瞼を押し上げる。

ヴォルフが月明かりを遮り、私に漆黒のドレスを纏わせる。


「荷物を持ってきたぞ。」

「いつもありがとう。助かるわ。」


大きな台車の中身を店の中に運んでくれる。

優しく丁寧に一つずつ積み上げられていく。


「まさか、お嬢ちゃんがこんなのを欲しがるとは誰も考えやしねぇな。」


私は妖艶な笑みを浮かべて運賃を渡す。

ヴォルフは小さく笑って店を後にした。

私はナイフを握り、刃を荷物に滑らせる。

血と肉の独特な匂いに、猫や烏が私の周りに集まってくる。

削いだばかりの肉を地面に置くとあっという間に消えて無くなった。

骨の周りの肉を綺麗に削ぎ落とす。

血や細かい肉片は洗って落とす。

丁寧に愛情を持って。

私は人間が好きだ。

人骨はもっと好きだ。


私が人骨を好きになったのは二年前。

私の愛する人が失くなった。

片時も離れたくなくて埋葬しなかった。

やがて肉は腐り、蛆が湧き、蝿が集った。

残ったのは骨だけだった。

私は骨を生前と同じように愛した。

骨はその人物が存在した証。

ゆらりとネックレスが揺れた。


綺麗に洗った骨を砥石で削り、形成していく。

複雑な形状は、いくつかの骨を繋ぎ合わせて作る。

骨同士の接着には粘着性の液体を含む、パネロの葉を使用する。

老爺の大腿骨は持ち手に、脛骨は刃に、尺骨と橈骨は軸に使用し、不屈の精神を宿した。

青年の脛骨は持ち手に、胸椎は刃に、尾骨は頭に使用し、燃え盛る情熱を宿した。

少女の上腕骨は持ち手に、大腿骨は刃に、肋骨は装飾に使用し、鋭い対抗心を宿した。

赤子の胸椎は持ち手に、尺骨と橈骨は刃に使用し、無垢さを宿した。

骨には生前の念や気質が宿る。

赤子や子どもの骨は念が薄く、どんな人でも扱いやすい武器になる。

一方、成人や老人の骨は念が強く、念が強いほど扱いにくくなる。

武器の念と自分の願いや気質が一致すると、異常なほどの力を発揮する。

仕上げに目の細かい砥石で磨き完成する。

武器は朝陽に照らされ、美しい光を放った。


市場全体が朝陽に包まれるほど太陽が昇った頃に、ダストは開店する。

開店と同時に人々が集まってくる。

新作を一目見ようといつもより多くの人が押し寄せていた。

その中にいたヴォルフが、人の波を掻き分け私に耳打ちした。


「こいつにブレードをつけてくれ。」

「お代と契約を結んでくれるね?ブレードを付けて起こったことは全て自己責任で。」


ヴォルフが頷いたのを確認し、昨日買った武器を受け取る。

店の奥でブレードを付けて丁寧に包む。

お代を受け取り武器を渡す。


「ありがとな。」

「またのお越しをお待ちしてます。」


ヴォルフは人の波に呑まれていった。


どんなに平和な国でも小さな争いは起きる。

その結果人が死ぬこともある。

需要がある限り武器屋は存在し続ける。


武器屋ダストは今日も営業中。

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武器屋ダスト リーア @Kyzeluke

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