武器屋ダスト
リーア
第1話
市場―――それは人の興味をそそる場所。
エレーネ王国は加工産業が盛んで、市場がたくさんある。
中心地オルグには、一番大きい市場がある。
そこでは毎日他国の旅人や商人が行き来し、小国を壊滅させられるほどの金が動いている。
オルグの市場は一番大きいだけあって、店の入れ替わりが激しい。
長期間営業している店は少なく、一ヶ月残ればいい方だと言われている。
武器屋ダストは数少ない長期間営業している店だ。
「武器はいかが?」
百合のような優雅さと彼岸花のような儚さが混ざった声で人々を誘惑する。
声の主は武器屋ダストの店主、エリザベート。
私は素材を加工し、武器として売っている。
この世界には魔物や魔獣、魔王なんてものは存在しない。
動物を狩る道具は武器屋ではなく、狩猟道具屋が売っている。
つまりこの世界では武器は一切必要ない。
しかし、人々は少々値の張る武器を欲しがり買っていく。
武器とは言っても、人を切れないようにブレードをつけていない。
どのような目的で人々が武器を買うのか、私は知らない。
何故欲しくなるのか、それは知っている。
素材の硬度だ。
硬度は鉄と同じかそれ以上だ。
非常に硬く、鉄と同じ硬度の素材は少ない。
人は珍しい物や見たことのない物に興味をそそられる。
みな好奇心の赴くままに買っていく。
「よう!嬢ちゃん。新作が出たんだって?」
「えぇ。出来立てですよ。」
新作が出ると必ず見に来る男、ヴォルフだ。
右腕に小型の武器を装備している大男で、ダストのお得意様だ。
鋭い目付きで品定めをする。
彼が買っていくのは、人を選ぶ扱いにくい武器だけ。
彼の目利きは一流だ。
「どれも欲しくなっちまうな。嬢ちゃん、これを頼む。」
「毎度お買い上げありがとうございます。」
武器を丁寧に布で包み、お代と交換する。
彼は嬉しそうな目をして受け取り、機嫌良く踵を返した。
「あのっこれ何で出来ているんですか?」
声をかけてきたのは旅人らしき少年だった。
少年は目を輝かせていた。
この少年のように素材を知りたがる人は多い。
市場で人気の商品が見たことのない素材で出来ていたら、知りたくなるのは無理もない。
少年の耳元に顔を近づけ囁いた。
「ひ、み、つ」
私は少年に艶かしく微笑んだ。
少年は頬を珊瑚色に染め、背中を向けてしまった。
からかいすぎてしまったかな、と反省しつつ接客する。
太陽は傾き夕陽へと表情を変える。
辺り一面を紅緋色に彩色し、人々の心を高揚させる。
この時間は一日の中で武器が一番売れる。
「お買い上げありがとうございます。」
太陽が沈み、濃藍の中にポツリポツリとランタンの明かりが灯る。
オルグは一瞬の内に南極の夜空になった。
飲食店街の方では宴が始まっていた。
宴が始まると人々は飲食店街に流れ、ほとんどの店は店じまいをする。
私も店じまいをして、夕飯を食べに行く。
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