涙零れる紅い空
神木駿
夕焼けに染まる君の顔
学校の帰り道、彼女は一人でベンチに腰掛けている。
「どうしたん?」
俺は彼女に聞いた。
いつもならとっくに帰っている時間なのに。
俺がそう思っていると彼女は顔を上げた。
涙で濡れた彼女の顔は夕焼けに染まる。
彼女は慌てて服の袖で涙をぬぐう。
「あはは、いやなとこ見られちゃったな」
彼女は嘘の笑顔を貼りつける。
俺は気づかないふりをして視線をそらす。彼女のそんな顔は見たくない。
紅く色づく町並みが、俺の心のざわめきをより一層引き立てる。
俺は視線を彼女に向けぬまま隣に座る。
「それで……どうしたん?」
俺はもう一度聞いた。聞きたいわけじゃない。
それを聞くのが俺の役目なだけだ。
「私……また振られちゃったよ〜」
彼女はおどけた笑顔で僕に話す。
「そっか……それで今度は誰に告ったんだよ」
いつもと同じトーン同じ表情をしたまま彼女に聞いた。
俺が動揺しているのは、絶対に悟られないようにしないといけない。
「弓道部の有馬くん」
「有馬かよ。まぁあいつイケメンだしいいやつだけど……」
弓道部随一のイケメンと言われ、有馬が弓を引いている姿を見て恋に落ちる女子は少なくない。
「あいつ狙いの子は相当いるだろ。倍率めっちゃ高いじゃん」
俺は普段の有馬の様子からなんとなくそう察していた。
「でもさ!そうだけどさ!恋は理屈じゃないんだよ!恋した事ない駿にはわかんないよ」
彼女は前のめりになって俺に顔を近づける。
俺は驚いて少し顔を引く。
「あぁ、分かんねえよ。でもさもう少し考えてから動いてもいいんじゃねぇか?」
俺は自分の言葉を嘘で塗り固める。
つくづく嫌になる。彼女みたいにすべて言えてしまえれば楽になれるのに。
俺はガチガチに縛った箱を、更に頑丈な箱でしまい込む。
「そんなこと言われても、言葉にしないと伝わらないし……」
彼女はいつの間にか元の位置に戻って、また下を向いている。
「まぁ、仕方ねぇよ。有馬はお前の運命の人じゃなかったんだ」
俺は励ますつもりでロマンティックなことを言った。すると彼女は
「駿が運命とか言ってる。ふふっおもしろいね」
「笑うなよ、俺も言って恥ずかしくなったじゃねぇか」
彼女はやっと本当の笑顔を見せてくれた。
やっぱりそっちの顔のほうが断然いい。
「あ~あ、何かスッキリした!駿が変なこと言うから」
「ハハッ、そうかよ。なら良かったよ」
彼女は立ち上がり、俺の前を歩き出す。
「ほら、行くよ!」
手招きする彼女に呼ばれ、俺も立って歩き出す。
辺りはいつの間にか暗くなって、月明かりが彼女の笑顔を照らす。
ガチガチに縛っていたはずの箱がほんの少しだけ開いていた。
「行くよってゆっくり行こうぜ。月があんなにきれいなんだからよ」
「え〜?私には星の方がきれいに見えるな〜」
俺はそう言ってはしゃぐ彼女の背中を追いかけた。
涙零れる紅い空 神木駿 @kamikishun05
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