コンテスト用

@Roman97

異世界チャレンジ

「よしっと、入力完了。メモの方もバッチリ」


 陽春の候、日の光が差す部屋で、若者がスマホを操作している。


 クレア・モンブラン。

 日本人とフランス人のハーフで、先月15歳になったばかりの女性。


「再確認もオッケー。そいじゃ、ポチッとな」


 スマホ画面に表示されている決定を押すと、画面が切り替わってQRコードが表示される。


「あとは、これをセンターに持って行くだけですね」


 クレアは椅子から立ち上がり、部屋を出て、1階に向かう。

 クレアの家は飲食店を営んでおり、1階には客用スペースがある。厨房では、男性が仕度をしている。クレアは、その人に声をかけた。


「それでは、お父さん、行って来ますね」

「ボンボヤージュ、クレア。ムチャしてケガするなよ」

「わかってますって。それでは」


 クレアは家を出ると、最寄り駅に向かう。



………

……



 駅--

 かつては改札があった場所には何も無い。誰もが気楽に駅の中を歩き回っている。

 街の中と駅の中を行き交うのは、人間だけではない。古今東西の童話や神話などに出てくる異種族のような姿をした者たちもいる。

 昨今の駅には線路は一本も無い。代わりに、複数の門が横一列に並んでいる。

 クレアは、そのうちの一つ、【国分寺駅方面】 と書いてある門に近寄り、手前にある改札を通り、そのまま門も通った。

 すると景色が一変し、【国分寺駅】と書いてある看板があるホームに出た。

 クレアは鼻唄を口ずさみながら、コンコースに向かう。

 国分寺駅のコンコースにも門がある。ホームにある門よりも少し豪華で、【来界門】と書いてある。

 門の手前にはゲートがあり、武装した警備員たちが門を守っている。

 クレアはカードを取り出して、それをゲートのスキャナーにかざした。

 するとゲートの戸が開いた。

 警備員たちは、それに反応するも、ゲートを通ったクレアを取り押さえようとはしない。

 クレアは、来界門を通った。

 またもや景色が一変して、別の施設内に出た。

 看板には、【ステライトシティ:国分寺駅支部】と書いてある。

 クレアはシティ側のゲートも通り、その先にある案内板を確認する。

 シティは上空から見ると、電源ボタンのマークみたいな形をしている。

 クレアが今いる場所は、マークの縦線部分の端の方。マップには、【来界エリア】と書かれてある。

 マップによると、真っ直ぐ進むと橋があり、渡ると曲線部分に出る。


「登録センターは、橋の向こう側ですね」



………

……



 ステライトシティ:国分寺支部は、完全室内型複合施設。所々に外へと通じる自動ドアがあり、飲食店や本屋などが両端に並んでいる。

 橋は近代的なデザインで、天窓と窓に覆われている。

 クレアが目指す目的地は、橋を渡った先の目の前にあった。

 左右対称の施設の看板には、【チャレンジャー登録センター】と書いてある。


「いらっしゃいませ。チャレンジャー登録センターへようこそ」


 受付の人たちが笑顔で迎える。


「すいません。登録しに来ました」

「かしこまりました。公式サイトでの登録はお済みですか?」

「あ、はい」


 クレアはスマホに表示されているQRコードを見せる。


「確かに。それでは、そちらと身分証明書をご提示ください」

「はいはい」

 クレアはマイナンバーカードを見せる。

「これで大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません。それでは登録いたしますので、少しの間お借りいたします」


 受付の人はカードとスマホを受け取り、パソコンを操作する。


「お待たせいたしました。登録、完了いたしました」


 受付の人はカードとスマホを返却する。


「それでは、こちらをお受け取りください」


 続いて、タブレットをクレアに見せる。


「こちらで、お客様が望む姿と力を選択してください」

「かしこまりました」


 クレアはタブレットを受け取り、試しに電源ボタンを押してみた。

 するとマネキン人形のようなアバターが、タブレットの画面に現れた。画面の右端には、メニューバーがある。

 クレアはソファーに座り、メニューバーを開いた。


「まずは種族の決定から」


 メニューバーの【種族】を押すと、種族名の一覧表が表示された。

 試しに【フォーレン】を選択すると、アバターがエルフの容になった。

 クレアは、【スティーラ】を選択する。

 すると今度は、フランケンシュタインのような姿になった。

 続いて、【性別】を選択。その次は【年齢】を入力して、それから【諸相】を選ぶ。

 【髪】、【肌】【瞳】、【目つき】【顔つき】、【背丈】、【胴の長さ】、【脚の長さ】、【腕の長さ】、【手】、【足】、まるでゲームのキャラメイクのような項目名が表示される。


「う~む」 


 クレアは真剣な表情で操作する。



--数分後--



「よしっと、再確認完了。次は望む力っと。えっと、カテゴリーを1つだけ選んで、それの関するランク1スキルのの中から3つまで選ぶっと。武器系と格闘系のスキルは、熟練度で習得できるんでしたっけ」


 クレアは【衛生】を選択して、スキルを3つ選んだ。


・キュアラ(HP回復、コスト3)

・ドクトル(毒ランク1を治療、コスト3)

・HP回復量増加1


「これで良しっと。いよいよ最後、望む場所。すなわち、スタート地点となる拠点を選ぶっと」


 クレアは【ショコランダ王国】を選んだ。


「よしっと。これで、決まりっと」


 クレアは【決定】を押した。

 すると、OKという大きな文字が現れた。


「セッティング、終わりました」

「それでは、魔人・メイク・マシーンがある施設に向かってください。奥にある通路から施設へ行けます」

「かしこまりました」


 クレアは奥の通路に向かった。



………

……



 通路を抜けた先にある施設内には、個室が10部屋ある。

 部屋に入ると、部屋の中央にカプセルベッドがある。ベッドの側には、荷物入れとタブレットを設置する機械がある。

「これにセットすれば良いんですかね?」

 クレアはタブレットをセットした。

 するとカプセルベッドのフタが開いた。

 クレアは荷物入れにバッグを入れてから、カプセルベッドに横たわる。

 そして中にあるスイッチを押すと、フタが自動で閉じた。

 暗くなった景色に、淡く光る不思議な模様が現れる。

 クレアは目を閉じて、事が終わるのを待った。



………

……



 しばらくして、フタが自動で開いた。


「……ん?」


 日の光を感じたクレアは、ゆっくりと目を開けた。


「えっと……、終わったんですかね?」


 ゆっくりとベッドから出て、側にある鏡台で容姿を確認する。

 背丈は前と同じだが、所々が変化している。

 栗色のボブカットヘアは緑色に、肌の色は薄緑色に、そして瞳は金色に変化した。

 頭には大きなネジがくっついており、顔と腕には縫い目があり、顔の左半分はベージュ色になっている。


「お~、予想以上に可愛い。縫い目も良くできていますね~」


 よほど気に入ったのか、クレアは笑顔を浮かべて、くるりと回ってポーズを取ったりする。


「っと、いけない。早く外に出ないと、次の利用客に迷惑かけちゃいますね」


 クレアはバッグを取り出して、そそくさと部屋を出て、施設の外に向かった。



………

……



 施設の外は、ステライトシティとは異なる街の景色が広がっていた。

 案内板には、【ショコランダ王国:MAP】と書いてある。


「良かった。ちゃんと選んだ場所に到着できました。えっと、確か、トライ・センターで初心者用のチュートリアルを受けられるんでしたっけ」


 クレアはマップを確認する。


「ほむほむ、砦の方ですね」


 クレアは目的を目指して歩き始めた。



………

……



 クレアが向かった先には、左右対称の巨大な砦がある。クレアが探している施設は、その手前にあった。


「いらっしゃいませ。こちら、トライ・センターでございます」


 メガネをかけた受付嬢が、クレアを笑顔で出迎える。


「わたくしは、このセンターの管理人、カナリア・アディントン。見てのとおり、種族はドルロイド魔動人形。以後、お見知りおきを」

「あの、ここでチュートリアルを受けられると聞いたのですが」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 カナリアはパソコンを操作する。

 しばらくすると、テーブルのモニターにQRコードが表示された。


「お待たせいたしました。まずは、こちらをお受け取りください」


 カナリアはスマホのような物を取り出す。


「こちらはトライフォン、チャレンジャーの必需品です。そちらのカメラアプリで、表示されたQRコードを読み取ってください」


「かしこまりました」


 クレアは電源を入れ、カメラアプリを開いて、QRコードを読み取った。

 するとクエストアプリが自動で開き、チュートリアル・クエストのクリア条件と報酬が表示された。


「その条件を全てクリアすればクリアとなります。頑張ってください」

「はい、ありがとうございます」


 クレアはセンターの外に出た。


「さてと。まずは、お店で武器と防具と道具の購入ですね」


 お店は向かい側にあった。


「いらっしゃい」


 店主と思われる女性が出迎える。


「えっと、初期の所持金は500シェル。バランス良く購入しないといけませんね」


 クレアはパネルをタッチして、購入したい商品を選ぶ。

 以下、クレアが購入した物。

・木製の棍棒(攻撃力:3、値段:100シェル)

・メイド服(防御力:1、値段:100シェル)

・ランク1の傷薬(HP5回復、値段:100シェル)


「よしっと。ポチッとな」


 クレアは【購入】を押した。すると、またもやQRコードが表示された。

 クレアがカメラアプリで読み取ると、マネーアプリが自動で開き、そこにチャージされていた電子通貨から引き落とされた。


「まいどあり。ほい、こちらが購入したアイテムのQRコード。これを読み取って、アイテムのデータをアイテムアプリに登録するんだ」

「ほいほい」


 クレアは早速QRコードを読みこんだ。

 アイテムアプリが自動で開かれ、購入したアイテムの絵と、【装備品】と書かれたマスが表示される。


「アイテムをタッチして、マスに移動させるんだ。そうすりゃ、バトル時に自動装備されるようになる」

「ほむ」


 試しにと、購入したアイテムをマスにはめこんだ。


「ほいっと、はめこみました」

「OK。戦闘する前、【チャレンジ、スタンバイ】って言ってみな。そうすりゃあ、セットした武器と防具が自動で装備されるはずだ」

「かしこまりました。教えてくださって、ありがとうございます」


 クレアは御辞儀してから、お店を後にした。


「よしっ。次は探索の練習、王国の外で指定の魔物を探すのが次の目的ですね」


 クレアは砦の門を通り、王国の外に向かった。



………

……



 紫色の草が生い茂る大地が、地平線の彼方まで広がっている。所々に生えている大木は赤黒い木の葉を実らせており、それを主食にしている魔物たちが大木に集まっている。


「えっと……」


 クレアは、クエストに記載されている魔物の絵に目を向ける。


「討伐対象は、ゴブリンゴ。リンゴのような見た目の頭部をした人型の魔物。主に森や林道に棲んでいるみたいですね。そして最寄りの林道は西側の方にあるっと」


 クレアは林道の方に向かう。



………

……



「おや?」


 林道の途中に看板があり、【この先、倉杉林道。注意、デカドビーの目撃情報あり。毒針に要注意】と書いてある。


「えぇ? ど、毒針? 看板に貼られた絵から察するに、毒バチみたいですね……。う~む。毒を治療するスキルは習得してはいますが……」


 さて、どうしたものかと、クレアは悩む。

 すると--


「ゴブフゥ〜!」

「え?」


 リンゴのような頭をした怪物が、大慌てで林道の奥から走って来る。


「わわ!?」


 突然のことにクレアは硬直してしまった。

 すると怪物は、クレアの横を全速力で通り過ぎた。


「なな、なんなんですか、今のは?」


 クレアが困惑すると、今度は羽音が林道の奥から聴こえた。


「うげ。こ……、この音は……」


 それは人間界でも聴いたことがある音で、その音を立てる生物は危険だということを知っている。

 クレアは恐る恐る林道の方に目を向けた。

 毒々しい紫色と黒色の縞模様に、6本の細長い脚、そして曲線を描く身体と顔。

 巨大なハチのような見た目の魔物が迫って来る。


「わわ! か、看板、の、魔物!」


 クレアは慌てふためくと、デカドビーがクレアの周囲を旋回しだした。


「わわ! 来ないで! あっち行って!」


 クレアは棍棒を振り回した。

 しかし、命中しなかった。それどころか、デカドビーを怒らせてしまった。


「ビビビ!」


 デカドビーの反撃、大きな毒針がクレアに突き刺さる。


「ぐっ!」


 クレアはダメージを受け、さらに毒状態になった。


「か、回復しなきゃ……」


 クレアはスキルでダメージを回復する。

 デカドビーは、その隙を……狙わなかった。どういう訳か、周囲を警戒しだした。


「え? なんですか?」


 クレアは困惑しながらも、今のうちにと毒状態も治療した。

 クレアが来た道の方から、3人組が姿を現す。

 ツノを生やした赤髪の女性と、小柄の女性と、薙刀を手にした一つ目の女性だ。


「せい!」


 一つ目の女性が、デカドビーに飛びかかった。

 デカドビーは回避するが、それを待っていたかのように赤髪の女性も攻撃する。


「エーテル・ブラスト!」


 掌から放たれた光の塊が、デカトビーに命中する。


「隙あり! グリーン・ビュート!」


 小柄な女性が、草蔓の鞭で追撃。

 見事命中し、デカトビーは墜落した。

 すると、ボフッと煙を出して消えた。そして煙が消えると、大きな針が転がった。


「ご無事ですか?」


 一つ目の女性がクレアに近寄る。


「あ、はい。大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」

「いいえ、礼には及びません」

「あの、アナタたちは?」

「これは失礼いたしました。自己紹介が遅れました」


 一つ目の女性は咳払いをする。


「わたくしは、水無月愛美と申します。ごらんのとおり、種族はエンスール一つ目でございます」


  背丈は154センチ。

 長い髪は御影石のように黒く艶やかで、艶やかな肌は白く、美しい瞳は鳶色で、大きな一つ目は左右対称。

 紅い袴と緑色の着物を着ており、草履を履いている。

 そしてスリーサイズは、H90・W55・B90のHカップ。


「アタシは、ルナ。種族は、フォーレス森の狩人。よろしく」


 背丈は140センチ。

 膝近くまで伸びた髪は紫色に染まっており、瞳はサファイア色で、艶やかな肌は浅黒色。

 ノースリーブのドレスも紫色で、美しい腕輪とネックレスを身につけており、頭には黒いバラの髪飾りをつけている。

 顔立ちは幼く、しかし知的な雰囲気を放っており、耳は長くて先が尖っている。

 スリーサイズは、H86・W54・B86のGカップ。


「そしてオレ様は、ベルチスア・ラグランジュ。種族はシャンドラ魔竜、よろしくな」


背丈は160センチ。

 髪は溶岩のように赤く、瞳は晴れた空のように青く、艶やかな肌は浅黒色。

 鋭いツノを生やしており、両腕は黒いウロコに覆われている。

 ふんわりとした黒いズボンを穿いており、金色刺繡入りの赤い長方形の布がくっついたベルトを撒いており、真っ赤なシャツを着て、真っ黒なノースリーブを羽織っている。

 露わになっている腹部は割れており、腕も程良く引き締まっている。

 そしてスリーサイズは、H94・W64・B100のIカップ。


「私は、クレア・モンブランと言います。よろしくお願いいたします」


 クレアは礼儀正しく御辞儀する。


「それで、クレア。一体何があったんだ?」


 と、ベルチスアが訊ねた。


「いや、それがですね、ゴブリンゴ探して、ここに来たら、なんか走って来て、その後を追うようにデカトビーが現れて、追い払おうとしたら、ダメージを受けたのです」

「ゴブリンゴを?」

「はい。チュートリアル・クエストをクリアするために、ゴブリンゴを倒そうと思いましてね」

「なるほどね。それで林道に来たら、運悪くデカドビーに襲われたという訳か」

「はい、そのとおりです。……あ、そういえば、さっきの、ゴブリンゴだった気がします」

「それなら、向こう側の方へ逃げて行ったわよ」


 と、ルナが教えた。


「さっきのデカドビーから逃げたということは、さっきのデカドビーよりも弱いということになるわね」

「私でも倒せますかね?」

「ん……、それはアンタ次第としか言えないわね」

「あ、やっぱり。まだ近くにいますかね?」

「戦うつもり?」

「えぇ、まぁ」

「なんか頼りねぇな~。本当に大丈夫か?」


 と、ベルチスアが訊ねた。


「た、たぶん」


 クレアは不安そうな顔をする。


「ったく、仕方がねぇな~。ここで会ったのも何かの縁だ。手伝ってやるよ」

「え? 良いんですか?」

「助けを求めてはいけない、なんて決まりはないからな」

「あ、ありがとうございます」

「礼なら、事が無事に済んでからにしろって」


 ベルチスアはルナと愛美に目を向ける。


「という訳だ。早速、さっきのゴブリンゴを探すぞ」

「はいはい、わかっているわよ」


 ルナは花を取り出した。


「空を舞え、そして我が目の代わりとなれ」


 ルナが魔力を籠めると、花が宙に浮かび、空に舞い上がった。


「今のは?」


 クレアがベルチスアに問いかける。


「平たく言えば、花の形をした衛星カメラのようなもんだ。ルナは植物系と探知系が得意なんだ」

「見つけたわ。そう遠くない」

「っと、言ってる側から、もう見つけやがった。さすがだな」

「お世辞は後。さっさと向かうわよ」


 4人はゴブリンゴがいる所へ向かった。



………

……



「ん、あの大きな岩の向こう側にいるわ」


 ルナが立ち止まると、他3人もと立ち止まった。


「座りこんでいるわ。走って疲れたようね」

「武器は?」


 と、ベルチスアが訊ねた。


「ん、小石が見えるわ」

「クレア、準備は?」

「いつでも大丈夫ですよ」


 クレアが棍棒を掲げる。


「ゴブリンゴは、そこそこ頭が良い。石を投げてくるかもしれないから、油断するなよ」

「はい、わかりました」

「うっし。んじゃ、ゴブリンゴに会いに行こうぜ」


 ベルチスアとクレアは、大きな岩の向こう側に向かった。


「ゴフ?」


 二人に気づいたゴブリンゴが、立ち上がって小石を拾った。

 そしてゆっくりと二人に近づいた。


「思ったとおり、石を拾ったか。クレア、投てきに気をつけろ」

「は、はい」

「ゴブ!」


 ゴブリンゴがクレアに向かって小石を投げた。


「なんの!」


 ベルチスアが前に出て、クレアを小石から守った。


「大丈夫ですか?」

「これぐらいへっちゃらだぜ。オレのことより、さっさとアイツを倒せ」

「は、はい」


 クレアはゴブリンゴに接近する。


「せやー!」


 クレアは棍棒で突き攻撃。


「ゴブッ!」


 攻撃は見事に命中し、ゴブリンゴにダメージを与えた。が、倒れなかった。ゴブリンゴは怒り、拳を振り上げる。


「クレア、ガードしろ!」

「わわ!」


 クレアは咄嗟に棍棒でガード。攻撃を防ぐことに成功した。

 ゴブリンゴは苦い顔して、拳を引っこめる。


「今だ! 連続で叩きこめ!」

「せい、やぁー! たぁー!」


 クレアは力一杯に棍棒を振り回した。

 攻撃は全て命中、ゴブリンゴに大ダメージを与えることに成功した。


「ゴブフゥ……」


 ゴブリンゴは仰向けに倒れ、煙を出して消え去った。

 煙が消えると、木の葉が落ちた。


「やった、お目当てのゴブリンゴの葉っぱ」


 クレアは喜び、葉っぱを手に取った。


「これで傷薬を作って、それを見せれば、クエストクリアです」

「なら、ついでに、作り方のコツを教えるよ」

「コツ? そんなものがあるんですか?」

「あぁ。素材に手を触れ、しっかりと念じるんだ」

「念じる?」

「そうだ。完成図を思い浮かべ、真剣に念じながら、魔力を注ぎこむんだ」

「わ、わかりました。そいじゃ……」


 クレアは座り、葉っぱに触れ、意識を葉っぱに集中させる。


「傷薬になれ……。傷薬になれ……。むむ~ん、むんっ!」


 クレアは念を注ぎこんだ。

 すると葉っぱが光り、姿形を大きく変えた。

 そして光が消えると、傷薬が姿を現した。


「ふぅ~、できました~」

「ほぉ~、初めてにしちゃあ上出来じゃないか」

「あ、ありがとうございます。戦闘も助けてくれて」

「いやいや、ルナの指示と比べれば子供だましだよ」


 ベルチスアはクレアに傷薬を渡す。


「さぁ、ささっと二人の所に戻ろうぜ」



………

……



「よぉす、ただいま」


 ベルチスアがルナと愛美に手を振る。


「お帰りなさいませ、お二人とも」


 愛美が二人を出迎える。


「遅くなって悪ぃ。実戦を積ませようとクレアに戦わせたからな」

「それで、結果は?」


 と、ルナが問いかける。


「あぁ、バッチリだ」


 ベルチスアがクレアに目を向けると、クレアが笑顔で傷薬を見せた。


「ん、問題なさそうね」

「はい。本当に色々とありがとうございました」


 クレアが深々と御辞儀した。


「ん。それじゃ、アタシたちは、このへんで」

「え? どこへ?」

「どこでも。縁があれば、また会いましょう」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ。つれなさすぎですよ~」

「何よ? まだ何か用でもあるの?」

「いや、ここは仲間にしてくれるのが王道でしょうよ」

「知らないわよ、そんなの。アンタ、親切にしてもらったからって、仲間になろうだなんて不用心すぎるわよ」

「うぐ、確かに……」

「それに、アタシたちは、それぞれ野望がある。アンタは、それについてこれるの?」

「や、野望?」

「そ。アタシは、この世界--ビルドニアの歴史を調べつくし、後世に伝えること。愛美は、士道と礼節を重んじる国を建てること。そしてベルは、史上最高のハーレムを作ること」

「は、ハーレム?」


 クレアが唖然とすると、ベルチスアがニヤリと笑った。


「そう、そのとおり。エロマンスに寛大で、とにかく楽しい、ビルドニア史上最高のハーレムを作ることが夢なんだ」


 ベルチスアは胸を張って堂々と宣言した。


「は、はぁ。なんていうか……、壮大ですね」

「でしょ? もしも、どうしてもアタシたちの仲間になりたいのなら、まずは自分の野望を見つけなさい」

「は、はい、わかりました」

「ん。それじゃ」


 ルナは立ち去った。


「縁があったら、また会おうぜ」

「ご武運をお祈りいたします」


 ベルチスアと愛美も、その場を去った。

 その後ろ姿をクレアは見つめた。


「私の……野望」



………

……


 その後、クレアはセンターに成果を報告。無事、合格だと認定され、報酬を貰えた。

 しかし、クレアは笑顔を浮かべなかった。


「お、お帰り。随分と見違えたね。……って、同どうしたんだい? ぼんやりして?」


 クレアの父親が首を傾げる。


「何かあったのかい?」

「実は……」


 クレアは事情を話した。


「……という訳なんですよ」

「なるほど、野望か。話には聞いていたけれども、本当に自分らしく突き進める世界なんだね」

「私も野望を見つけたいのですが、いかんせん思い浮かばなくて……」

「それで浮かない顔をしていたのか。う~む」


 クレアの父親は考えこんだ。


「……まぁ、焦ることはないさ。色々と試してから決めると良いよ」

「即決しなくても良いんですか?」

「自分の我欲絡みの事は特にね。好きな事を野望にして、それを実現させるために我を貫くというのは、クレアが思っている以上に大変な事なんだ。反対する人たちから批判はされるだろうし、場合によっては襲われるかもしれない。僕は荒事から程遠い所にいるけれど、喫茶店の運営者としての責任を全うしなければならない。どんなことにも、覚悟と責任を背負わないといけないんだ」

「なるほど、確かに」

「クレアは、まだ若い。焦って取り返しのつかないことをしやすい時期だ。だからこそ、数多の人や物事から色々と学び、感じて、それから決めないといけないんだ。何かを学ぶということは、そういうことなんだ。学ぶということも大変なことだけど、それでもじっくりと学んでほしい」

「わ、わかりました。肝に免じます」

「今度の日曜日、ママが出張から帰って来るから、相談してみると良いよ」

「そうですね。そうしてみます」

「うん。とりあえず、今日のところは、ゆっくりとお休み。明日に備えて、ね」

「はい、ありがとうございます」



………

……



 その晩、クレアは思いふけった。


--明日は何をしましょう? 私だけの野望を見つけるためにも、色々とチャレンジしてみたいですね


 クレアは、少しワクワクした。


--大変でしたけど、ヒヤッとしましたけど、それ以上に楽しかったです。もっともっと、ワクワクドキドキしたいです。色々なことに挑戦したいです



 そう思っているのは、クレアだけではない。

 門が出現して以来、数多の挑戦者たちが数多の物事に挑戦している。

 ある者はアイドル活動。

 ある者はe−スポーツ。

 自分が最高と思ったことを最強に変えるため、数多の物事に挑む。

 2つの世界の人々は、彼らを【挑戦者】と呼んび、新たな時代の象徴にした。


 そう--

 世はまさに、挑戦者たちの黄金時代--

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