最強パーティを円満追放されたので、後進育成に励もうと思います

@hakka_abura

プロローグ:追放……?

「ライト。お前は……クビだ!!」

「な、なんだって!?」


 オレはパーティリーダーであるカムラに呼び出されたかと思うと、藪から棒にそんなことを宣告され素っ頓狂な声をあげた。

 クビだって!? オレはたしかにあまり目立たない活躍しかできない、裏方仕事ではあるが……その分、人一倍働いてパーティに貢献してきたつもりだ。

 カムラとは付き合いも長く、故郷の村を出たときから一緒の仲。まさかそのカムラから、こんな言葉を聞かされるなんて! まさに晴天の霹靂だ。


「お前は確かに優秀な冒険者だ。正直能力面で見れば、お前をクビにするのは惜しい……しかし、仕方ないんだ!」

「何が仕方ないって言うんだ! 仕事以外の部分に文句があるって言うのか!?」

「…………ないからだよ」

「何!?」

「お前が女じゃないからだよ!!」

「は?」

「俺はさぁ! もっと女の子にチヤホヤされたいんだよ!! その為にクソみたいな田舎から命懸けの仕事なんかしに来てんだよ!? 体の傷とかにキャーキャー言われたいんだよチクショウ!! っていうか幼馴染なら性別は女の子って相場が決まってるだろおおおお!!!」


 わけのわからんことを口走り、頭をかかえるカムラ。まぁ昔からこの調子だし、振り回されるのも慣れたものだが。


「いや、チヤホヤされたいってのはわからなくもないけど……それとオレのクビにどう関係があるっていうんだ。まるで意味がわからんぞ」

「いやさぁ……正直俺たち強くなりすぎた感あるじゃん。ランクもギルドで最高のAAAランクだしさぁ。メンバー全員に二つ名ついてるのウチくらいだしよ」


 オレたちのパーティ【紅同盟】は、大陸最強の呼び声も高い。二つ名なんていうのは大体パーティリーダーだけについていればいい方なのだが、オレも含めて全員についているなんて言うのは異例中の異例。なんであれば、3人以上に二つ名が付いてるパーティという括りでもオンリーワンである。


「それの何がいけないんだ。人の役に立ててるってことだろ。【焔の残光】カムラ」

「いやいいんだけど。まんざらでもないけど。それはいいんだけど! でもちょーっと忙しすぎ? っていうか? 女の子と会う時間もないっていうか。っていうか休みそのものが存在しないよね? 30日連続野宿はもう文明捨ててるレベルの蛮行だと思うんだけどどう思う?」


 どう思うって言うか……たしかに、休みなんていうのは長らくとっていないけれども。依頼から帰ってきたら次の依頼のループを繰り返し、思い返せば最後に3時間以上街で休めたのは2年以上前かもしれない。


「仕方ないだろ、イエローテンペストドラゴン強かったんだから。ウチ以外のどのパーティが行っても足止めにもならなかったし」

「俺ら以外の人類が不甲斐なさすぎる……で、休めないならもう仕方ないからパーティに女の子をだな……」

「それでオレに抜けろって言ってんの!? アホかよ!!」


 確かにギルドでは、①危険性を鑑み、Aランク以上のクエスト中にパーティメンバー以外の同伴者は認めない。②解決できる依頼数を増やす為パーティメンバーは4人までとする。(極度に困難と判断された依頼の場合その限りではない)という二つのルールがあり、カムラが女の子と触れ合う時間をクエスト中に見出すのであれば新しいメンバーにするという方法しかないが……


「そこをなんとかお願いしますよ! お前以外にこんなこと言って聞いてくれるやついないじゃんかさあぁぁぁ!!」

「オレだって聞くかよ! うわっ、靴を舐めるんじゃねえ! 仕事行くぞ仕事!!」

「うわぁぁぁ!! 鬼! 悪魔!! おかしいと思えよ、頑張ってる人間に求める報酬を与えられないこの搾取構造をさぁ! 立ち上がれ労働者!!」

「オレは満足してるんだっつーの! っていうかオレいなくなったらパーティが大丈夫じゃないだろ!?」

「それは……そうなんですが……」

「都合の悪いこと言われたら急に敬語になるのやめろ」

「いやそこはさぁ……俺らで育てればっていうか? むしろ新たな英雄誕生の一助になるっていうか? 俺らだって絶対一人も死なない保証とかないわけで、一人いなくなったから『はい人類終わりでーす』じゃ困るってのも事実だろ!?」

「いきなり説得力あること言うなよ。その必死さが性欲から来てるのすげえムカつくから」

「ぜっっっったい依頼失敗とかしないから! お前にもみんなにも迷惑かけないのでお願いします!!」


 90度でお辞儀するカムラ。

 ……マジで仕方ねえなコイツ……

 

「…………はぁ……」

「……」

「後釜を最低でもAランクから選ぶって条件と、他2人の了承を得た上でなら……いいだろう」

「ま、マジでか!?」

「まぁ報いがなさすぎるってのもちょっと可哀想だしよ。オレらは求めたもん手に入ってるからどうこう言うのもなんか違うし」


 オレは故郷に送る金があればいいし、ラスカは強さを追い求めてて、アルファスは人助けが出来ればいいってなもんだから……確かに、カムラの願いだけ叶っていないというのも事実。アルファスは信賞必罰の精神を持ってるから、聞けば同情しそうだ。

 オレの仕事って後方から魔法撃つことだし、まぁ入れ替わるなら比較的安全なポジションだろう。前衛、特に防御と攻撃を双方最高クラスに両立するカムラのポジションなんかは世界中捜したって換えが利かないのだから……

 コイツの口車に乗るのも癪だが、後進の育成も重要といえばまぁそうだしな。

 オレはやれやれと肩をすくめた。


「お前の我儘に振り回されるのも慣れたもんだしな。ただし、やっぱ上手くいかねぇってなったらちゃんとオレに泣きつけよ? どこにいても駆けつけてやる」

「ラ、ライト……!!」

「なんだよ?」

「……コイツマジで女だったら良かったのにな……ハァ……」


 小声だけど聞こえてんだよ。

 マジでぶっ飛ばしてやろうかなコイツ。


 ……因みに、実はオレが女ですなどというオチはない。断じて。


「じゃあちゃんと二人にナシつけて、そしたらオレはもうパーティメンバーじゃない。それでいいな!?」

「心の友よ!!」


 ──そういうわけで。

 数日後、オレは最強パーティを追放された。

 まぁ誰一人としてオレのことを疎んでないし。抜ける時にトラブルは一つもなかったしで、追放というといささか響きは悪い感じだが……アイツがトチ狂ってクビとか言い出したところから始まってるから、まぁ追放でいいだろう。


 かくして、オレの新たな生活が始まろうとしていた。

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