第37話 一日一悪(豊臣秀吉リスザル)
夜はまだ明けていない。
黒幕の城へ向かう豊臣秀吉リスザルだが、その城に近付けば近付くほど、足取りは重くなっていた。織田信長ウサギの話を思い出せば思い出すほど、なんともいえない感情が胸の奥から湧き上がってくるからだ。
「どれだけ再会したいと願ってきたか……。じゃが、夢見ていた再会は、こんな形ではなかった」
溜息を吐く豊臣秀吉リスザルの目には、背の高いブロック塀に囲まれた黒幕の城が映っている。
電柱に登ってブロック塀の上部に移った豊臣秀吉リスザルは、庭に広がる芝生に下り立った。そこの片隅にある、トレーラーハウスみたいな巨大な犬小屋に、黒幕が居る。全身灰色のまだら模様をしたアキタイヌだ。
名乗らぬアキタイヌは、前世武将アニマル軍の領地で転生していたが、入隊することなく、小姓と一緒以外では城から外出せず、ヒト(武将)であった前世の記憶を利用した行動はとらず、転生アニマルとしてではなくただのイヌとして生きている。そのため、転生アニマルの間では変わりもの扱いされ、名乗らぬアキタイヌを相手にする転生アニマルはいない。だから、名乗らぬセキセイインコだけが名乗らぬアキタイヌと接触し仲良くなったのは、前世の因縁といえるだろう。
豊臣秀吉リスザルはまず、城の
名乗らぬアキタイヌは近寄ってくる存在に気付いていたはずだが、犬小屋のドアは開かない。ドアに
しばらくして、犬小屋のドアが開いた。
巨体にもかかわらず名乗らぬアキタイヌは
「なぜ徳川への
仁王立ちの豊臣秀吉リスザルが凄い剣幕で鳴いた。
「父上の夢を、跡継ぎのわたしは、継続させることが出来ませんでした」
名乗らぬアキタイヌは震えている。悔しさが心の中で渦巻いているのだ。
「合わせる顔がありません」
さっきから
息子の思いを知った豊臣秀吉リスザルは、溢れ出そうになった涙を
「織田信長殿からの裁きを伝える」
名乗らぬアキタイヌは微動だにしない。既に覚悟を決めている。
「おまえを野良にする。領主のいない、深い深い山奥で、一匹で暮らすのじゃ」
「はい」
名乗らぬアキタイヌは俯いたまま返事をした後、ちらりと門扉を確認した。次の瞬間、駆け出した。
はっとした豊臣秀吉リスザルが、思わず呼び止めかけた。なぜなら、ずっと俯いていて見ることができなかった息子の顔を、一度でも見たいと思ったからだ。
思いが通じたのか、名乗らぬアキタイヌが足を止め、振り返った。豊臣秀吉リスザルの顔を見つめる。懐かしそうに愛おしそうに見つめ続ける。
豊臣秀吉リスザルも、脳裏に焼き付けるように息子の顔を見つめた。だが、感情は出さないように堪え続ける。
「父上に認めてもらえると思えるようになったら、必ず会いに来ます」
何も返さない豊臣秀吉リスザルに、名乗らぬアキタイヌは一礼すると、反転し門扉に駆け出した。
豊臣秀吉リスザルが何も返さなかったのは、涙を堪えるのに必死だったからだ。一言でも発したら、涙が
「待っておる」
門扉から出て行く息子の後ろ姿を見送る豊臣秀吉リスザルの目から涙が溢れ出した。
「アキタイヌ。いや、豊臣秀頼。おまえは、初めての生まれ変わりで、アニマルに生まれ変わっておるという境遇と、前世とはあまりにもかけ離れた現世の文化に、驚きと恐怖を覚え、心を閉ざしてしまった。そんな中で偶然、石田三成と再会した。それは、わびしさと孤独を払拭させる安堵感じゃったろう。じゃが、それが悲劇の始まりになった。石田三成も初めての生まれ変わりじゃったことで、おまえの
だがもう、息子の姿はなかった。
止め処もなく流れ落ちる涙を腕で
草が、道路とブロック塀の隙間から、苦境にもめげず凜然と伸びている。
腰を
「精神を
草を
「殿。一日一悪。獅子の子落とし、終了しました」
前世武将アニマル軍 月菜にと @tukinanito
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