第36話 黒幕

 ざわつく車座の皆が、疑いの目でお互いを見合い、お互いを探り合っている。


「もう一匹の黒幕は、おまえじゃ」


 織田信長ウサギは、観念している名乗らぬハクセキレイと名乗らぬコウモリの背後に居る、名乗らぬセキセイインコを前足で指し示した。


 一斉に皆の視線が、名乗らぬセキセイインコに集中した。息を呑んで驚いている。そんな中、数年前、名乗らぬセキセイインコの入隊を推薦した武田信玄ハトが、申し訳なさそうに顔を羽で覆った。


「セキセイインコ。おまえは覚えておるか?」

 織田信長ウサギがさとすように鼻を鳴らした。

「黒田官兵衛が針治療した中年男性は、株が大暴落して落ち込んでおったという話を」


 名乗らぬセキセイインコは、一日一悪の報告を思い出した。そして、その男性が自分の小姓であることに気付く。


「あのぐらいの大暴落、たいしたことではない」


 名乗らぬセキセイインコは至って落ち着いている。


「まあ、そうじゃろうな」

 織田信長ウサギも落ち着いた様子で、寛大に鼻を鳴らした。

「じゃが、そのことで、小姓のチェックが厳しくなった。今まで、インターネットで報酬となる高級フードを小姓のクレジットカードで購入していたが、それができなくなったんじゃ。前世忍者アニマル軍に渡す高級フードを思う存分購入できなくなったんじゃ」


「じゃからか」

 気が付いたというように、名乗らぬコウモリを見詰める名乗らぬハクセキレイの目が、憎しみに変わった。

「じゃから、わしらへの報酬の先延ばしを言ってきたんじゃな。じゃが、わしらは納得せんかった」


 名乗らぬハクセキレイは突き刺すような視線を名乗らぬコウモリに向けているが、名乗らぬコウモリは目を閉じたまま微動だにしない。


「セキセイインコ。前世忍者アニマル軍を納得させるために、徳川埋蔵金に目を付けるとは、抜け目がないの」

 織田信長ウサギは苦々しく鼻を鳴らした。

「じゃが、そのことが、おまえにとってあだとなった。わしに真実の情報を与えることになったんじゃからの」


 名乗らぬセキセイインコは平静を装っているのか、開き直っているのか、怖じもせず織田信長ウサギを堂々と見据えている。


「セキセイインコ。おまえは徳川埋蔵金など無いと思っておるじゃろ?」


「徳川埋蔵金は存在しないのですか?」

 驚いて目を剥いた名乗らぬハクセキレイが、くちばしを持ち上げ、すっと首を回して背後の名乗らぬセキセイインコを突き刺すように見た。

「コウモリが提案してきた、九対一の分け前での徳川埋蔵金の話も、前世武将アニマル軍の中に徳川埋蔵金の隠し場所を知っている奴がいるという話も、全て嘘なのか?」


 激怒する名乗らぬハクセキレイだが、名乗らぬセキセイインコは気後れすることなく平然と鳴いた。

「織田信長殿は、徳川埋蔵金は無いと思っておるみたいじゃが、わしはあると思っておるからうそは言っておらぬ。それに、隠し場所を知っている奴が前世武将アニマル軍にいると、わしはこの耳で聞いておる。うわさじゃがな」


 名乗らぬセキセイインコの全く悪びれない態度に、名乗らぬハクセキレイは苦虫を噛み潰したように鳴いた。


「ううう噂。噂だというのか。抜け抜けと……」


「それにしても……」

 織田信長ウサギが少々同情するように鼻を鳴らした。

「おまえは忠誠心が強いのう」

 名乗らぬセキセイインコをあわれむように見詰めた。


 胸を反り直した織田信長ウサギは、毅然と裁きを下す。

「セキセイインコ。いや、石田三成。おまえは城に永蟄居じゃ。そして、一日一悪を、今の寿命を全うするまで、小姓や城内に来たものにすること。見張っておるぞ」

 語尾には凄みがあった。

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