第35話 裁き

 織田信長ウサギと豊臣秀吉リスザルも、前世忍者アニマル軍の皆が待つ所に戻った。並んで車座に割り込む。だが、豊臣秀吉リスザルの表情は、いつもと違っていた。悪い物でも食べたかのような、沈痛な表情をしている。思い詰めているようにも見える。気付いた前田利家リスザルが問い掛けようとしたが、それを遮るように、車座の輪の中央を見据えた織田信長ウサギが鼻を鳴らした。


「コウモリ。なぜ、保科正之の記憶を奪って、前世江戸アニマル軍を混乱に陥れたのじゃ?」


 詰問された名乗らぬコウモリだが、目を閉じて微動だにしない。


 織田信長ウサギの髭が笑うように波打った。胸を反り直すと高々と鼻を鳴らす。


「コウモリ。お前の代わりに、わしが全てを話そう」


 名乗らぬコウモリはぴくりともしない。既に腹を括っている。黒田官兵衛ハリネズミに耳打ちされたとき、全て知られていると悟ったからだ。


 名乗らぬハクセキレイはずっと体を縮こめている。


「黒田官兵衛率いる調査隊によって、全ては明白じゃ」

 片笑むように片髭を上下させた織田信長ウサギは、朗々と鼻を鳴らした。

「コウモリは、黒幕と前世忍者アニマル軍の橋渡し役であった」


 つと静まり返った。車座の皆が息を呑んでいる。名乗らぬハクセキレイは初耳だと驚き、睨むように名乗らぬコウモリを見詰めた。


「黒幕じゃと?」

 ようやく鳴いた武田信玄ハトが、羽を広げたり閉じたりして驚き慌てた。これによって、皆がざわつき始めた。

「どこの誰が黒幕なんじゃ?」

「黒幕がおるとは……」

「黒幕は誰じゃ?」

「誰じゃ?」


「その黒幕は」


 静寂を取り戻すために、織田信長ウサギは一喝するように鼻を鳴らした。


 車座の皆が黙った。続く言葉を待つ。


 織田信長ウサギが胸を反らしたまま目を瞑った。ゆっくりと唸るように鼻を鳴らす。


「黒幕は……」


「一日一悪。出陣します」


 遮った豊臣秀吉リスザルが、意を決したように力強く鳴いた。目を瞑ったままの織田信長ウサギの横顔に一礼すると、身を翻した。


 息を呑んだ車座の皆によって、なんとも言えない静寂が辺りを包み込んだ。


 織田信長ウサギの長い耳が背後を探る。豊臣秀吉リスザルが木々の暗闇の奥に消え、里山を下っていくのを捉えている。つと片方の長い耳が、ざわつきだした車座の皆に向いた。


 黒田官兵衛ハリネズミ以外の皆が、ひそひそと鳴き合っている。


 目を見開いた織田信長ウサギは、一喝するように鼻を鳴らした。


「もう一匹の黒幕は」


「黒幕が二匹おるのか?」


 名乗らぬタヌキが仰天の表情で鳴いた。他のものたちは、一斉に口を閉じ、織田信長ウサギを見詰めた。


「もう一匹は、コウモリと繋がっておった黒幕で、この中におる」


 織田信長ウサギがゆっくりと力強く鼻を鳴らした。


 水を打ったようにしんとしていた皆が、突如、わめくように鳴きだした。


「ここにおるじゃと?」

「誰じゃ。名乗れ」

「なぜそのようなことを?」

「誰じゃ?」

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