ぼくは、僕の息を引き取る。

葵流星

ぼくは、僕の息を引き取る。

2027年8月

愛知県北東部某所


…。


田んぼに、青々と生える稲を眺めていた場所から、離れ…。

山の奥に、自分は居た。


「…見つけた。」


山の奥にある、一見何も変わったところのない、高度経済成長期の遺産とも言える北欧風の屋敷があった。


そして、その屋敷から出てくる特に変わったところのない、普通と言うのが、しっくりくるであろう人々が、屋敷を出て、車に乗り込み、豊田の方へと向かった。


その顔は、どこか幸せそうで…何かに満足しているようだった。


私は、乗ってきたバイクを館から、ほど離れた場所に、サバイバルゲームで用いられる紐の集まりのようなのカモフラージュマントで多い、落ち葉で擬装させた。


そうこうしているうちに、山に夕日が差し込んだのも束の間、あたりを調べていた私は、なんてことの無い紙切れや、雑貨…ゴミ袋の中を調べた。


(…ここに、姉さんは本当に来ているのだろうか?)


高校生の私には、この場所を恐ろしく感じていた。


入った者は、必ず死ぬとか、そういった類のものではなく、なぜか人々が次々に自殺していく。


そんな、怪現象とも呼べる事件が起きていた。


なんら自殺なんて、珍しくもないだろう…。

一日に未遂も含めて、発生しているものだ。

それを、悲しいものだと思うのか…。


ああ、人はなぜ自殺を止められないのか?

社会は、もちろん…その原因を作り出す機械だ。

そこで、働くというのは、全身でフードプロセッサーの刃を受け続けるものだろう…。


「…。」


辺りが暗くなったのを確認し、私は先端に槍のある鉄格子を、ゴミ箱を使い登り、館の中に入った。


「…よしっ、入れた。」


正面玄関の防犯カメラの死角となっていて、人感センサーの照明のない、館の北西部…庭の辺りから、館に入った。


ズボンに入れていた、片刃の小さなナイフをパンツの中に、納め。

館の探索をしようと足を踏み入れた、その直後…。


「っうぐ…。」


(…誰だ…。いやっ、襲われた…。)


目の前が暗くなった。


「…。」


「…いったぁ。」


ぼくは、何をしていたのだろう?


「?」


鏡には、何やら自分に似た顔のぶかぶかの服を着ている少年が見えた。


「…?」


むにむに…。


「えっ?どういうことだ?」


何かがおかしいと思った。

ああ、ぼくは兄さんを探しに来たんだった…。


「…ナイフが無くなってる。」


わざわざ、隠し持っていたナイフが無かった。


「…どこだ、ここは?」


何やら、地下牢のような場所に閉じ込められたのかもしれない。

しかし、何やら、拷問部屋というよりは少しおかしな感じがしていた。


「…手錠か。」


布製の鍵付きの手錠、猿轡を見つけ、他にはむちのようなものを見つけた。


部屋の出口の扉には、外から鍵がかかっていた。


「…閉じ込められたか。」


その後も探索を続けると、三角木馬を動かそうとしたら…。


「っあ。」


三角木馬が壊れてしまい、壊れた馬の首の中には、鍵が入っていた。

おそらく、もしもの時の予備の鍵なのだろう。


(…。)


なぜ、このようなものが木馬の中にあるのか、不思議ではあったが、そもそもサディスティックな物がこんな場所にある限り、どうやら創造通りの建物であるのは、確かだった。


ぼくは、部屋を出る前に再び鏡を見たら、そこには自分の姿があった。


「…。」


むにむに


やはり、それは自分の姿に他ならなかった。


鍵を開けて、廊下に出た。


何やら、足音が聞こえたので、ぼくはとっさに積まれた木箱の裏に隠れた。


「…。」


赤いローブを纏った、信者のような…。

亡霊にも見える、人影がどんどんこちらに近づいてきた。

息を殺し、そのまま過ぎ去るのを待つ。


「…。」


どうやら、こちらに気づかずに一階へと戻って行った。


「…ふぅ。」


いずれにしろ、気づかれるのも時間の問題かもしれない。

部屋の鍵を締めといてよかった。

そうしなければ、今頃捕まっていただろう…。


何やら、信者が落とした紙切れがあった。

残念ながら、ただのレシートだった。

木炭とあるが、バーベキューでもするのだろうか?


地下室を出るには、どうやら…また、鍵が必要らしい。


地下牢のようなのか、10室ほど部屋がある構造のようだ。

一階への階段の近くに、ノートとペンが置いてあり、ページを破り、間取りのわかるように地図を作った。


そして、まず…一部屋目を開けようとした時…。


「…ブービートラップ?」


何やら、糸が張っており、手榴弾のピンのような物に巻きついている。


「ここは、後で来よう。」


そのまま、探索を続け懐中電灯と、取られていたナイフを見つけた。


先ほどの部屋に戻り、ブービートラップを解除した。


「…使えそうだな。」


ブービートラップに用いられているライターを回収した。

もう一度、調べてパイプ爆弾も入手した。


導火線に火をつけるか、ピンを抜くことのどちらかで、爆発までの時間が変わるかもしれない。


パイプ爆弾は、塩化ビニル製で相応の太さもある。

解体して見たくもあるが、嫌な予感がしたので、やめた。


他の部屋を良く探すと、地上への階段があった。

おそらく、ゴミ捨て場…つまり、俺を襲った誰かが使ったと考えられる。


階段を昇ると、一階に出た。

そのまま、信者に見られないようにロビーに向かう。


「…開かない?」


玄関の扉は、閉ざされていた。

他にも、出口があるのだろうか?

カードキーが必要ではありそうだ。


館だと思っていたが、どうやホテルのように思える。

ロビー、いや、フロントの壁に地図があった。

別館と本館は、1階から3階が連絡通路として繋がっており、本館は8階建て、別館が7階建てであり、連絡通路は1フロアにつき、2本だが、一階は中庭に出れるようになっている。


木で隠れていたようだが、建物が北東に伸びていると思われる。


「…スマホも取られたか?」


今さら、スマートフォンがどこかに行ったのは些細な問題だろう…。

事前に、地図で下調べしとけばよかったが、後の祭りである。

いずれにしろ、圏外だ。


ついでに言うと、契約しているキャリアに通信エラーが発生している。


「…どうしようか。」


わりと、多くの部屋が空いているようで…。

ベッドも綺麗なものが多い。

宿泊しているようにも見える部屋も多い、そして、何かしら手紙のようなものが机の上に散らばっている。


「…ああ、やっと終わる。」


「まだやることがある…。」


「あいつだけは、必ず殺す…。」


「りなちゃん、ごめんね…。お母さんも行くから…。」


「逮捕してやる…。横井…貴様だけは…。」


「上司を殺して、その後は…まだ、やることが多いな…。」


犯罪を予告するものや、それこそ噂に聞いていた自殺関係の言葉もある…。

だが、客観的には繋がりがわからない。


そう考えていた、矢先…。


「…!」


ロビーから、多くの人の声がした。


探索中に聞いていた音は、どうやらマイクロバスの送迎音だったようだ。


…。


そして、夜になるまで待った。


(…お腹すいたな。)


厨房に向かい、色々物色する。

包丁を盗もうとしたが、やめた。


警備員のように、信者と思われる者が徘徊している。

パンを盗んだ。


見つからないように、開いている部屋を探し、パンを食べることにした。


「うぐっ…。」


むせてしまい、とっさに水を飲んだ。


「ふぅ…。」


証拠を隠すため、水道水をコップに戻しておく。


頭が痛い…。


バレないように…外に出よう…。


「やぁ…。」


鏡の中の俺が、手を振っている。


別館に向かおう…。


「!」


何やら、黒い…長い髪の女のようなものが3階の連絡通路に居た。


「…シャッー!」


蛇のような声を出し、こちらに向かってくる。


とっさに、逃げ出そうとしたが…。


「…来るな、やめろ!」


腕に髪が巻きつき、俺の腕を締め上げる。


そして、目の無い顔が俺に近づき、首元に咬みつかれた。


「…ああっ!」


「…。」


「…夢か?」


手と首に、俺が引っ搔いたような傷が残っていた。

物凄く痛い…。


「…たいまか?」


とっさにあの部屋を、思い出す。

確か、コップの横に白い粉があったと思う。


「…。」


水に溶かしていたのかもしれない…。


幸いなことに、今は夕方だ。

本館の医務室に戻り、包帯を巻くことにした。


「…幻覚か?」


虫のような物が、道を塞いでいる。


「…。」


(物でも、虫に見えることがあるんだよな…。)


幻覚だとは思うが、それらを避けて道を進む。


「…もう一度、厨房に行こう…。」


身体がだるい…。

だが、またあの薬を飲めば少しは…。


「…。」


カフェインを取ろう、水を飲もう…。


少しは良くなるはず…。


「…ああ、喉が乾いた…。」


「…それじゃない。」


厨房にある包丁から、目を逸らす。


蛇口から、直接水を飲んだ。

冷蔵庫にあった、コーラを盗んだ。

フリーザーパックに水を詰めた。


「…。」


水を飲み過ぎたせいか、催してきた。

人が居ないであろう、別館から繋がる離れのトイレに向かう。


「ふぅ…。」


「…ん?」


どうやら、誰かがスマホを忘れてしまったようだ。


(たしか、スマートフォンはバイブレーションモードにしていたはずだ。)


だが、自分のスマートフォンに繋がるだろうか?


パスワードがN型だったので、ロックを解除した。


ロビーのドアの扉が辛うじて電波が繋がっていた。

もしかしたら、スマートフォンに繋がるのではないかと思い、トイレから持って来たスマートフォンを通話状態で放置した。



2階の事務所のような場所の通路側の窓の錆をコーラで取り、中に入った。


使われているようではあるが、所々古い本がある。


「…あった。」


事務用の机の引き出しの中を開くと、たくさんのスマートフォンがあった。

自分のスマートフォンを取り戻し、部屋を後に…。


「…ふぁ~。」


「…。」


信者が、部屋の中に入って来た。


「…。」


隠れていた、クローゼットから抜け出し、そばにあったガラス瓶で信者を殴る。


「…。」


服を剝ぎ取り、地下室の階段のある部屋に隠した。


女性ではあるが、服装は問題なく着れた。


「…やっちまった。」


見つかるのも時間の問題だろう…。


(…早く、姉さんを…。)


館を歩き回っていると、姉によく似た人を見かけた。

私服で居るのは、そこまでの信者ではないからだろうか?


姉の後を、追う。


「…。」


姉は、別館の大広間の中へと入って行った。


躊躇していたが…。


「おい、見回りは終わったか?」

「はい、終わりました。」

「よしっ、じゃあ…扉を閉める。今日で、ここは最後だがな…。」

「そうでしたね…。」

「ああ、セミナーのイベントのバイトも大変だったな。」

「今度は、楽なバイトがいいですね。」

「そう思うよ…。まあ、そんなに悪くもないとは思うが…あっ…。」

「…。」

「よしっ、参加者は全員居るな。」

「はい、全員居ます。」

「わかった…。報告する。」


かなり、アルバイトを雇っているのか、特に何も言われなかった。

セミナーのアルバイトなのか?

そんなわけはないと思う…。


ミュージカルも行えそうな大きなホールの中心に、スポットライトが当たる。

円弧上に広がる参加者は、そこまで数が多いとは言えないが、中心部に集中していた。


そこに、教祖…。

白い法衣のようなものを纏った男が居た。


「皆さん、今日は最後の夜です。」


「いやっ、そうはならないかもしれない…。」


「全ての人々に死は訪れますが、人類は死を選べる生き物です。」


「ふぁ~…。」


隣にいたアルバイトの男は、軽く欠伸をしたが嚙み締めた。


「この世界において、死とは唯一の逃げ道なのです。」


「ただ、その死に近づく為にはいくらでも時間をかけていいのです。」


「しかし、長く生きるというのは幸せなことでしょうか?」


「病気のリスクは勿論、お金の心配もあることでしょう…。」


「しかし、それは生き続けるということに対して発生するものです。」


「近年のアメリカでは、Die before you pull the trigger…」


「つまり、引き金が引けるまでに死ぬのがよいとされています。」


「全ての人々が、始皇帝のように全てを手に入れ、不老の不死を手に入れると思えるようにはなりません。」


「死を待つのでなく、死を選ぶのです。」


「命に自由を与え、納得できる最期を求めるのです。」


「今日、明日…死ぬことができなくとも死を選ぶという意思が重要なのです。」


拍手と、歓喜の声があがる。


確かに、セミナーに聞こえなくはないが…一抹の不安を覚えた。


そこから、一時間ほど、ずっと代わる代わる人が話し続けた。


「現行の政府は、数年後に財政崩壊をする。」


「カルト宗教に、お金が流れ…彼らは、あなた方に生きるように言うが、それは搾取の為である。」


「労働者の中で、社畜と名乗れるものは非常に哀れだ。彼らは、家畜ではなく、奴隷なのだから…。」


「日本は、香港を見捨て、台湾を見捨てた。韓国のカルト教団と共謀して日本を共産化する流れがかつてあった。カルト教団は、自衛隊とも関係を持っていた。」


「貧乏である者が抗うには、自殺か…働き続けるしかない…しかし、正規の社員を捨て、客先常駐や、SES、技術者派遣、人材派遣、アウトソーシング…言い方を変えた、奴隷勧誘が続いている…。」


「陰謀論を信じるのは、あなたがこの世界で生きて行くのに、疲れてしまったのと、現状を嘆いているからだ。」


話を聞いたが、手法はカルト宗教が行ったものと同じだ。


ただ、共通点としては…生きることを否定しているというものである。


パワハラとは、違い…論理づけての簡易、自殺誘導…。


「…そういうことか。」


謎が解けた…。


彼らは、自殺を受動的にしたのではなく、能動的に行っていたのだろう…。


自殺者数は、乱数となるが、自殺者数は増加している。


…。


「…。」


セミナーが終わり、各々ホールを後にする。


ぼくは、こっそり…その場を抜け出し、姉を追った。


姉を追い、扉が閉まる前に部屋に入った。


「なに?」


「姉さん…。」


「えっ…かなた…。」


フードを上げ、姉を見る。


「何で、あなたがここに?」


「…。」

「…なんか、様子がおかしいと思ったから…。」


「そんなわけ…。」


「いやっ、姉さんは死のうとしている。」


「…。」

「…よくわかった…違う…最初は、ただの…。」

「いえっ…ただ、迷ってた。」

「私には、未来が見えない…。」

「それは、そういうものかもしれない…。」

「なら、死を求めるには何を…。」

「死を求めるという原因が、なぜだかわからない…。」

「けれど、私は…いつか自分から、死ぬと思うの…。」

「それを、あなたには気がついてほしくなかった…。」


「…。」

「そっか…。」

「それじゃあ、すぐには死のうとは思っていない?」


「私は、そう思うわ…。」

「いつかよ…いつか…。」


そう言うと、姉は笑っていた。

ただ何もない笑顔だった。


「じゃあ、帰らない?」


「そうね…。」

「帰りましょうか…。」


姉に近づき、手を握る。

いつもと変わらない、冷たい手だ…。


「ところで、なんでそんな格好を?」


「ああ…。」

「その…。」

「無理やり、奪った…。」

「というより、ここに入るときに不法侵入して殴られた。」


「えっ…。」

「ふふっ…。」

「馬鹿な弟ね…。」

「これなら、まだ…お姉ちゃんが死ぬまで長くかかりそうよ。」


「俺よりは、長く生きてくれよ…。」


「くすっ…。」


「…!」


「…なに?警報?」


火災報知器の音が鳴り響いている。

すぐに、部屋を飛び出し…。

下に向かう。

別館の6階から、逃げ出そうとするが、辺りは不自然なくらいに火の海だった。


「おかしい…。なんで、こんなに燃えているんだ?」


「…オーナーね。」


「えっ?」


「この建物のオーナーが、おそらく、火をつけたのだと思う。」


「何のために…。」

「そんな…。」

「それじゃあ、自殺するために?」


「躁鬱…というよりは、何かおかしかったのよね。」

「やたら、元気そうだったり、ぐったりしていたり…。」


「あの麻薬…。」


「かなた?」


あの麻薬は、おそらく…オーナーのものだったのだろうか…。


「消火器…。これを、持っていこう…。」


機能しているのか、良くわからない消火栓のボタンを押し、一階へと向かう。


消火器を使い、火を消し…木材を押し抜け…。

姉が持っているハンカチに、水をかけ燃えそう場所を濡らした。


本館の一階にたどり着いたが…。


「…姉ちゃん!」


「えっ、あっ…!!」

「…っ!」

「開かないの?…それに、熱い…。」


「俺に任せて…。」


パイプ爆弾に、残りの水の入ったフリーザーパックを取り付け、ライターで導火線に火をつけ、すぐにその場から逃げる。


ドンっと爆発音と共に、扉が砕けた。


「開いた!」

「早く逃げよう!かなた!」


俺は、姉さんに先に行っててといい、地下室に向かった。


姉さんに、スマートフォンを投げ捨てるように渡すと、姉さんはキャッチした。


地下室に入り、出口へと繋がる部屋を目指す。


その途中、誰かが話す声が聞こえた。


後から、考えると無視をして良かった。


ガラス瓶で殴った彼女は、既に目を覚ましており、猿轡を咥えさせていた為、声が出せず、手錠とロープでしばっていた為、放置していたら、彼女は死んでいただろう…。


僕は、最初から…何かに使うつもりだったナイフで拘束していたロープを斬り、手錠を切った。


「…ありがとう。」


「ここから、逃げらる。」

「早く!」


そのまま、収納式の階段を昇り、屋敷を抜け出した。

出口のゴミ置き場の黒いビニール袋に変な感触を覚えたが…。


「姉さん!」

「かなた!」

「…。」


下着姿の彼女に、ロープを掛けた俺を見て、過ぎに察した姉は…。

特に、何も言わなかった…。


燃え続け、崩れ落ちる館を眺めていた。

その場所には、多くの人々が居たが…。

オーナーは、その場所には居なかった。


消防車はゆっくりとやって来た…。

こんな山の中だから、それも仕方がない…。


愛知県の山中で起きた…火事…。


それは、バブル時代の面影を残した館が、便利さに負けたという確たる証拠だった。


負動産として、解体をするお金もなく…ただ沈んで行った。


翌日、俺は病院に居た。

ただ帰宅が困難で、融通が利いた。

ありがたいことに、警察がバイクを持って来てくれた…。


「あの娘には、謝ったの?」


「謝ったよ。」


俺を呼んでいた姉は、軽いやけどをしていた。

あの時、俺が逃げずに戻った時に負ったものだ…。


姉さんは、年の離れた唯一の肉親だ。


祖父を失った、俺と姉は…。


もう頼るべきものが無かった…。


親戚も全員死んでいる。

跡継ぎが居なかった…。

産まれなかったからである…。


その後、俺が痛めつけて助けた彼女と不思議な縁があり、結婚することになった。


子も授かったことで、一番喜んでいたのは姉だった。

姉は、わりと早く結婚した。


あのホテルのオーナーが妻の殺害と共に計った、無理心中という自殺は、成功した。


あの教団は、それでも活動を続けている。

自殺幇助と、マインドコントロール…催眠…言い方は様々だが、植え付けられた思想というのは、難しいものだ。

立証するのはやはり難しいという…。


全て、政府が宗教法人という無制限の資金源を手に入れたせいだからだ。


しかし、それも…戦争により機能しなくなった。


僕は、徴兵され…今は、戦場にいる。


ドローンや、近代化された兵器、戦車…。


そんな…様々なものがあるのに…なんで、歩兵は戦場を歩いているのか?


兵士を死の淵から、鼓舞する私に疑問を持った兵士が居た。


彼は、私の部下ということにはなるが…彼は、私のことを不思議そうに…それか、嫌いそうに…。


…それは、それは…生きるに疲れたかのように…聞いた。


私は、戦場(こんなところ)で死ぬよりは、自分の死にたい場所で死にたい…。


そう言うと、彼は少し驚いたように…。


たじろいだ…。


「死にたい場所で、死にたいタイミングで、死にたいように死ぬ…。」


そう…。


ぼくは、あの時…。


『ぼくは、僕の息(生)を引き取った』のだから…。


終わり







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ぼくは、僕の息を引き取る。 葵流星 @AoiRyusei

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