第8話 規律拘束の解
やあやあ、僕だよ、カシグくんだよ。
今回のアヤカシは中昔ホシカという生徒に憑りついた対象暫定名称「マモレマモレ」だ。
彼女もといそのアヤカシの餌食にあえば校則を守らなければならないという強迫観念にかられ、新たなアヤカシと化すという。
確かに僕はアヤカシになりたいと言ったとも。
だけど、どういうアヤカシになりたいかまでは言ってないだろう? 僕は校則を守る妖怪になんてなりたくないのさ。
そしてこの「マモレマモレ」には欠点がある。
それは校則を守らなければならないという法則を自身にも課しているところだ。
つまりなにが言いたいかといえば。
「校則を書き変えてやればいい、それだけマモレマモレを意のままに操れる」
僕は九尾機関を使って、月見里学園の中枢へとアクセスし、校則データを書き変える。
知ってるかいマモレマモレ。今時の生徒手帳は電子式なんだぜ?
僕が学園に通う頃、僕が目指す場所には中昔ホシカが居た。
正座で空き教室に待機せよ。
これが僕の付け加えた新たな校則だ。
もちろん、率先して守るのはマモレマモレだし。
他の生徒は電子版生徒手帳を開こうともしない。
校則をわざわざ見る生徒なんてごくまれだからね。
そんなわけで中昔ホシカことマモレマモレと相対した僕は。
対象暫定名称「呪符」を取り出す。
九尾の尾の研究成果から出来たものだ。
それを中昔ホシカの額に貼り付ける。
するとどうだ。
巨大な蜘蛛のアヤカシが姿を現したではないか!
「なるほどなるほど、校則で絡め取る糸ってわけだ」
『オノレ小癪な小童が! お前如きが何故九尾様の力を!」
「それは九尾様に聞いてくれ、
するとマモレマモレは虚空から現れた鎖に絡め取られ宙へと浮かぶ。
「我が! 我が縛られる!? 縛る法の我が!?」
「残念、君は縛る法じゃなくて縛られる方だ」
禁固百年を告げるとマモレマモレは消えていなくなった。
するとたったったっと足音が聞こえる。
現れたのは。
「ん? お前、誰だ」
櫻坂桜、七不思議の七。
「おや? 幽夜くんは親友のカシグくんを相棒に紹介してないのかい? そりゃまた報連相がなってないなァ」
「うさんくせぇやつ」
「ハハッ、こりゃ手厳しい。僕もね、君とはあまり関わりたくないんだ」
そう言って僕は逃げる。
お生憎様これは本心だった。
基本、嘘吐きの僕だけれど。
怖いものは怖い。
人間であって人間でないもの。
僕が目指そうとしてる中でも最も歪なもの。
それが彼女だ。
九尾でも、マモレマモレでも、九十九幽夜でもない。
僕、煌杜傾は櫻坂桜が怖かった。
アヤカシを退治する人間。
鬼退治に来た桃太郎を警戒する鬼の気分と言えば伝わるだろうか。
僕はまさしく不俱戴天の仇と会ったような気持ちだったのさ。
そんな訳でとても短くなってはしまったけれど。
アヤカシ「マモレマモレ」の怪談はこれでお終いだ。
一つ教訓を残すならば。
必ずしも法を守らせる側が法を守る必要はないというお話。
銃の携帯を許された警官のように。
例外なくして法は守られない。
百年後のマモレマモレはこの教訓を生かしてもっと上手くやれる事を信じよう。
その頃には僕もアヤカシの王になっている頃だからね。
――『臨画伯の怪』に続く――
電脳探偵九十九幽夜の怪奇譚 亜未田久志 @abky-6102
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