第7話 規律拘束の怪


 ――害無き者ほど害を持つ事もある―― 


 今日も今日とてメールが届く。


 2.以下、阿弥陀仏に変わって名無しさんがお送りします。

 アヤカシ:マモレマモレ

 規範至上主義の妖怪。影響下にあると、定められたルールを厳守しなければ気が済まなくなるらしい。


 対象生徒:中昔ホシカ

 金髪のギャル。元々だらしない性格だったが、アヤカシ「校則を守り」に豹変してしまう。


 これ、誰が困るんだ。

「なあ幽夜、これ」

「言うな」

「でもよこれ」

「お願いだから言うな」

 この中昔ホシカという生徒が更生しただけではないか? という指摘を遮る。

「いや……これは由々しき自体だ怪力乱神、この文章をよく読め」

「あん?」

「このアヤカシはアヤカシを増やすタイプのアヤカシなんだ。しかも人間をアヤカシに変えるタイプだ」

「人間がアヤカシに?」

 本来なら有り得ない話だ。

 人間が伝承に変わるなど。

 まあ横にサンプルケースがいるのだが。

 このアヤカシは影響力が局所的な代わりに強力な力を得ている。

 おそらく、だが。

 推測の意気を出ないけれど。

 そこでふととある人物の名前を思い出す。

 最初は名無しであり、次に会った時には蝙蝠屋を名乗った自称カシグくんこと煌杜傾こうもりけいの事を。

『僕はアヤカシになりたい』とかほざいてたやつだ。

 気に食わない。

 なりたいならこの「マモレマモレ」の被害に遭ってしまえばいいのに。

 と思った矢先にメールが届く。

 件名は「Re:蝙蝠屋」

 内容はこうだ。

「やあやあ、親愛なる隣人、九十九幽夜くん。そろそろ僕もしびれをきらしてきたところなんだ。だから今回の『依頼』僕が受けさせてもらうよ。言っただろう、良い返事を聞かせてくれなきゃそうするって。じゃ」

 怪力乱神がお化けパソコンを覗き込む。

「誰だこいつ」

「……気にするな、ただの迷惑メールだ」

「にしちゃ具体的だけど?」

「気にするなったら気にするな、今回の依頼は楽なケースだ。そのマモレマモレとやらに校則を破らせてやれ、そしたら慌てふためいて出て来るに違いない、生徒の心当たりは新聞部に聞けば分かるだろう、後は頼んだぞ怪力乱神」

「珍しく消極的だな、幽夜」

「たまには安楽椅子探偵も悪くないってだけさ」

 ふぅんとだけ口にしてその場を去る怪力乱神。

 僕は「Re:蝙蝠屋」のメールに返信を送る。

 件名は「ReRe:電脳探偵」

 内容は「少し試させてもらうぞ」

 とだけ端的に告げた。

 すぐに返信が来る。

 その内容は――

「もう終わった」

 だった。

 

 ――『規律拘束の解』に続く――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 今回のアヤカシは沖田ねてるさん(@okita_neteru)のアイデアです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る