民俗学を根底に据えた、正統派の
ホラーである。
平家の落人伝説、七人御先、九相図の
ある寺、そして溺死者に群がり喰らう
血の如き赫い蝶…。首、井戸、洞窟、海。
血に色濃く残る怨念は現代へと蘇り、
不遇であった想いを遂げる。因果応報の
複雑な糸は絡み縺れて、読む者を奈落へと
引きずり込む。
永い時を経て蘇る呪いとは何だったのか。
そして、彼を襲う恐ろしくも哀しい
因縁とは。
これ程までに美しくも陰惨な物語を編じる
作者の書庫には、他にも古典的浪漫を
感じさせる魅力的な作品が沢山あるが、
先ずは一つ、じっくり読まれると良い。
虜になること請け合い。
土地や歴史的な考証にも決して手を
抜かない作者の、恐ろしくも哀しく美しい
極上の怪奇譚を。
これは島を巡る因習の物語であり、血脈を巡る因縁の物語でもある。
ひとりの男が旧友の招きに応じてとある島を訪れるところから話は始まるのだが、男を誘き寄せたのは新種の蝶だったのか、旧友との縁だったのか、あるいは……という、読み進めるごとに真実が見えてきて、ミステリーとしての面白さもある。
しかし、それよりも巧みな描写によるホラーの要素が、この物語を突き抜けて素晴らしいものにしているといえるだろう。
個人的にホラーに欲しいのは不穏・不安・不快の3要素なのだが、この物語は不穏な島を舞台に、不安を掻き立てられる筋書きを、不快な男が辿っていくというもの。3要素がしっかり揃っていて面白くないわけがない。
因習だとか大昔の惨劇だとか伝承だとか、そういったものが好きな人にぜひおすすめしたい。
とにかく面白い。