タヌキとキツネのおにいさん

むろまちやよい

第1話 お隣さんのおにいさん

私の家はちょうど私が生まれた頃に出来た大きめのマンションの3階の一室である。同世代の子供をもつ家族の入居者が多いなか私のお隣さんは成人男性2人で住んでいる、たぶん、タヌキとキツネのおにいさんたち。幼い頃からお隣さんでおにいさんたちは私たち家族ととても仲が良く、よく一緒に遊んで貰ったり時にはお家に遊びに行かせてもらうこともあった。なんでタヌキとキツネかというと2人は典型的なタヌキ顔とキツネ顔だし、部屋に遊びに行くと動物を飼っている訳でもないのに明らかに人間じゃない毛が落ちていることも多々ある。幼い頃の記憶から全く容姿が変わっていないし何より気を抜くと耳もしっぽも出ていてバレバレである。たぶんこのことを知っているのはおにいさんたちのお家によく遊びに行く私と弟だけだ。だから私たちは今日も気づかないをしている。


朝、学校へ行くために家を出ると

「おはよう」

と元気に挨拶される。横を見るとキツネのおにいさん、狐森さんがゴミ袋を持って玄関から出てきたところだった。

「おはようございます、今日は狐森さんがごみ捨てなんですね。」

「本当は狸原の当番なんだけどあいつ寝坊しやがったから代わりに俺が出しに行ってんの」

狐森さんは呆れたように笑いながらそう言った。狸原さんとは狐森さんの同居人、つまりタヌキのおにいさんのことだ。狸原さんは朝に弱いらしく寝坊の話を聞いたのはこれが初めてでは無い。

「叩き起さずに代わりに出しに行ってあげるの優しいですね。私だったら弟が寝坊してたら叩き起して出しに行かせます。」

「楓ちゃん強いね、俺は寝起きの狸原機嫌悪すぎて近づきたくないから起こすの諦めてきちゃった」

楓とは私のことだ。ついでに弟は建という。確かに私でさえ朝会う狸原さんはすこぶる機嫌が悪そうに見えるのだから起きてすぐなんてよっぽど機嫌が悪いに違いない。狸原さんの寝起き機嫌最悪エピソードを聞きながらエレベーターに乗り一階へ向かう。エントランスの分かれ道で私が外へ向かおうとすると狐森さんは

「行ってらっしゃい」

と言って私が道を曲がるまで手を振ってくれた。私も

「行ってきます」

と返してエントランスを出てすぐの曲がり道まで手を振り返す。私のお隣さんは不思議だけれど優しいおにいさんだ。

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タヌキとキツネのおにいさん むろまちやよい @muromatiyayoi

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