ずっと隣に居て欲しかった

死神王

本編

 うとうとしていたみたいで、はっとすると座っていたベッドの膨らみがふんわりと感じ始めた。ちょっと寝ちゃったみたい。そう思うと私は眠気の溜まった目を擦り、ゆっくりと立ち上がった。時刻はもう十八時。そろそろ晩御飯の買い物をしようと思って外に出た。


 外はいつもよりも寒くて、冷気が私のこめかみを刺してきた。ぼぅーっとしていた私の頭には丁度よく効いて、白い息はすぐにでも氷になってしまいそうだった。歩いていると、歩道がべちゃべちゃとしていて、昨日、雪が降ったとテレビで見たのを思い出した。履いた長靴の裏の粘着とした雪が少し気持ち悪かった。


 お店に入ると、強めの暖房が飛び出してきて一気に生力が戻ってきた。「今日は鍋にしよう。」と思った私は、そのまま野菜を雑に選んでいた。その後、豚肉を買って、レジに並ぼうとすると、丁度、しばらく会ってない友人がレジに並んでいるのが見えた。


「こんばんは。元気?」


声をかけてみると、友人は振り返り、こちらに反応した。


「あ、久しぶり。元気してたよー。」


「そっかー、買い出し?私もだよー。」


「うん。今日は鍋にしようと思って、」


そう言うと友人は買い物カゴの中身をちらっと見せた。そこには私の買い物カゴと同じような物が入っていた。


「え、同じじゃん。奇遇だねー。」


「にしてもなんか多くない? 彼氏ってそんな食べるの?」


「あー、まあ、残ったら、他に使えるし。」


「確かにねー。」


雑談をしている間に会計は終わって、私と友人は別れを告げた。


 外気に触れると、生力はまたじわじわと弱まっていって、気持ちもだんだん、ぶらーんとしてきた。自宅のアパートに着くと、玄関にある大きめの靴がふっと目に入ってしまった。自分なんかじゃあきっと履けないだろう靴。私は一瞥してキッチンにいき、そのまま鍋の準備をした。


 いつもの癖で明らかに量を多く作ってしまった豚肉の鍋は半分も減らずに、私のお腹を一杯にさせた。食後、こたつに入り、無意識にテレビを付けると、人気の恋愛ドラマが目に入った。私は少しの間目を離さずにぼぅーと見つめていたけれど、ふとスイッチを消す事にした。


 やる事がないなって思った時はすぐ寝る事にしていた。料理を片付けると、なだれ込むようにお風呂に入った。服を脱いで浴室に入ると、ひんやりとした風が背筋を通っていったが、それでもあまり寒いと感じなかった。湯船に入るとぽかぽかとしてきて、少し落ち着いたけど、寧ろ温まったからこそ、寒さじゃない心の穴のような苦しみがよくわかってしまった。嫌になった私は直ぐに出て、体を拭いた後、髪も乾かさずにベッドに直行した。そしてそのまま寝ようとした。時刻は二十二時だった。


 でも、ベッドに入っても全然寝付けなくて、思わずスマートフォンをつけた。Twitterを見ると、下らない芸能人のゴシップとか、よく分からない政治の話が散乱していて、寧ろ嫌になった。YouTubeを押してみたけど、見たいなって思うものがなくて、諦めた。


少し時間が経過して、ゆっくりとホーム画面の左下にあるLINEのアイコンに指を触れさせた。私の指の動きとは対照的にぱっと素早く起動したLINEのトーク画面には、彼のトーク画面があった。彼のトークの最終履歴はちょうど一週間前。私はじわじわと電話のアイコンに指を合わせた。でも、すっと指をずらして、やめた。そんな事を何回も繰り返す内に、なんだか悲しくなってきた。何やってるんだろう。自己嫌悪で涙が零れてきた。悲しくなってベッドの中でもがき始めた。でも、ベッドは余りに広すぎて、私はまるで宙を舞っているかのように、空転していた。

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