第43話 闇勇者ハヤトとの再戦
俺は剣を構え、闇勇者ハヤトと向き合った。不思議だった。闇勇者ハヤトが放っている不気味なオーラは以前と変わっていない。
しかし、俺自身が今までの闘いの中で成長(レベルアップ)してきた。その為だろうか。一対一で向き合っているというのに、かつて程の威圧感を感じていない自分に気が付いた。
「生意気なんだよ……カゲト君。モブキャラでしかない君の分際で、何を余裕を持った表情をしているんだ」
闇勇者ハヤトはその整った表情を歪ませる。奴からすれば他者など虫のように踏みにじるだけの存在でしかない。その虫が歯向かおうとしてきているのだから、気に入らないのであろう。
「ハヤト……これ以上の凶行はやめるんだ」
俺は無駄だとわかりつつもそう言うのであった。
「何を言っているんだ、カゲト君。そんな事言ってきても無駄だって事、自分でも何となくわかってるんじゃないかな」
闇勇者ハヤトは嘲るような笑みを浮かべる。
「僕はもう、魔王軍の側の人間だ。説得しようとしても無駄だよ。言葉なんてもはや不要さ。相手を従わせたかったら、力で証明するしかないんだ」
「……そうか。俺達はもう、闘うしかないんだな」
俺達は剣を構え、向き合う。
「それじゃあ、僕の方から行かせて貰うよ。カゲト君」
闇勇者ハヤトが斬りかかってきた。一気に踏み込んでくる。その動きは尋常ではない程に速いものであった。
普通であるならば、一瞬で相手の首を刎ねてしまえるであろう。それほどの速さ。目にも止まらぬ攻撃とはこの事だった。
――だが。
キィン!
甲高い音が響く。俺は闇勇者ハヤトの攻撃を剣で受け止めたのだ。
「なっ!?」
闇勇者ハヤトが目を大きく見開き、驚いたような表情になる。見える。闇勇者ハヤトの攻撃が。かつての俺だったら見えなかった事だろう。しかし、いくつもの闘いをクリアしてきて、俺は成長(レベルアップ)をしてきた。今の俺だったのならば、闇勇者ハヤトの攻撃だって対応する事が出来た。
「ふざけるなっ!」
しかし、それが闇勇者ハヤトにとっては不服だったようだ。それも当然の事だ。奴にとっては俺なんてただの格下。それどころか虫のように踏みにじる対象でしかない。少なくとも闇勇者ハヤトはそう思っているはずだ。
だから、そんな俺に攻撃をまともに受け止められて奴にとっては面白いはずがなかったのだ。
「ふけるなよっ! お前のような奴に、なんで僕の攻撃を受け止められなきゃなんだ!」
キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン!
闇勇者ハヤトは激昂して、俺に襲い掛かってくる。その攻撃は速くはあったのだが、直線的で読みやすかった。怒った人間の行動というのは至極単純で、思慮が足りないものだ。
普通の人間には無理でも、今までの闘いで成長(レベルアップ)してきた俺ならば見切れない程の攻撃ではなかった。
「くそっ! ふざけるなよっ! お前程度の奴が、なんで僕の攻撃を受け止められるんだ!」
闇勇者ハヤトは激昂していた。幾多もの攻撃を繰り返した後、闇勇者ハヤトは大きく後ろに跳んだ。
距離を取ったようだ。当然のように、今回は逃げるつもりはないようだった。今のこいつは決して前のように慢心してかかってきているわけではない。本気で俺達を倒そうとしているのだ。
「もういい……もういい……飽きたよ、カゲト君。君との闘いは。君とまるで互角の闘いを演じているというだけで、僕は不愉快だ。もう君の顔を見たくもないよ……いいよ。死んじゃえよ、カゲト君」
闇勇者ハヤトは大きく剣を振りかぶった。魔剣『ダークエクスカリバー』。その魔剣を大きく振りかぶったのである。そして、暗黒のエネルギーが天高くまで伸びていくのであった。そのエネルギーの強さは前の時よりもずっと強大であった。
「ふふっ……カゲト君。この攻撃は前の君達に放ったものよりも、もっと強力なものなんだ。敵うわけないんだよ、君程度では」
「……そうかもしれない。だけど、やるしかないんだ。その攻撃を凌ぐ以外に活路がないんだったら、やるしかない」
俺は勇者の剣を強く握りしめた。
「生意気なんだよ! カゲト君のくせに! もう死んじゃえよ! 『ダークエクスカリバーEX』!」
そう言って、闇勇者ハヤトは『ダークエクスカリバー』を振り下ろしてきた。天から大量の暗黒のエネルギーが降り注いでくる。
くそっ……そうは言ったものの、その攻撃は凄まじいものであった。レベルアップをした今の俺でも受け止められない程に。
まずい……このまままともに受け止めてはやられてしまう。
――と、その時の事であった。
エステルとレティシアが俺の元へと駆け付けてきた。
「カゲト様!」
「ふ、二人とも、アスタロトはどうしたんだ……」
「アスタロトは死霊術士(ネクロマンサー)です。召喚した不死者(アンデッド)を倒せば、本体自体はそう強くはありませんでした」
「……そうか」
後ろを振り返ると、アスタロトの姿はなかった。劣勢を感じ、その場から逃げ出したのだろうか。
ともかく、一対一では無理だとしても、三人でかかれば何とかなるかもしれない。
「虫ケラが三匹に増えた所で、何が変わるって言うんだ! 死んでしまえ!」
圧倒的な暗黒のエネルギーが俺達に襲い掛かってくる。
「聖障壁(ホーリーウォール)!」
レティシアは魔法スキルを発動した。聖なる光の壁が俺達を守るべく、展開される。
「くっ!」
レティシアは表情を歪めた。
「ふっ! 無駄だって言っているだろう! そんな程度の護りで、僕の最大の攻撃を防ぎ切れるわけがないんだ!」
実際、その言葉の言う通りであった。レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』を以てしてでも、闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』は防ぎ切れなかった。
パリン!
まるでガラスが割れる時のような音を発して、レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』は四散した。
「あっ、ああ……」
レティシアは項垂れる。
「諦めるのはまだ早いです! 聖光覇斬剣!」
エステルはそう言って、技スキル『聖光覇斬剣』を放った。エステルの剣から、聖なる光が放たれ、闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』と衝突する。
「くっ!」
レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』と相殺して、威力が減退しているにも関わらず、その暗黒のエネルギーは凄まじいものもあった。
エステルの『聖光覇斬剣』が押し負けている。
「ほら、だから言ったじゃないか! 無駄な抵抗だってさ! クックック!」
「そ、そんな……」
「諦めるのはまだ早い!」
俺は剣を振りかぶる。俺にはまだ切り札があった。そう、最近レベルアップした事で習得する事ができた新しい技スキル『ロックブレイカー』だ。この技は単体攻撃の技スキルではあるが、今まで習得してきた技スキルの中で最も攻撃力が高い。
今の状況におあつらえ向きの技だ。
「食らえっ! 『ロックブレイカー』!」
無属性のエネルギーが剣から放たれる。
「な、なにっ!」
レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』。そして、エステルの『聖光覇斬剣』により、闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』の勢いは大分減退していた。それなりに威力が相殺されたのだ。
その前提条件があれば、俺の『ロックブレイカー』は闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』を凌ぐ事ができる。そう、俺は思っていた。
『ロックブレイカー』と『ダークエクスカリバーEX』の力が押し合う。一瞬、拮抗状態になった。
だが、拮抗していたのも一瞬だけだった。俺の『ロックブレイカー』が相手の攻撃に押し勝つ。
――そして。
「なっ!?」
無防備な状態で闇勇者ハヤトへと襲い掛かっていったのだ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
闇勇者ハヤトは悲鳴を上げた。
「やったか……」
「く……くそ……この僕がこんな目に合うなんて」
闇勇者ハヤトは大ダメージを負っていたが、健在だった。
「この僕が、相手を二度も見逃す事になるなんてな」
「くそ! ふざけるなよ! 逃がすかよ!」
「逃げるんじゃない! 見逃してやるんだ!」
闇勇者ハヤトはアイテムを取り出した。クリスタルのようなアイテム。
「それは移動用の消費アイテム」
「そうだ。こいつを使用すれば、僕は本拠地にまで戻る事ができる。後、勘違いするなよ、僕はお前達を見逃してやるんだからな。決して逃げるわけじゃない」
「なんと見苦しい言い訳を」
「うるさい! 黙れっ! じゃあな。カゲト君。次に会った時は確実に君を殺す。絶対にだ」
そう言って、闇勇者ハヤトはクリスタルを砕いた。
そして、その場から逃走していったのだ。恐らくはアスタロトもそのアイテムを使用して逃走したのであろう。
「終わったか……」
俺達はほっと胸を撫で下ろす。何にせよ、これで一応危機は去ったというわけだった。
こうして俺達の闘いは一応の終わりを告げたのである。
勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを全部貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。 つくも @gekigannga2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを全部貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます