第42話 アスタロトとの闘い

(三人称視点)


「ふっ……私の相手はお前等か」


 エステルとレティシアの前に、魔王軍四天王の一角であるアスタロトが立ちはだかる。


 その名にそぐわぬ、不気味なオーラをアスタロトは放っていた。ただならぬ敵であるという事は瞬時に伝わってくる。単身ではあるが、決して油断ならない相手であった。


「お前達の相手はこいつ等にしてもらおうか」


 アスタロトは不気味な笑みを浮かべた。アスタロトは死霊術士(ネクロマンサー)である。死霊術(ネクロマンス)を使用するつもりなのだろう。


「『死霊術(ネクロマンス)』」


 アスタロトは『死霊術(ネクロマンス)』を発動した。


「『アンデッドウォーリアー』『アンデッドナイト』『エルダーリッチ』」


『『『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』』』』


 魔法陣が地面に描かれ、猛烈なうめき声が響き渡った。魔法陣から現れてきたのは複数体のアンデッド達だ。


『アンデッドウォーリアー』は両手に剣と斧を持った、接近戦に特化した大型のアンデッドモンスターである。どちらかというと、攻撃型のアンデッドモンスターだ。

『アンデッドナイト』は片手に剣を持ち、片方の手に盾を持ったアンデッドモンスターである。『アンデッドウォーリアー』が攻撃よりのアンデッドモンスターだとすると『アンデッドナイト』はどちらかというと、盾を持っている分、防御力によっている。

そして『エルダーリッチ』。これは大墳墓でカゲト達が闘った、リッチの上位版のようなアンデッドモンスターだ。強力な魔法攻撃を使用してくる。



「行け! 私の不死者(アンデッド)達よ!」


『『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』』


 奇声を上げつつ、『アンデッドウォーリアー』と『アンデッドナイト』がエステルとレティシアに襲い掛かってくる。


 キィン!


「くっ!」


 エステルは迫りくる刃を自らの剣で受け止めた。甲高い音が響き渡る。こういう場合は前衛職であるエステルの役割みたいなものであった。前線に出て、刃を交えるのが彼女の仕事である。


 キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン!  キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン!


 甲高い音が響き続ける。流暢にも聞こえるその音の連続はまるで楽器の演奏のようにも聞こえてきた。

 いくら剣聖である彼女といっても、上位アンデッド二体を同時に相手にするのはなかなかに難儀しそうなものではあった。エステルは


 当然のように、ただそれを黙って見ているエルダーリッチではなかった。エルダーリッチは呪文を唱え始める。エルダーリッチは魔法スキルを発動しようとしているのだ。


 放たれるのは『暗黒魔法(ダークネス)』だった。暗黒の波動がエステルに襲い掛かってくる。


「させません! 『聖障壁(ホーリーウォール)』!」


 レティシアは『聖障壁(ホーリーウォール)』を発動させる。聖なる光の壁にエステルは包まれる。そして、暗黒の波動はエステルの前で塵のようになって散っていった。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 間髪入れずに、エステルは『アンデッドウォーリアー』に斬りかかる。


『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


『アンデッドウォーリアー』は悲鳴を上げて、果てた。『アンデッドウォーリアー』と『アンデッドナイト』は二体で一体のような組み合わせだ。二体揃っていなければ、それほどの脅威にはならない。こうなればもはやこちらのものであった。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 続いて、エステルは『アンデッドナイト』に斬りかかる。


 キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! キィン!


 しばらくは剣と盾で攻撃を凌いでいた『アンデッドナイト』ではあったが、地力は明らかにエステルの方が上であった。次第に限界がやってくる。『アンデッドナイト』の盾が吹き飛んだ。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 エステルの剣が『アンデッドナイト』に突き刺さる。


『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


『アンデッドナイト』が悲鳴を上げて果てた。


「『聖魔法(ホーリー)!」


 レティシアは『聖魔法(ホーリー)』を放った。聖なる光がエルダーリッチに襲い掛かる。エルダーリッチは魔法こそ使えるが、HPや防御力はそう高くはない。攻撃が当たりさえすれば、割とあっさり死ぬタイプの敵でもあった。


『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 エルダーリッチが悲鳴を上げて果てる。


「くっ……こいつら、人間とエルフのくせに中々にやるではないか」


 アスタロトは表情を歪める。アスタロトのLVは高いが、それでもアスタロト自体の戦闘能力はそう高くない。死霊術(ネクロマンス)により呼び出された不死者(アンデッド)の壁さえ突破できれば、勝つのはそう難しくはないはずだ。


 戦況はこちらに分がある、そう思っていた。


 だが、懸念点があった。そう、闇勇者ハヤトとカゲトとの闘いである。


 強烈な光と闇のぶつかり合いを二人は感じた。


 次回、闇勇者ハヤトとカゲトとの闘いに移っていく。

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