第41話 アスタロトと闇勇者ハヤト

 エルフの国にある『レベルアップの泉』により、俺達がレベルアップした後の事だった。


「大変です! 皆様!」


 俺達の元に、エルフ兵が駆け寄ってくる。随分と慌てた様子だ。


「どうしたのですか?」


「魔王軍の四天王であるアスタロトが率いる軍が移動を始めました。どうやら、エルフ国の攻略を諦め、別の戦線へと向かうようです」


「別の戦線……って、どこに向かったんだ?」


 俺はそう聞いた。


「それが、何でも人間の国であるエスティーゼ王国へと向かったそうです」


 エスティーゼ王国。それは間違いない。俺があの勇者ハヤトの異世界召喚の際に、巻き込まれて召喚された王国だ。


「いかがされましょうか? カゲト様」


 レティシアが聞いてくる。


「放っておく事なんて出来ない。恐らくは闇勇者ハヤトも同行しているはずだ。奴は危険な存在だ。俺達もエスティーゼ王国へ向かおう」


「カゲト様がそうおっしゃるのなら、向かいましょう」


 エステルは頷いた。


「決まりましたね。向かいましょうか」


 こうして俺はエスティーゼ王国へと向かうのであった。


                 ◇


 こうして、エスティーゼ王国へと向かった。俺達、色々とあったが、最終的にはこうやって闇勇者ハヤトとの再会を果たす事になったのだ。


 闇勇者ハヤトの傍らには見目麗しいが、怪しい雰囲気の女性がいた。間違いないだろう。直接会うのはこれが初めてではあるが、彼女が魔王軍四天王の一角であるアスタロトだ。


 闇勇者ハヤトはあのミレイア王女に手を下そうとしていたのだ。危ないところだった。この国の国王と、王女であるミレイアに俺は良い印象を抱いてはいないが……それでも人が死ぬというのは後味が悪く、出来れば避けたいものであった。


「久しぶりでもないね……この前会ったばかりだものね。カゲト君。何となく、君達なら来そうな気がしてたよ」


 闇勇者ハヤトは不気味な笑みを浮かべる。


「隣にいるのは魔王軍四天王の一角であるアスタロトで間違いないんだな?」


 俺はそう聞いた。


「ああ。その通りだ。私が魔王軍のアスタロトだ」


 アスタロトは答える。どういうわけかはわからないが、他に魔王軍の魔族兵などはいないようだった。二人でこの王国を侵略しに来ているようだった。二人で十分という事か。やはり、このアスタロトも相当な強者のようであった。


「『解析(アナライズ)』」


 俺は『解析(アナライズ)』のスキルを発動させる。アスタロトの戦力を読み取ろうと試みたのだ。


======================================

アスタロト。魔族。LV60。HP500。

魔王軍四天王の一人である魔族、アスタロト。死霊術士(ネクロマンサー)である為、直接的な戦闘能力はあまり高くないが、死霊術(ネクロマンス)により、不死者(アンデッド)を召喚して闘う

======================================


「やはり、アスタロトは魔王軍四天王の一角というだけの事はある……間違いなく、強敵だ。決して侮る事は出来ない」


 ……だけど、それと同時に思う。俺達もまた、『レベルアップの泉』に入ってレベルが上がった。そして、今までの闘いで着実に強くなってきたんだ。だから、決して敵わない相手ではないはずだ。


「ど、どうやって闘いましょうか。カゲト様」


 エステルが俺にそう聞いてくる。


「俺が闇勇者ハヤトと闘う。だから、レティシアとエステルの二人はアスタロトと闘ってくれ」


「ふっ……随分と舐められたものだね。カゲト君。ほら、行け」


「は、はぁ……」


「お前を痛ぶるのは後にしてやる。だから父親と隅っこの方で震えて待っていろ」


「は、はい!」


 ミレイアはさっさと逃げ出していく。


「ミレイア、無事だったか!」


「お父様! 無事でしたわ!」


 二人は涙ながらに抱き合う。先ほどまではお互いを犠牲にしてでも、自分だけは生き残ろうとしていたのだろう。


「それじゃあ、やろうか。カゲト君。もう、僕は前の時のように油断していない。君にはもう、万が一もの勝機はないんだよ」


 闇勇者ハヤトはそう言って、剣を構えた。


「ああ……そうだな。だけど、俺もまた、前のままの俺じゃない」


 俺もまた剣を構えた。


 緊張感が高まっていく。そして、高まった緊張が一気に弾ける。

 

 キィン!


 剣と剣が打ち鳴らされた。激しい音が、周囲に響く。


 こうして、俺達と闇勇者ハヤト、そして四天王アスタロトとの闘いが始まったのである。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る