第5話 理想のラブコメは終わり、現実の地獄が始まる。①
「はぁぁ、疲れれたぁぁ、つっても明日から定期テストだから勉強もしなきゃダメだしなぁ」
家に帰り、俺は自室のベットに倒れ込む。
俺はベットに寝っ転がってなんとなく天井を見ていると、今日起きたことが頭の中で映像のように次々と映される。
「ほんっと今日は色々あったなぁ」
そうな風に呟くと同時に一つ頭の中に疑問が生まれる。
(なんであんなセリフが出たんだろう?)
しかしその疑問の答えを出す前に東雲さんとの怖い体験を思い出し、身震いする。
「…もう思い出したくもないな。まぁ明日から
そう言ってベッドで寝返りをうとうとするとポケットに何かが入っている感覚がする。
(何か入れてたっけ?)
俺はポケットに手を入れ、物を出す
「あっ!」
俺の手の中にあったのは拾ったキーホルダー。そしてそれは
「拾ったの忘れてた… マジで、どうしよう…、コレ…」
ピリリリリ!ピリリリリ!
そう言っていつも起きる朝六時四十五分を告げるアラームはいつもなら何も思わないのに、どうも止めるのすら嫌になる程不快で仕方ない。
理由は簡単だ。あの日に一晩中悩んで元の場所に置いてくることなども考えたが、結局返す方がいいと結論づけたのだが、なんだかんだで逃げてしまった結果、テストの結果返しとキーホルダーを返さなければならないというプレッシャーでこの上なく学校への気持ちが向かないのである。
しかし、俺を責めないでいただきたい。ちゃんとした理由があるのだ!
あの日の次の日返そうと思って学校へ行ったら、昨日見た真顔の東雲さんに鬼のような顔をした生徒会長、そしてその視線の先には
まぁ結果としては、クラスの様子にビビり散らかした俺は
「今はテスト中だしな![#「!」は縦中横]テスト後に渡そう![#「!」は縦中横]」
と逃げに逃げた結果、もうこれ以上逃げられないところまで追い詰められているのだが、
ピリリ、ピッ!
「はぁぁ…ついにきてしまった…」
俺はなんとか嫌がる心と体を落ち着かせてベッドから出る。
昨日の尾行やら勉強やらの疲労のせいか、今日これからのテストやら落とし物を返すことやらのせいか、体が異常に重く、頭もぼーっとしている。
「ダメだな!こんなんじゃ!」
そう思いだった俺は洗面台に向かい、ほぼ自分の頬を叩くくらいの強さで叩きながら顔を洗う。
もちろん痛いが、その分、憂鬱な朝特有の心の中のモヤモヤ感が少し和らぐ感じがする。
俺は着替えて、下に降りると、いつもの通りパンとおかずは冷蔵庫の中にあるという内容の母からの置き手紙が置かれている。
うちは共働きで、二人とも朝早くに出る。
正直、ただでさえ朝早い母におかずまで用意してもらっているのもいつか近いうちに卒業しなければとも思うのだが、なかなか踏ん切りがつかないでいる。まだ寝ている妹のために袋に入った四つのパンのうち二つを口に放り込み、冷蔵庫から取ったおかずを摘んで朝ご飯を食べ終えた。時計を見るとまだ時計の短い針が七と八の少し七よりの位置にあった。
いつもはもう少しゆっくりしてから出るのだが、今日は早めに家を出ることにする。
「いってきます」
俺は妹が起きないよう少し控えめな声でそう呟き、家を出る。
俺の家から学校までは自転車で三十分程度で電車で行くと三駅ほどだ。
俺はいつもの自転車を学校に向けて走らせた。
俺はいつも海沿いの大通りを通って学校に行っている。もう少し近い道は探せばあるのだろうが、そこまで変わらないだろうし、何より、朝の海沿いは心地よい風が吹いていて気持ちがいいのだ。
その風の心地よさと学校への心の拒否反応が相まって一生このままでいたいなんて考えてしまう。しかし現実そんなやさしくはなく、風を感じているとあっという間に学校の正門が見えてくる。
私立樹ノ前高等学校。
県の中でもそこそこ頭のいい学校として知られる古き良き名門校である。
俺は学校に着くと、駐輪場に自転車を止め、荷物を持って教室に向かう。
二年一組、コレが俺の所属するクラスであり、二.五次元ラブコメの舞台となっている場所だ。
早めに来たからか、教室にはあまり人はいなかった。
俺はいつもの窓際の席にバックを下ろして教室を見渡す。
すると俺の席と同じ列の反対側、つまりドア側にぱっと見は普通だが、明らかにあの日から元気のない東雲さんが明らかに負のオーラを撒き散らしながら、本を読んでるのが目に入る。
(早速チャンスだ!)
俺は少し呼吸を整えておもむろに東雲さんの席に近づく。
ドキ、ドキドキ、ドキドキドキ、と近づくにつれて心臓が緊張で高鳴るのを感じる。
仕方ないだろう?入学してから業務連絡以外で他人に話しかけるのは初めてなんだから。
「あっあのさっ!東雲さん」
俺はなんとか勇気を振り絞って声を出す。少し裏返ってしまったが、コレでも俺にとっての限界だ。
「…なに?」
東雲さんはさっきより負のオーラが増えた感じで答える。
元々不機嫌な上、ずっとつけられていた僕に話しかけられたのだ。当たり前っちゃ当たり前である。
「あのさっ!えっと!前さっ!
「ピンポンパンポーン、二年一組、志波。二年一組 志波。至急職員室にきなさい」
「………」
(なんでだよぉー何で俺が頑張ろうとした時に限ってぇ!ここは引くか?でもまた話しかけなきゃならなくなるんだよなぁ)
「呼ばれてたよ?行かないの?」
俺が頭を悩ませてると東雲さんが追撃のようにそんな言葉を投げかける。
「あっ、えっと」
(どうする?どうする⁉︎
もうどうにでもなれ!)
俺は手に握りしめていたキーホルダーをサッと東雲さんの机の上に置いて、
「こっ!これ落としてたよ!」
(言えた!言えたぞっ!)
「じゃ、じゃあ僕は職員室に行くから」
そう言って俺はそそくさと逃げるように教室を出た。
「はぁぁぁ」
俺は大きなため息と共にずっと緊張しっぱなしで固まっていた体を柔らかくする。
少し落ち着いたので職員室に向けて歩き出す。
現実ラブコメのヒロインはやはり裏があるようです。 @MOB150
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