第4話 現実ヒロインも所詮は現実。裏くらいあるさ。

俺はあまりにも有り得ない光景にもう少しちゃんと見ようと少し近づくと、何か彼女の口から発せられているのに気づく。

「なんで?なんで?私じゃないの?どう考えても私がメインヒロインだったよね?なんで?なんで?」

 それはおおよそ人の声とは思えないようなうめき声にも近い声で、ものすごいスピードで発せられる声だった。

 (え?こっ怖っ!怖ぁ!)

 俺は咄嗟にその場から後ろに人生で初めてのバックステップを決めてしまった。

 これ大丈夫なのか?声かけた方がいいか?なんて考えてもいたが、その声とも言えない声を聞いた瞬間、俺の頭はさっきと同じ命令を下す

 Go back home家に帰れ

 (よし!帰ろう!)

 俺は急いでその場から離れようとバックを抱きしめながらその場から離れようと走り出そうとする。が、どれだけ床を蹴っても前に進まない。

「は?」

 その事実に気付いたと共に今最も話しかけられたくない相手の声が後ろから俺に向かって放たれる。

「待って…」

 (あっ、終わった)

 全力で現状を打破しようと回っていた頭は"無理"というか結論だけを出し、動きを止める。

 俺は恐る恐る後ろを振り返る。そこには予想していたさっきのような怖い顔ではなく感情のないロボットのような真顔だった。

 (コワイヨォ!ダレカタスケテェ!)

 少しの沈黙が流れると東雲さんは向かいの席を俺を捕まえた逆の方の手で刺しながら小さな声で囁くように言った。

「座って」

「はっはい!」

 おそらく今断っとくべきなのだろう。しかし、尾行能力こそあれどぼっちコミュ障の俺にはことわず勇気などあるわけないのだ。よってまんまと死刑代向かいの席に座る。

「ねぇ、君って志波くんだよね?」

 (バッ、バレてた⁈)

 俺はおそらく数少ない得意なことである尾行がバレていたことに多少ショックを受けつつも、もう頭は大して機能してないので素直に答えるしかなかった。

「は…はい…」

 そう言いながら俺は帽子やら伊達の眼鏡やらを外す。

「じゃあもう一個質問。君、私たちのことずっと見てたよね」

 (これもバレてんのかよ!それにこれはまずい!本気でまずい!)

 俺はもうほぼ動かない頭を無理に動かそうとする。

「チ、チガウヨ?ソンナコトシテナイヨ?」

 (あっ…俺死んだ)

 刹那の静寂。その俺に残された短すぎる余命が二人以外誰もいないカフェに流れた。

「嘘ね「すみませんでしたぁぁぁぁ」

 俺は無意識に東雲さんの言葉を全て聞く前に入り込むようにその場で土下座した。

「悪気があったわけじゃないんです!ただ玉村たちの恋愛模様が気になったというか!本の出来心だったんですぅ!」

 (モウナニモワカラナイ)

 今度はさっきよりずっと長い沈黙が流れた。

「…別に怒ってるわけではないよ」

 (生きてる?え?俺生きてる?)

 突然下げた頭の上から予想と反した言葉が投げかけられ、俺は頭を上げる。

 真顔の東雲さんは俺と目があうと口を開く。

「最後に聞くわ。私どうして、フラれたのかしら?」

 (違ったぁ!より無惨に殺す死刑台に送られただけだったぁ!)

「わっわかんない…です」

 俺は死を覚悟してそう素直に答える。

「そう…それならいい。帰っていいよ」

「はっはい!」

 そう言って俺はその場から逃げるように離脱した。

 (え?俺生きてる?生きてるぞぉぉぉぉ!)

 俺は全力疾走でエスカレーターを降り、ショッピングモールから出て、やっとの思いで帰路に着いた。

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