第3話 現実ラブコメのヒロイン終了のお知らせ。
近くの席でショートした脳を抱えながら項垂れていた。
そして限界を迎えた脳が体にこう指令を出す。
俺はその命令に従い、すぐにその場から逃げるため、二人に気づかれないように少しかがみながらゆっくり椅子から腰を上げてその場から立ち去ろうと二人とは反対方向へ進みだす。静かな空間の中、俺の体は脳の指令のまま出口に向かって通路を進む。
無事、気付かれることなく入り口付近まで辿り着く。
(よし、あとは出てエスカレーターに乗るだけだ)
しかし俺はそのまま行けばいいものを、最後に二人の様子が気になってしまい、後ろを振り向いた。
その時目に入ったものによって俺の人生が狂わされるとも知らずに。
(え?なんで?)
俺の目を引いたのは泣いてる柊さんと抱き合ってイチャイチャしている玉村の姿ではなく、二人のテーブルの数個こちら側、つまり俺と二人の間の席に佇む明らかな
もう日もほぼ落ち、俺とイチャイチャする主人公とメインヒロインの二人を除いた人はいないはずの空間に最もいてはいけない存在。そんな彼女の俯く姿が俺の目に飛び込んでいた。
見間違えるはずがない。
(なんでここにいるんだよっ!東雲さん!)
そう。そこにあったのは
東雲さんは明らかにさっきとは違う格好をしていたが、俺からしてみればバレバレの格好だった。
その姿を認知した俺の脳は再びフル回転し、wait《待て》と体に命令する。俺は指令通り、その場にしゃがみ込み、三人が見える通路の下から顔を出して、三人を観察する。
二人はさっきからずっとイチャイチャしているし、東雲さんは少しも動かずにずっと下を向いている。
(完全に硬直状態だぞ!どうすりゃいいんだよ!)
「あんなに東雲さんのこと世話してたのに好きじゃなかったの?」などの同情しかない質問に
玉村が「そんなつもりはなかったんだ。俺も俺並みに彼女に自信を持ってもらいたかっただけで」なんて意味不明な回答がしばらく繰り返されると、玉村は泣き止んできた柊さんに
「もう大丈夫か?」
と、戸惑いながら聞く。
すると柊さんは最高の笑顔を浮かべる。
「うんっ!」
「じゃあそろそろ帰ろうか」
「そうだね!」
二人は荷物を持って
このままこっちに進むと、二人の視界にしっかり東雲さんが映ってしまう。
(ヤバイ!このままだと東雲さんが!)
俺はそう思うと同時にもう動いてしまっていた。
俺はパッと自分のリュックのチャックを開け、通路を二人の方に走っていき、
「ぁいったぁぁーー」
思いっきりコケた。
来れると同時にチャックの開いたリュックからは中身が飛び散る。
「だっ大丈夫ですか?」
さすがラブコメ主人公と言わんばかりの速さで玉村はすかさず、声をかけて、拾おうとしてくれる。
「だっ大丈夫です!自分で拾いますので!」
と俺は強めに言って、散らばった荷物を拾い出す。すると玉村は少し迷って少し後ろでタジタジしていた柊さんに話しかける。
「じゃあ俺たちはこっちから回って帰ろうか」
「あっ?うん!そうだね!」
そう言って二人は少し遠回りのルートで帰っていった。
「ふぅ」
俺は一息つくと恐る恐る後ろを振り向く。
しかし東雲さんは目の前で人が盛大に転んで会話までしたというのにさっき見た俯いた体勢のままだった。
(えっ?死んでる?)
俺はそれを前にしてゆっくり少し離れた場所から顔を覗き込む。
「っ!」
その瞬間目に入ったのはこれまで見てきたラブコメのヒロインとは到底思えないような、
言葉通り全てをを失った[#「全てをを失った」に傍点]人のようなだった。
目は開いているし、息もしているのはなんとなくわかるが、それでも死んでいるのではないかと思ってしまうほど目に光がなく、顔色が悪かった。
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