第4話 啓太君になる

 その日は、デパートに制服の採寸に行った。中学校に通うために制服がいる。啓太君のもあるけど、僕は背が低いからサイズが合わなかった。


 その日から、僕は啓太と呼ばれるようになった。まるで別人になったようで、居心地が悪くて、気が狂いそうだった。デパートの食堂でランチを食べたけど、お行儀が悪いと何回も注意された。きちんとしないと殴られるかもしれない。僕はできるだけきれいに食べるようにしたけど、ずっと怒られていた。


 その日の夜。僕が寝ていると、夜中に啓太君が布団に入って来た。何をされてもいいから、いなくならないで欲しかった。

「僕はもう出て行くから、君も頑張ってね。誰かいい人が見付かったら僕と同じ方法で、手紙を送るといいよ。そしたら、ここから出られるから」

「どこに行くの?」

「あの世かな。行くところないし、中学生だと仕事もできないし」

「本当は生きてるの?死んでるの?」

「触ってみる?」

 僕は啓太君の髪を触ると、ごそっと髪の毛が抜けた。顔を触ると、ゼリーみたいにぶよぶよだった。僕は何も言えなくなった。啓太君はきっと死んだんだ。次を見つけてからじゃないと、きっと死なせてもらえないんだ。


 僕のこと好きでいてくれたわけじゃないんだ。僕はハメられたんだ。僕は必死に啓太君になろうとした。啓太君になれれば、将来、虎田建設工業の社長になれる。

 でも、塾通いして、空手を習わされて、成績が悪いと詰められて地獄だった。

「もう死にたい」

 僕が言うと、2人は「じゃあ、代わりを連れて来て」と答えた。やっぱり本当だったんだ。


 僕は耐えられなくなって手紙を送った。塾で知り合った、公立の男子だ。


「僕は前から君のことが好きでした。君が僕のことなんか好きになるはずないから、僕は、、、」


 ちょっと後ろめたい。本当にごめんね、も言いたい。

 

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身代わり 連喜 @toushikibu

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