第3話 啓太君

 僕は2人が怖かった。2人は啓太君の分身だからだ。啓太君を2つに分けると、両親になる。僕を連れに来たんじゃないかと錯覚する。2人は僕の部屋を見せてと言った。ママはいいですよ!と言って断らない。なぜそこまでする必要があるのかわからない。ママは宗教をやっているから、人に優しくしないといけないと思ってるのか。

 2人は僕の部屋にある物を触ろうとする。僕は断れない。目の前にいるのが啓太君のような気がする。フィギアや漫画を手に取る。クローゼットを開けて見る。気持ち悪い。

「もう、あった?あれ」

「え?」

「精通っていうのかしら」

「はい」

「もう、大人ね」おばさんが気味悪く笑う。

 僕のことを2人はずっと尋ねる。体のことや健康状態、身長、体重、血液型。今までかかった病気などだ。

「お小遣いは毎月いくらもらってるの?」

僕は頭が混乱する。なんでこんなことまで聞くんだろう。

「3000円です」

「啓太は50,000円くらいだったかなぁ」

 羨ましくはない。この両親の元で生活するくらいなら、3000円だっていらないくらいだ。


「ねえ、怜君。僕の手紙読んでくれた?」

「え?」

 

 2人の声が混ざり合って、啓太君の声になっていた。


「読んだよ」

「返事を聞かせて」

「え?返事いらないんじゃないの?」

「君の本当の気持ちを聞きたい。僕をどう思っているか」

「どう思ってるかって・・・虎田君が怖いよ。それだけ」

「あとは?僕のこと好き?嫌い?」

「普通」

 どちらと言っても後で面倒臭そうだったからだ。


「じゃあ、まだ可能性があるってことだね」

 僕は首を振った。

「ないよ」

「僕は絶対あきらめないよ」

 2人は笑顔で僕を見ていた。その目は飢えた狼みたいだった。


 その夜だった。パパとママが僕のことをリビングのソファーに座らせた。

「怜。話があるんだ」パパが神妙な顔をして言う。

「何?」

 塾の成績が下がっていることを怒られるのかと思っていた。

「実は、虎田さんたちが怜を預かりたいと言ってるんだよ」

「嫌だよ!」

 僕は叫んだ。

「絶対嫌だ」僕は本気で泣いた。

「もういいって言っちゃったんだよ。虎田さんたちは啓太君が亡くなって、毎日泣いて暮らしているって言うから、励ましてあげてほしいんだ」

「嫌だよ。僕絶対嫌だ。え~ん」


 僕は泣きじゃくった。虎田さんたちが気持ち悪かったからだ。2人はまるでSF漫画に出て来る宇宙人のようだった。僕を裸にして隅々まで検査して、インプラントを埋め込むんだ。僕は24時間監視される。まるであの2人の操り人形だ。


 次の日、虎田さんの両親が迎えに来た。僕は嫌がって泣き叫んだけど、パパとおじさんで2人がかりで僕を動けないように抑えつけて、無理やり車に乗せた。僕は暴れて逃げようとしたけど、パパは絶対に離さなかった。僕は泣いた。ずっと抵抗していたけど、途中でもう力尽きてしまった。


 それから、虎田家に着くと、パパと虎田さんに両側をがっちりガードされて、玄関に連れて行かれた。すごい豪邸だった。そうだ。虎田さんは会社をやってるんだ。パパはFXで損して何千万も借金があった。自己破産しようかと話しているのを聞いていた。僕はお金で売られたのかもしれない。


 パパはおじさんたちに頭を下げた。


「よろしくお願いします。言うことを聞かなかったら殴ってかまいませんから」

「啓太君はいい子だからちゃんと言うこと聞くよね」

「はい」

 僕は頷いた。

「じゃあ、今日からお前は虎田さんの家の子だからな」

「パパ!置いて行かないで!」

 僕は叫んだけど、おじさんたちに羽交い絞めにされて、僕は後を追いかけられなかった。パパたちは僕のことなんてもういらないんだ。僕は絶望した。


 僕はその夜夢を見た。寝ていたら、布団の中に啓太君が一緒に寝ていた。暖かかった。僕は泣いてしまった。

「怜君。大変だったね」

「僕のパパとママはどうして僕のことを手放したのかな」

「それはね。虎田さんのお父さんがお金持ちだからだよ」

「啓太君のお父さんだろ?」

「違うよ。僕も養子だったんだよ。もともと、啓太君と言う子がいたけど、三歳で亡くなったんだよ。その後、僕がもらわれて来て、名前を啓太って名前に変えさせられたんだ。僕はもともと博樹って言うんだ」

「え?」

「君・・・何で自殺したの?」

「ここでの生活に耐えられなくなったから。僕の身代わりが必要だったんだよ。僕がもう嫌だと言ったら、別な子を連れて来てくれたらいいよって言われて、それで君に手紙を送ったんだよ」

「君は死んでないの?」

 啓太君は答えなかった。啓太君はずっとこの家のどんなところが大変か喋っていた。僕はそのうち寝落ちしてしまった。

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