第2話 アクト=ギルバート
「知ってる?あの剣士」
「なんでもどんなモンスターも一撃らしいな。」
「このフィールドを広げてくれたのもほとんど彼なんでしょ?ありがたいわ。」
「フィールドって広げる意味あんのか?この空間にもだいぶ慣れてきたぜ。今更、地を拡大しようなんて」
「フィールドによってはレアな鉱石や食材をお目にかかれるらしいからね。損は無いよ」
武器商人と魔法使い(ソーサリー)の話し声。彼らの言うフィールドとは、この世界の空間の事だ。この世界に来てからもう1ヶ月が経とうとしていた。この頃になると注目されるべき人は名が上がるようになる。
「ねぇ、これ下さい。」
「え?……。失礼だけどこれ防御力+2しか上がらないよ…?その大層な剣を装備できるならもっといい防具を…」
「俺、別に防具に拘ってる訳じゃないから。それにこのLvの防具が俺の装備できる限界だし」
「……まぁそう言うなら…」
黒髪の少年が鞘に収めている剣は剣聖(ソードマスター)にしか装備ができない物。そんな剣を装備できる者が何故、「鍋の蓋」なんか……言ってしまえば弱装備だ。金が足りないのか、商人はあまり深堀はせず、少年の要望に従う。
「あんた…悪いけど防具はその…もっとちゃんと備えた方が。あぁいや、余計なお世話かもしれないけど。」
「ありがとう、おばさん。でもさ、もし攻撃を1度も受けることがなければ防具なんてなんだって良くない?」
「ま、まぁそうだけど戦闘(バトル)でそんな事は正直ほとんど無いと思うよ。特に「番人」と戦う時事になれば…」
「じゃあ、攻撃が1度も当たらない。モンスターも一撃で倒せる。これなら文句無いでしょ」
人差し指を出し、得意げに片眉を上げる少年。言っていることが分かるがそんな事現実的に可能なのか…と商人は口を開けたまま、少年を見つめる。そして何かを思い出したように
「…あんたまさか…剣聖(ソードマスター)アクト=ギルバートかい…?」
少年はニコッと笑う。
「そういうこと。」
黒髪の少年は礼を言うとスタスタと歩いていく。アクト=ギルバート、彼の名を知らぬ者はいない。一撃で全ての敵を倒す最強の男。この世界においてこんな頼もしい人は居なかった。
ガヤガヤと賑やかな酒場を見つける。アクトは丁度小腹も空いてきたのでその酒場へ足を運んだ。
「へぇ、こんな店出来てたんだ」
「いらっしゃいー!」
「おじさん、俺酒は飲めないからジュース」
「はいよ、というかお前さん、剣聖(ソードマスター)アクト=ギルバートだろ?」
「俺も有名になったもんだなぁ」
デレデレと分かりやすく嬉しそうにするアクト。彼はまだ18歳。酒じゃなくていいのか?という店主の問いは愚問だ。酒は20歳から。そこは譲れない。
しかし、この世界では年齢なんてどうでもいいステータスなのに真面目な子だな。もちろん、口にはしないが。
「またフィールドを広げてくれたんだってな?お前さんの活躍はよく耳にするよ」
「おじさんはなんで商人を選んだんだ?」
「俺はあっちの世界でも自営業をやってたんでな。こうやってお前さんにジュースを出してやってる方が体に染み付いてんだよ」
「ふぅん」
店主が少年の前に生搾りのオレンジジュースを出す。アクトはじーっとコップの中の液体を眺めた。そして口を尖らせながら店主に
「俺、オレンジ嫌い。」
先程までは剣聖(ソードマスター)の風格を感じられたが途端にこの子はまだ子供だったんだと再認識させられる店主。
「そうかそうか。剣聖(ソードマスター)様であっても苦手な物の一つや二つ、あるよなぁ」
オレンジジュースを下げ、代わりに出したのはあっちの世界で言ういちごヨーグルト。こっちの世界に来てから店主が何とかヨーグルトの味に似せようと自力で開発した自信作。店主は先程断られたオレンジジュースを飲み干す。
「こっちには乳酸菌が無いから苦労したんだぜ。ミルデアスの唾液の成分を中執してここまで似せてた自信作!これならどうだ?」
「うん。美味いけど作り方聞きたくなかった」
1度は躊躇するも、その味の美味さにごくごくと素晴らしい飲みっぷり。店主もご満悦だ。ぷはっと飲み終えた後の笑顔をみるとやっぱり子供なんだなと改めて思うが、同時に本当にこんなに子供が今、この世界の最前線で戦っているあの剣聖(ソードマスター)様なのか疑わしくなってしまう。
「ところで剣聖(ソードマスター)様。また番人討伐か?」
「うん。探してる人がいるから」
「お前がフィールドを広げる目的はそれか?」
「そうだよ。前に広げたフィールドにもいなかった。でも必ずこの世界に来てるはずなんだ」
時は遡り、約1か月前
ここに集められた人間はある共通点があった
攻撃当たらない男に足りない物 ねぴあ。 @nepia99
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