超優良物件への転生 まとめ

猫ってかわいいよね!

第1話 Reincarnation -転生-

小さい頃は友達と遊ぶことが多くて、毎日飽きなかった。けど、中学生になってからは勉強ばかりだった。あぁ、でもどうして——


「きらりくん、おきてくれよ。」

聴き覚えのない声...しかし俺は眠い。その声に応えることすら辛い。だって昨日の夜は塾の宿題と学校の勉強の予習で潰れたんだ、眠らせてくれよ!

「きらりくん!起きてくれないと困るんだよ!」

「あーもうなんだよ!」

イライラして仕方なく顔を上げるとそこには、白い着物を着た銀髪の少年が居た。歳は10歳程だろうか。そして俺と少年の周りには、奇しく霧が立ち込めている。

「うおっ!ここ何処だ?それにお前は?迷子か?」

「迷子?きらりくん、なにをいってるんだよ。君が迷子になりかけていたんだろう?」

見た目に似合わず、随分と大人びた声だ。

「はぁ?迷子って...」

すると少年は顔を歪ませた。

「本当に覚えてないの?橋本きらりくん。」

俺の、名前だ。大嫌いな俺の名前。なんでこんな奴が知ってるんだ。

「おい、お前。なんで俺の名前知ってるんだよ⁈この状況、説明しろよ!」

俺の名前を知っているという事は、何かしら知っているんだ。この状況のことも。  「はあ...。何回もその名を口にしてたのに、気付いたのが今って...。まぁいいさ。君はね、きらりくん。」

少年がゆっくりと微笑む。

「死んだんだよ。車に轢かれて。」


——俺はどうして、もっとあの時を楽しまなかったんだろう。


*****************************************************



「死んだんだよ、車に轢かれて。」

辺りは未だに霧が立ち込めている。

「...は?死んだって、どういう事、だよ。」

「あちゃー。ショックが大きすぎたのかな。ここまで覚えていないなんて。」

少年は首をふる。呆れたように。

「あのね、きらりくん。君は塾から帰る途中に、居眠り運転の車...トラックにはねられた

の。で、死んで、きみの魂が迷子になりかけていたのを僕が拾った。そういう訳だよ。」

「死ん、死んだ?」

思い出そうとするが、強い吐き気と頭痛で考えられなくなる。

(なんだよ...コレ。く、苦しいっ。)

「そうだよね、信じられないよね。でも実際君は死んで、トラックの運転手は警察に捕まってるんだ。僕が見届けたから間違いない。...それにしても可哀想だねぇ。君はお母さんの為に一生懸命頑張ったのに、当の本人はあんまり残念じゃないみたい。」

少年が笑う。

「ふざ、けんな。俺は、俺の為に、努力したんだ!それを、アイツの為に、されちゃ、困るんだよっ。」

そうだ。俺は今まで、自分のために頑張ってきた。友達と遊ぶことも、ふざけあうことも捨てて。なのに、こんなとこで死ぬ?

「そんな君に、チャンスをあたえようー!僕の慈悲深い計らいで、きらりくんは転生できます。運がいいね、ラッキーボーイだ。」

(なんなんだよ。死んだなんて、なんでわかるんだ?それに転生なんて。あたかも神のようじゃないか。)

「...神?まさかお前、自分が神だなんて、言わないよな?」

「神?大当たりさ!でも僕は死神。君たち人間の考えるような優しい優しい神じゃない。まぁ、とにかく君は転生できる権利を与えられた。僕からね。上は反対して聞かないんだけど、可哀想だろ。秘密の儀式ってことさ。」

上?神にも上下関係があるのか。おもしろいな。

「ははっ。そういう事なら、喜んで転生するよ。権利って事は、しないという選択肢もあるんだろうけど。今度こそ俺は、自由を手に入れるんだ!!」

少年...死神が目を見開く。

「へえ、そこまで気付いてたんだ。じゃあ早速、転生してもらうよ。急がば急げだし。」

そう言って死神は両手をひろげた。すると、あたりが星の空に包まれた。美しい。都会ではそうそう見れない。

(まぁ、神だし。できるのも当然か。)

「橋本きらりは転生する。魂はそのままに、肉体は異世界の者へ。世界は今、ひらかれる!」

死神がそう唱えると神々しい光がきらりの身体を包み、きらりは意識が薄れていくのがわかった。

「ね、死神さん。あんたも人を、見捨てれないところ、あると思うよ。優しいところ、あると思うよ。」

だって、そうじゃなきゃ、秘密にしてまで転生なんてさせてくれないだろ?


しゅんっ。

音がして、橋本きらりが空間から消えた。転生したのだ。

「...死神に優しいなんて、初めてだ。たいていは何故魂を刈り取ったのか、泣き叫ぶのに。責めるのに。...変な人間。」

死神は俯いてつぶやく。

「橋本きらりには、きらりになら、加護をつけてもいいかな。」


その頃、本人は——。

ずでんっ。

(...ん?なんだこの音は。転生できたんだよな?けどなんか痛いぞ。身体というか、おでこと膝のあたりが特に痛い。なんで?あの音とこの痛み...いや、コレまさか俺、)

「こおんあ?(転んだ?)」

⁈⁈⁈

(ど、どういう事だ?うまく発音できない!てかバリバリ日本語じゃん!)

「ルーク様!ご無事ですか、あぁ額と膝を擦りむかれている...。さ、ハンナが手当てしてくださるツバキのもとへ連れて行きますから、こちらへ。」

「うえええええ?!」

ハンナという若い女性に抱えられ、移動する。ハンナはまるでメイドのようだ。髪をシニヨンのようにまとめ、長いスカートで紺色のメイド服?を着ている。

「あぇ、あんなっ。」

(!やっぱり上手く話せない。...この女性、ハンナっていうのか。さっきハンナは、俺のことをルークと呼んでいた。それが今世の俺の名前?)

「ルーク様。医務室です。ツバキに治していただきましょう。」

「う、うあき?」

「あ、ルーク様はツバキに会うのが初めてでしたね。ツバキ、根はいい人なのですが。」

そう言って、ハンナは医務室の戸を開ける。

「ツバキ!ルーク様の手当てをして下さいませんか。」

ふあ〜、と大きなあくびが聞こえた。のそのそと出てきたのは、赤い長髪で、瞳が琥珀の様な男性だ。白衣を着て、髪をひとつにまとめている。

「はんな...?こんな早く起こすなよ。まだ11時だぜ。それに、ルーク様なん...て...⁉︎」

ツバキは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

「ル、ルーク様?その方が?あ、あぁ。」

いきなり俯いて震え出したかと思ったら、目をキラキラとさせて喋り出した。

「か、可愛いっ!天使かよ!は?可愛い。尊い。存在が可愛い。」

(は?こ、怖い。ツバキってこんな奴なの⁈)

「ツバキ!ルーク様が引いておられますよ。やめてください。申し訳ありません、ルーク様。この医師、可愛いモノに目が無くて。ルーク様は可愛いの権化ですので、こうなるのも仕方ないのですが...。」

「あぅ、あんなぁ!」

「あんな?ハンナのことか!いいなぁ、ハンナ。俺もルーク様にツバキと呼ばれたい!」

そういいながら、ツバキは救急箱を棚から取り出す。仕事はできるようだ。

「少し痛いと思いますが、我慢して下さい、ルーク様。...尊い。」

消毒液が擦りむいたところにしみる。ツバキは絆創膏を貼ると、どこから取り出したのか、袋に包まれたクッキーを渡してきた。

「はい、ルーク様。頑張ったご褒美です。」

ご褒美。ご褒美なんて、いつ振りだったか。

「...あいあと。」

▼ツバキはルークの尊さで倒れた!

▼ツバキのライフはもうゼロだ!

「ぐうっ。」

(なんだよ。変な声だして倒れたし。)

「...ルーク様、行きましょう。」

ハンナは目を逸らし、すすっと医務室を出る。

(...ツバキは要注意人物にしとこうかな。)


ハンナに「危なかったですよ。」と叱られ、連れて行かれたのは自分の部屋。

(自分の部屋ぁ⁈マジかよ。)

ルークの部屋だというところには、大きなベッドと鏡、本棚、そして机があった。

(鏡!よし、コレで自分がどうなってるのかわかるぞ。)

よちよちと歩き、鏡を覗き込むと、そこにはまだ一歳ぐらいの男の子がいた。

「うぇあ?」

漆黒の髪に紅い瞳、そして赤子ながら整った顔立ち。

(これは、これは俺、超嬉しいんだけど‼︎)

そこでふとルークは考えた。

(あれ?黒髪はいいけど、紅い瞳ってどういうことだ?それにハンナといい、この部屋といい、まるで中世のヨーロッパみたいだ。でも死神の少年は異世界だと言っていたしな。)

......

(ま、自由に暮らせるならなんでもいいけど!!!)

ルークは考えることを放棄した。


*****************************************************

中世ヨーロッパ風の異世界に転生し早二日、ルークはある事に悩んでいた。

それは、この世界の情報が殆どないという事だ。

「うあぁあい、おおあうん...(困ったな、どうしようか。)」

ルークが初めに気づいた事は、自分自身のことだ。ルークはハンナのことを呼べた。身近にいる者なのだろうから、まぁいいとする。しかし、ツバキのことも「うあき」と呼べた。中身が高校生だとしても、ここまで喋れるのか?ありがとう(あいあと)と喋れるのだろうか。

(おそらくこのルークは一歳前後。でも礼を言えるほど舌がまわるか?中が俺だとしても、不自然だよなぁ。でもこの世界の一歳は、結構喋れる?ううん、わからん。)

コンコン、と、部屋の扉が鳴った。そしてその先には、ハンナが居た。

「ルーク様、おはようございます。今日も空はにこにこですよ。」

(にこにこ…晴れのことか。)

「うー、あんな。」

「はい、ハンナですよ。朝ごはんのあとは、一緒にお散歩しましょう。」

(朝ごはん!…離乳食だけど…。)


「ルーク様!薔薇が美しく咲いていますよ。綺麗ですねぇ。」

「う!」

(しかし、碧い薔薇とは…。初めて見た。)

ハンナが散歩しようと連れてきた庭には、碧い薔薇と白い薔薇が咲き誇っていた。

「ルーク様!ハンナ!散歩ですか⁈」

楽しい気分だったが、その声が聞こえた瞬間、ルークは凍りつき、ハンナは顔をしかめた。

「…ツバキ。なんで貴方が此処に。」

ルークが要注意人物認定していたツバキだ。

「え、あー、医務室の窓からルーク様を抱えたハンナが見えたので…一緒に…散歩しようかなぁ、と…えへへ…。」

(おいおい、最後の方自信なさげだぞー。)

「…おおかた、ルーク様に会いたかったのか、サボりたかっただけでしょう。ほんとうに貴方という人は!!」

その言葉にツバキの顔色が変わる。

「は?ルーク様のことはそうだけど、俺はお前にっ––––、あっ!」

しまったと口をおさえるツバキ。

「私に?なんですか。」

「いや、あの、ハンナに…。」

訝しげにツバキを見るハンナ。だか、ルークは勘づいていた。ツバキはおそらく––––、

(ハンナのこと、気になってるんだな。)

「えと、な、なんでもないぃぃっ!!!」

顔を林檎の様に赤くし、ツバキは逃げていくのだった。

「なんだったんでしょう。変な方ですね。行きましょう、ルーク様。」

(ははは…。)

それにしてもと思うルーク。

(それにしても、ここ広くないか?俺の部屋といい、この碧薔薇の庭園といい…。ここ、屋敷だし。)

屋敷というのは医務室に行く時点、そしてさっき庭にでて振り返った時点で気づいた事だ。奇声をあげそうになる程、大きな屋敷だった。

(これは…貴族にでも転生したのだろうか?顔もよくて貴族みたいな生活…。)

死神もそんなに同情する程の人生だったのだろうかと、悲しくなるのだった。














(あれ、ここは…。)

まるで雲の上に居るかのような景色に、ルークは見惚れる。

(俺、なんでこんなところに。)

するとあの銀髪の死神が、前と同じ少年の姿で近づいてくる。

(死神…。)

「やぁ、きらり…いや、ルーク。元気にしてた?」

(はは、まあそれなりに、な。それよりいくつか聞きたいことがある。あと、ここはもしかして夢のなかか?)

不思議だ。口に出さずとも会話ができる。

「そうだよ。あと、ごめん。説明不足だったかな。君が転生したのは魔法の存在する世界…マギとしよう。マギなんだ。マギは、ら、ラノベ?にでてくるような剣と魔法の世界なんだよ。」

(死神が…ラノベを知っているだと⁈)

「で、君はその世界のある一つの国、ラピチナ王国の公爵家のひとり息子に転生したんだ。ラッキーだね。君は元高校生だし、大抵の言葉は他の赤子より喋れるようにしてる。違和感が感じられないくらいにね。それと、君には僕から加護をつけといたよ。」

(し、死神の?)

「うん?あ、死神は不吉なんだっけ!あははは!まぁ、大丈夫だよ。加護があるという事は、他の人より身体能力・知力・運勢の向上があると思うけど、死神からだから、マイナスのもあると思うよ〜。あはははっ!」

(加護があるだけ嬉しいけど…。あと、もう一つ、俺の家族構成について知りたい。)

死神はにやにやとして答えた。

「それは近いうち知れるよ。あー!もう朝だよ、ルーク!じゃあ、バイバーイ!」

(あ、おい待て、おいっ––––。)


「うあいういっえ?(近いうちって?)」

チチチ…。

外では小鳥が歌い、朝のおとずれを告げていた。

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