あなたの手は____

トラース

少女と青年

『ーーいい、ビティア?最後の命令よ

絶対に喋らないで、音を立てないで、

……貴方だけでも生きてね』


そう言い残して自分の主である少女は小さい隠し部屋の戸を閉めた。

声を必死出そうとするが、聞けるのは無音だけだ。


(ネヴィルさん!1人にしないで!

一緒に……!!)



嫌な夢を見た。何年も苦しめられる悪夢呪いだ。

体は汗をびっしりかいて、それでいてべっとりと体に服がくっついて気持ち悪い。

それに相反して窓から見える太陽は眩しい。

自室から出て下にいる見張りをしているラビに会う。


「あっ!ビティアさんお出かけですか?」


(気分転換にそこら辺を)


いつもの手帳に殴り書きで伝えた。

行ってらっしゃいと手を振る彼に軽く手を振り返してまともに外の光と風を浴びた。

死んでしまうほど天気が良くて落ち着かない。僕はいつも使う裏路地を歩いた。

心の中で好きな曲を歌う。

さっきの気持ち悪さなんて吹き飛ばす気で歩く。


すると前から慌てるボロ頭巾を被った少女が走ってきた。

かわすにも彼女が前を向いてなくてぶつかってしまう。

ようやくこっちに気づいた少女はゼーゼーと酷く息を切らしている。

慌てた様子の少女が気になり、しゃがんで話をしようとした。目が合った。

瞬間強く手を握られた。


「もう貴方でいいわ!

“チャーム”」


チャーム能力者は珍しいと思いながら、どうしようかと悩んでいた。

ふと僕は強く握られた少女の手の甲に目がいった。

その手には奴隷を表すマークが彫られていた。


「ねぇ!“名前を言って”!!」


そんな命令より、奴隷マークが気になって手帳を探す。


「て、手帳……どこだ」


もうとっくに青年の声になってた自分の声に驚いた。

何十年も呻き声しか出せなかったのに、悠長になんの弊害もなく出せたのだ。

“言って”という命令だけに反応したのか?

急なことで整理のつかない脳を整えたのは遠くから聞こえる二人組の男たちの声と足音。


「ちょ!ちょっと!

えーーと、、私を“貴方の家に連れていきなさい”!」


元気な娘だなと思いながら彼女をおぶって少し遠回りして基地に帰る。

後ろから聞こえる男共の声を無視して足音を消して走った。

数十分走り続けて知らない屋上に着いた。


「貴方凄いのね!

あっ、でも家って言ったのに……な、なんで……?聴いてるハズ……」


殴り書きで彼女に尋ねた。


(君、名前は?

もしかしてドレイだった?)


彼女は、んーーー?と言いながら、

まじまじと手帳の文字を読んで笑った。


「なんで、紙で……まぁいいや。

名前ね…?」


コホンと咳払いをしてフードを彼女はとった。

その姿に釘付けになって息すら出来なくなる。


あの人…嫌、姉のネヴィルを見た。

黒なのに光が当たると紫が現れる髪、琥珀の光を詰めたような瞳。

そんな10も下であろう少女に恩人を重ねた。


「…わたしはクイーン。

“元”奴隷よ!

というか貴方も“名乗りなさい”!!」


「…ビティア。

ビティア・ウィリケ…ン゛」


途中で能力が切れたのか上手く声を出せなかった。


「ビティア……?

…よろしくお願いね!

まずは私を貴方の家に連れてって頂だ…?!」


言い終える前に彼女をおぶって基地に帰る。

うるさく騒ぐ彼女を無視して走った。

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