第4話 それは、優しさの代償

『誰?…僕を生んだのは誰?』


哀し気に、まさに、これからさなぎから飛び立とうとする1翅の蝶の声が、ボソッと心の中で呟いた。


『あぁ…僕は…永遠の蝶だな…』


そう一瞬で悟ったその永遠の蝶は、これまでの永遠の蝶とは一線を画した永遠の蝶だった。


300mの探知機脳も自ら消した。

しかし、邪な人間を、無視することは出来ない。

ならば…、


〈私を捕まえようとしたり、写真を撮ろうとしたりしたら、貴方には罰が下る。だから、私の本能が貴方を殺してしまう。だから、この山を今すぐ下りなさい〉


そう、カメラのレンズ、ギリギリ10㎝まで近づき、そのファインダー越しにそう諭した。

それでも、その人間は、虹色の永遠の蝶の印、虹色の鱗粉に気付き、耳ではない、感覚の何処かに伝わってきた永遠の蝶の言葉に、やめるどころか、シャッターを連発した。

そして、

(この人間の心が、命がけでも警告に従うはずがない邪悪さならば、こんな事はしなくてもいいのに…)

と、その心の貧しさに、永遠の蝶は、罰を下さずにはいられない。

永遠の蝶ではない、ミヤマカラスアゲハが絶滅の瀬戸際に立たされているのだ。



そして、罰は下った。


人間の指は溶け、その体の中をひた走る、猛烈な痛みに、もがき、苦しむ光景を、静かに、哀し気に、その永遠の蝶は見ていた。










そして、どうしようもない、愚かな人間たちに、罰を下すこと、永遠の蝶に生まれた自分が、例え話す事が出来なくても、カブトムシだって、バッタだって、ミミズだって、仲間を、森を、綺麗な水を、自分は守らなければならない…。


重く、苦難の生きざまだ。




『仲間』と言えば、この地球に生きているすべてが、本当は仲間でも…必要に応じた殺生ならば、それも仕方ないのだろう。


それなのに…それなのに…!どうして人間は余りにも残酷で非道な手段を使ってでも虫たちを…動物たちを…森を林を…どうして…どうして…!


最初は穏やかにも見えた、その永遠の蝶も、何年、何百年、人間を見ていると、どうしても、人間が許せなくなる。

こんなに、何もしない昆虫たちが、何故、ぶーちゃんの足や手を千切られ、理科の実験だからとナメクジが塩をかけられ…。





しかし―…、


この永遠の蝶は、の蝶でもあったのだ。


子供がする悪戯も、大人が知らずに虫を踏んでも、他の昆虫たちとは仲良く出来ないけど、人間によって、命が終わったことを解っても、許しの蝶は、この世から居なくなった命に、泣く事を許されなかった永遠の蝶とは違い、涙を流し、自分の力の無さに、苦しみ、悶え、いつまでも止まない人間の自然破壊に――…


「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」


とてつもない叫びを連れ、許しの蝶は、その歴史上、初となる、『死』を迎えた。





そう。

人間に、愛など…無いと…。









「あ、ねぇ、ママ!」

「ん?」

「そこに、綺麗な蝶々がいるよ!」


それは、まさに人間への最後の抵抗。

永遠の蝶が死ぬなんて人間が、何より、誰より死ぬなんて思いもよらない。

だから、その身は風に運ばれ、街並みの中、そっと街路樹の根元に…、


眠った。


「ねぇママ、あの蝶々さん、美玖みくがお墓作ってあげたい。良い?」

「うん。いいよ」


(?この蝶…もしかして…。…そんなはずないか)

「ママ?どうしたの?」

「ううん。いいの。綺麗な蝶々さんだから、よーくいい夢が見られるお墓、作ってあげようね」

「うん!」


その美玖と名乗った少女が丁寧に、ゆっくり、優しく掌に乗せた。

すると、

「…ねぇ…ママ…この蝶々さん…泣いてる?」

「…きっと哀しかったのね…なんでかは、ママにも解らないけど…」



2人が自宅に戻ると、庭に、そっとフォーエヴァー・ラブを埋葬した。


そして、少女は、眠りにつこうとした許しの蝶に、


「蝶々さん、天国あると良いね」

その涙に、


「…そうね…あると良いね…」



怒り。

恨み。

憎しみ。

嫌悪。

傷み。

悲しみ。




その中に、許しの蝶は、この少女の優しさを、最後に感じた。

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「forever love」~命の代償~ @m-amiya

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