第3話 この世界は泣いている

棺に、蓋を閉じようとした時、司はもう一つの約束を思い出した。

そして、自分の為か、誉那の為か、司はその蝶を、と共に、誉那の手を握った。


火葬が無事終わり、火葬場を出ると、司は、そっと空を見上げた。


まるで何もなかったかのように、清々しい、涙空に、激しい炎に焼かれ、誉那とこの世から消えたはずの、見覚えのある蝶が1翅そっと高く高く舞い上がった。雲が邪魔した太陽に、その蝶は『消えなさい』と雲がどんどん晴れて行き、神々こうごうしい光が舞い降りて、にこりと笑う、誉那の姿が、薄く、儚く消えて行く…。



その光景は、司がこの先、出会うかも知れない誰かを、一生愛して行ける。

誉那のあの笑顔が、ずっとあの空に消えないなら、きっと。




そう…。

永遠の蝶は独りだから、たった1翅で、ずっと1翅で森を豊かにして、邪な人間に罰を与え、他の人間によって命の絶たれた、仲間では、決してなかったけれど、そのどれがフンコロガシでも、心から祈り、永遠の蝶として、優しく、気高く、己の死ねない運命から、何億年と行き続ける…生きていかなくてはならない運命さだめだから、永遠の蝶にしかない力がある。

記憶想い出

ずっと、こうして、『の祈り、見送り、空色の涙…』それを讃える心が

本当意味の、『永遠の蝶』ではなく、フォーエヴァー・ラブ『愛は永遠』として、愛を込めて人を見送りをすることもある。


例え、ひどく飛び回り狂っても、この日本と言う世界から出る事も出来ない、人を誰彼構わず疑ってかかるかも知れない、その孤独は人間にも当てはまる…そんな気がして、永遠の蝶は、自己嫌悪へ舵を取る。


冒頭に映った心疚やましい人間には、躊躇なく罰を下す。



そんな永遠の蝶にだって心はあるんだ。

何も感じず人間を殺しているわけじゃない。




それすら、永遠の蝶の鱗粉にしか出来ない、まさに、体も心も、真摯でなければいけない。



…しかし…そんな事で良いのだろうか?

そんな事で、人間が動かなくてどうする?

守られるべきものたちの命を狙い、まるでプラスチックのおもちゃの代わりのように、真四角の箱に入れられ、飛べないでいる昆虫たちが山ほどいる。



だから…きっと。

きっと…だから…。

『永遠の蝶』が生まれたんだ。



「「これ以上、もう森を侵さないで」」

「「これ以上、もう私たちをいじめないで」」

「「私は、僕は、『おもちゃ』じゃない」」

「「僕らの飲める綺麗な水がない」」

「「お兄ちゃんが、人間に足を千切られてる」」

それは、人間のエゴで崩されたのは、悲しみじゃない。

切なさじゃない。

傷みでさえない。

昆虫たちのプライドだ。


この世界は、昆虫が必要不可欠だ。

なのに、人間に見つかれば叩きつけられ、潰され、ねじ伏せられる。

それならみんな平等にそうしてくれれば、人間にいじめられる事も怒りで済む。


けれど、人間は本当に自分勝手だ。

綺麗な虫は、重宝される…が、結局は命を奪う。

これは、怒りじゃない。

諦めだ。


もう闘うことに疲れ果てた昆虫たちが、最後の時を迎える時、残した子孫よ、この世界で闘ってくれ…。


そのは、やはり、永遠の蝶に背負わされるのだ…。



永遠の蝶がず―――――――――と、何万年も見ていた哀しい光景だ。

幼い人間への罰は、永遠の蝶は、どうすべきなのか、蝶として長らく頭を抱える問題だった。


 

永遠の蝶の耳には他の虫たちの悲鳴が聞こえて止まない。



【怖い!】【タスケテ…】【痛い!!】



【【【僕たちが、何をしたって言うの!?】】



永遠の蝶は、その声に耳を研ぎ澄ませるけれど、所詮、永遠の蝶は虫たちに何もしてやれない。

元々1/100万の数しか存在しないのに、やれ人間に罰を下すだの、やれすべてのいじめられている昆虫の命を守れだの…。


永遠の蝶と威張れる永遠の蝶は、何処にもいないのだ。

運よく何十年でパートナーに出会えた。

なんて、その2翅は奇跡なんだ。

他の永遠の蝶は、それこそ何万年、何億年…いつかパートナーと巡り合う事を、信じて止まず、舞っているのだ。


そう、永遠の蝶の逝き方は、たった1つしかない。

『子孫を残すこと』

だ。


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