第2話 涙空
しかし…その代償はあまりにも大きなものだったのだ。
たった1翅で、
群れをつくってはいけない。
ただの同じ種の蝶にさえ話す事もしてはいけない。
猛毒の鱗粉を持つ故、同じ昆虫と言える本当なら仲間たちと接点をもってはいけない。
果て、人に至ると、半径300m以内に入ってはいけない。
密漁などをしようと考えようものなら、即死だ。
そう、そんな邪な、あのカメラマンのような考えで、この森に入ろうとすれば、殺す事もあるのだ。
そんな知られざる闇を、1/100万のミヤマカラスアゲハの恐ろしさを、もちろん、ほとんどの人間は知らない。
そんな只の都市伝説にしか思っていないのだから。
「ねぇ!あの蝶!キレ―☆あれ永遠の蝶じゃない?」
「おう!あれ絶対そうだって!俺らラッキー♡」
と本物のミヤマカラスアゲハでも何でもないチョウを見て、騒ぐ若者は結構いて、伝説を知らず、喜んでいるだけだ。
*
しばらく、話を変えよう。
この物語の主役。
『永遠の蝶』と言うミヤマカラスアゲハは、1つだけ、永遠の命を全うし、天国へ旅立つ方法がある。
それは、同じ、1/100万のフォーエヴァー・ラブが何万年、何億年、孤独に苛まれ、涙さえ許されない。
いや、その涙に代わる幸いなる方法とは…。
“運命の出逢い”…だ。
その運命の出会いとは、唯、身1翅、その日が来るのを、1つ、心の中で待つのは、フォーエヴァー・ラブのオスと、メスが、何万年、何億年、1翅で守ってきた森の中で、出逢えることは、本当にとんでもない奇跡なのだ。
そして、その子孫を残すのみだ。
そう考えると、カメラマンの間では仲間と山に本当の
『フォーエヴァー永遠・ラブ0』
『永遠の終わり』
なのだ。
そんなそれこそ、皮肉のように、人間はそのミヤマカラスを幸せの象徴のように思っているが、その
*
こんな話がある。
23歳のある会社の事務で働いている
彼女には彼氏がいる。
1つ上の先輩で、
2人は、もう付き合いだして半年になる。
婚約もした。
ドレスも選びに行った。
結婚式場を見学に行った。
後は幸せに、普通の家庭を…幸せな家庭を築く…唯、それだけのはずだったのに…。
その日は来た。
結婚式だ。
それなのに、それなのに…、式中盤、誉那が、お色直しの途中突如倒れ、意識不明になった。
そして、そのまま、誉那は帰らぬ人となってしまった。
「誉那…」
「…」
「なんで…笑ってないんだ?」
「…」
「今日は…俺たちの…結婚式結婚式だぞ?」
「…」
「…なんも…言わないんだな…言えないんだな…俺、プレゼント、ちゃんと用意しといたからな…」
少しずつ死を受け止めつつあった司。
それは、絶対渡したくないプレゼントだった。
誉那は、『そのプレゼントを持って逝きたい。だからお願い。私の為に、フォーエヴァー・ラブを私の胸に抱いて逝かせて。その時は、もちろん、司も私の手を握ってね♡』
『バーカ!!見つかるかよ!(笑)手は…思いっきり、精一杯、握ってやるよ!」
とちょっと照れながら、差し出した左手を伸ばした。後ろから歩いていた誉那に沈黙の手を繋ごう、と言う意味の…。
その時は、遠い未来の話だと。
死を仄かす事は甘えてるんだと。
真剣になって話を聞かなかった。
それが、現実になってしまった。
司は、一晩中蝶を探した。
その中で、大きなアゲハ蝶を捕まえる事が出来た。
箱の中にアゲハ蝶を収め、そこらにあった街路樹にもたれ、…泣いた。
やっと捕らえたアゲハ蝶をその掌で握りつぶしてしまいたい怒りもあった。
「“死んでない…”“死んでない”“死んでない”…」
そんな風にまるで、自分が死んだように、唯々、繰り返していた。
「これじゃないんだ…。誉那は、フォーエヴァー・ラブが良かったんだ…。なんで…なんで…いないんだよ…」
司の顔は、涙でくしゃくしゃの顔になってひたすら、誉那の顔を想いうかべ続けた。
その瞬間、フワっと、何か黒いもの…近づいてくると、虹色が舞って、司の鼻の上に止まった。
「…え…?」
そんな言葉を呟くと、そっと鼻から舞いながらどこかへ向かおうとしている。
だけど、司は捕まえる素振りもせず、ゆっくり、ただついてゆくだけだった。
司は、解ったんだ。
何故かその方向、その行くえが解るような気がしたんだ。
それで蝶は逃げる素振りもせずに、そっと舞い、司の涙を鱗粉で輝かせ、いざなった。
司は、何だか大きな事が、奇跡を見てるような、そんな頭で、司はその蝶を追いかけた。それは、この世で、1番大切だった人。
たった1人誉那の眠る実家へ、蝶自ら、棺の中にに入り、そっと、誉那の組み合わせた両手の上に降りると、そこに眠るように、翅を動かすのをやめた。
「…ありがとう…ありがとう…本当に…ありがとう…」
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