第12話 私は特別な方だった…?


その街は炎に包まれていた。


逃げ惑う人々。崩れる建物。泣き叫ぶ少女の声。


それらが私の意識を掻き立てる。世界を護れ、襲撃者を倒せと。


この災厄をぶち壊すのが、ワタシに与えられた使命なのだ。


***


「っ…はぁ、やな夢」


まだ明かりが差す前の時間帯に私は気怠い体を起こした。隣には、腕にしがみついたままの音夢の姿がある。


「やりすぎ…二日連続寝坊したら洒落にならないじゃん」


そう文句を垂れつつ、音夢を引き剥がして時計を確認する。


朝の四時。朝食には些か早いだろうか。


「こういう時、音夢ならゲームしようとか言うんだろうけど…、流石にダメかな」


ネットでも見るかぁ…。そう思い、スマホを取り出して検索項目に『EGO』と打つ。上から並ぶのは攻略サイトや検証動画、匿名掲示板などなど。とりあえず匿名掲示板を開いてみると、一つ面白そうな掲示板があった。



【レア種族出ろ】種族ガチャスレ


326:名無しの人間種

もう無理。 五百回引いて全部人間種とか


327:名無しの人間種

諦めんな。こっちだって六百引いてるんだぞ。人間種以外でないけど


328 :名無しの人間種

バランス調整ミスってるよな。俺はもう人間種で始めるわ


329 :名無しの人間種

悲報、1000回引いても出ないものは出なかった


330 :名無しの人間種

≫329

ご苦労さん。俺らの希望をぶっ潰してくれてありがとよ


331:名無しのゾンビ

いいじゃねぇか人間でも引けてるんだから。俺とか全部ゾンビだぞ?


332 :名無しの人間種

≫331

人外引けてる時点で勝ち組なんだよとっとと行ってこい


333 :名無しの人間種

≫331

進化の道があるだけいいだろ。人間は進化しねぇの!


334 :名無しの人間種

やっぱ人間種の難易度鬼畜過ぎねぇ? レベルキャップあるんだろこのゲーム。人外はそこで進化するって話だし。


335 :名無しの人間種

≫334

らしいな。今んとこレベルキャップ到達の報告は聞かないが、どれくらいなんだろな。五十とか?


336 :名無しの人間種

≫335

百かも


337 :名無しの獣人

なあ、そんなに出ないのか? 人以外って


338 :名無しの人間種

≫336

妥当なラインだな。キリいいし


339 :名無しの人間種

≫337

ここにいる奴らの種族名比率が答えだよ。いいから楽しんできやがれ


340 :名無しの人間種

ここにいるのは人間しか引けない運無し共だろ。全体比率はまだマシだわw


341 :名無しの人間種

だとしても人外種族が少ないのは事実だろ

出るやつはポンポン人外出してるし


342 :名無しの人間種

俺もなりてぇよ鬼! 吸血鬼! 人外種ってロマンだろぉ…



「そんなに少ないんだ、人外種って」


私の周囲には私、音夢、メイの計三人、人外種がいる。私なんて出てきた種族全部人外だったし、音夢は一発で夢猫を引き当てたそう。そう考えると私の周囲は相当恵まれてるようだ。


ちなみに攻略サイトのアンケートで比率が出ていたが、人外種は全体の一割にも満たない。母数は五千程度と少なくはないので、実際の比率もこんなものだろう。


「そういえば、竜姫って他にいるのかな」


バグだらけになったのは、虹カプセルが出てからだった。他に竜姫、あるいは虹カプセルがないか、判明中の種族欄を見てみる。


「そもそも金までしかないじゃん…。相当希少なんだなぁ」


金の中でも、猛獣系の獣人や鬼人などは最上位クラス。開始から一週間の間で相当活躍したらしい。ちなみに夢猫はヒットしない。ユメも相当希少な種族を引き当てたみたい。


「そういえば職業も私は固定なんだよねぇ。検索しても出ないし」


メイの魔法士は金の中位、ユメのメイドは銀の最下位だった。

職業に関しては種族と違い、偏りが少ない。一番多いのが戦士だが、それでも一割に満たないし。


「んぅ…そらぁ」

「音夢、起こしちゃった?」

「だいじょぶ…」


音夢が目を覚まして、スマホの電源を切る。

時刻は五時過ぎ。そろそろお弁当作ったりするかぁ。


***


「宙さん、音夢さん! 昨日はなんでログインしなかったんデスか!?」

「いやぁ…」

「あはは、色々あってさそれどころじゃなかったと言いますか…」


ほんと、イロイロね。ってかリヴさんは昨日もログインしてたんかい。


「広場で待ってたんデスからね! 約束してなかったのも悪かったデスが!」

「ご、ごめんね?」

「今日一緒にやってくれたら許しマス!」


いや今日もやるんかい!? リヴさんのゲーム時間どうなってるんだろ…


「あー、了解。集合は一昨日と同じで広場でいい?」

「大丈夫デス!」

「今日は何するの〜? レベリング? リンちゃんと遊ぶ? ダンジョン攻略? 宙も私もレベル上がりにくいからレベリングしたいんだけど…」

「大丈夫デスよ。私もレベル上げしたいデスし」


音夢もだけど、リヴさんも相当ゲーム中毒じゃないかコレ。私だけはしっかりしないと、二人ともどんどんダメ人間になりそう…いや、すでに音夢は十分ダメ人間だった。


「そういえば、お二人にお伝えしておきたいんデスが」

「どうしたの?」


突然神妙な顔になったリヴさんが、昨日小耳に挟んだのデスがと前置きして喋り始めた。


「どうやら最近PKが増えてるみたいなんデス」

「ぴーけー?」

「プレイヤーキラー。プレイヤーを殺して、アイテムや経験値を奪うことね。EGOでは禁止されてなかったはず」


?を浮かべた私に、音夢が解説してくれた。

PK…なんというか、傍迷惑な輩だ。PvPすればいいいじゃん。


「EGOはHPゲージの割に人が死にやすいデスからね。PKしやすい環境…と言うのもでショウけど、PKをメインにするプレイヤーもいるみたいデス」

「それって意味ないんじゃないの? 人を殺すゲームじゃないんだし」

「大有りだよ。すでに判明した仕様として、プレイヤーも所持品と種族的なアイテムをドロップするらしいし」


なんだその仕様、私初耳なんですけど!?

そう驚いた顔をする私に、音夢とリヴさんが半眼を寄越す。あれは呆れてる目、つまり…


「チュートリアルで説明あるはずなんデスけどね」

「聞いてなかったのかなぁ?」

「いや、だって私、まともにチュートリアル受けてないし…」


種族選んだ瞬間バグってチュートリアルが飛んだのは、音夢には話したはずだ。音夢も思い当たったらしく、呆れ顔が消える。


「そういえばそうだったね。じゃあ、宙はチュートリアルで話された内容知らないのかぁ」

「どう言うことデスか?」

「いや、実は種族選んだ瞬間チュートリアルが勝手に終わっちゃってさ、多分バグなんだけど」

「な、ナルホド」


リヴさんにもスキル無限使用バグとか、いつか言わないとなぁ。


***


ってことでバースの近くの草原にやってきたはいいけど…


「またこれえええええぇぇぇぇぇぇ!!??」

「もう勘弁にゃああああぁぁぁぁぁ!?」

「多すぎデスウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ!?」


はい。絶賛ウサギに追いかけられ中です。数は200程と少ないけど、それでも対応

は困難…じゃないんだよなぁ。


「二人とも、いくよ!」

「オッケーにゃ!」

「了解デス!」


ユメ、リヴさんとしっかり手を繋ぎ、歩幅とタイミングを揃えて…



「「「せぇ…のっ!!」」」




思いっきり踏み込んで地面を蹴り、私たちは前方にジャンプした。これで、自分達の攻撃に巻き込まれずに済む。


「いっけええぇぇ!!」


そして、インベントリから取り出した丸い球…爆弾を、ウサギの中心に向かってそれぞれが投げる。


轟音と共に背後のウサギの群れが吹き飛んだ。残ったのは範囲外にいた数匹だけで、それも私たち(音夢以外)には苦にならない相手だ。


結局私とリヴさんがそれぞれ、剣と魔法で処理し、レベリングは大成功となったのだった。



「いやぁ、経験値おいしいにゃぁ」

「纏めて爆殺しようなんて、よく思いつきマシたね」

「シエルとのレベリングのプランとしてあったにゃけど、金額がかかりすぎるから断念したのにゃ。でも、いい収入が入って出来たから良かったにゃ〜」


領主さんのお陰で、資金にはある程度余裕が出来た。結果、こうやって安くはない爆弾を使った、レベリングが可能になったのだ。


「ユメはレベル上がった〜?」

「にゃふふ、聞いて驚け、いっきに四つ上がって二十七にゃ!」


ドヤ顔ピースで自慢げに語ってるけど…


「私五上がったよ?」

「私は六上がりマシたね」

「にゃんですと!?」


そもそも二百匹近いウサギを狩ったんだから、みんな相当量の経験値を手に入れているはずだ。

その時、ひとりの男性がこっちに向かって走ってくるのが見えた。


「すみませ〜ん! 少しお話しをききたいのですがー!」

「話?」

「は、はい。私、こういう者でして…」


男が差し出したのは、名詞みたいなメニュー画面。ええと、『Eニュースライター:ジャック』?


「EニュースはEGO内部のニュースを取材し掲載する非公式組織です。初日から密かに噂になっていたウサギ消失問題について調べていたんですが、偶然貴女方を見かけまして、こうして声をかけさせていただきました」

「つまり、取材ってことにゃ?」

「そういうことです。もちろん、強制はしませんし、プライバシーはしっかり守ります。お話だけでもお願い出来ませんか?」


取材かぁ。どうする?、とユメやリヴさんに目線を向ける。ユメは全然大丈夫そうかな。


「リヴさんはいい? やっても」

「いいデスよ」

「ありがとうございます! ではさっそく、貴女から」


まず私、次にユメが話を聞かれる。内容は、ウサギを集めた原因と理由、その撃退方法などだ。

最後のリヴさんに質問が移り、ほんの五分程度の取材は終わろうとしていた。


「…にしても、リヴさんもお綺麗ですね。御三方ともアイドルレベルの容姿ですよ」

「ありがとうございマス。と言っても、ここはゲームデスけどね」

「いえいえ、ゲームだからこそいいんじゃないですか。周りを見ても綺麗な女性がほとんどで、現実とは違った美しさがありますよ。できれば………臓物も再現して欲しかったですが」

「え…」


男の雰囲気が一瞬で変わる。気配が変質したような感覚に振り向いた私が見たのは、ナイフをリヴさんの腹に刺そうとするジャックの姿。


「リヴさんっ!!」


PK。その言葉が頭をよぎる。


「んにゃぁ!!」


リヴさんが刺される前に、ユメがジャックに突っ込んだ。しかし、衝撃の光景が目に飛び込んでくる。


「ぉっと」

「避けた…!?」


ユメ持ち前の素早さは、並大抵のプレイヤーを上回る。それほどの速度特化ビルドは、そう簡単に上回れるものじゃない。


「なかなか素早いお嬢さんだ。邪魔されるとは思ってなかったよ」


口調が、表情が変わる。邪悪な笑みが向けられた。


「クソPK! とっとと消えろにゃ!」

「おやおや、お口が悪いよ。『シャラップ』」


パチンッ


そう指が鳴らされた瞬間、ユメの声が消える。見れば、口をパクパクさせる姿が。


「いやぁ、大仕事の前に一つ、軽い仕事をしておこうかなと思ったんだけど…邪魔されちゃったね、残念残念」

「大仕事…?」

「うん、大仕事。安全地帯消失っていうね」

「!?」


安全地帯。いわゆる戦闘不可能領域のことで、一番わかりやすいのは街だ。それを消失…つまり消すなんて


「出来るわけが…」

「いいや、出来るよ。街中だとPKもできないからさぁ。PK専門としては困ってたんだけど…じゃあ街としての機能をなくせばいいんじゃないかなって思ってさ」


街の機能…? 


「トップが消えれば、街は機能しないよね」

「っ!」


斬りかかった瞬間、ジャックの姿が消失した。剣が空を斬り、高笑いが響く。


「止めないとね〜。僕らを、ね?」


そのまま高笑いはどんどん小さくなっていき…最後は途切れた。


「…街に戻らないとっ!」

「にゃーが先に行くにゃ! シエルとリヴはできる限り急げにゃ!」

「ハイッ!」


そう言って駆け出すユメ。私たちも、それぞれが持てる最高速度で走る。







そして、バース領主防衛戦が始まったのだった。





***



「じゃ、やりますか。街中でプレイヤーに攻撃してもダメージは通らないけど、NPCには通るなんてねぇ」

「理屈はいいからさっさとやろうぜ。俺ァウズウズしてんだ」

「ええ。この街を、恐怖に陥れてあげましょう」



悪意が動き出す。己が殺意に身を任せて。

全てのシナリオが、たったひとりの少女に書かれているとも知らずに。

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Everlasting Garden Online 木㳂 佑也 @professar

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