発症
@sarakou
発症
『私には守るものが多い。
だからこそ、ヒーローなんだよ』
テレビから聞こえてきたアニメのセリフが、何となく耳に入った。
笑顔がよく似合うヒーローだった。
自分に関わりのない人達のために、どうして命を懸けて戦えるのだろうか。
ましてや勝てるかわからない相手など、戦わない方が得策に決まってる。
ヒーローというのは、バカなのだろうか。
僕は徐にリモコンへと手を伸ばし、テレビを消す。
部屋の掃除をしていると、こうして気が散ってしまうのはどうしてだろうか。
これは絶対に人類の病気として名を残すべきだ。
病名は……
そんなくだらないことを考えながら部屋へ戻る。
一頻り卒業アルバムを見終えあくびをしていたところ、箪笥の奥の方に隠された、見覚えのある箱を横目で捉えた。
まだ捨ててなかったのか。
今では触る機会も無くなったおもちゃ箱を見て、ヒーローになりきって遊んでいた幼少期を思い出した。
もう使う予定もないのに、こういうものは何だかんだで捨てられない。
きっとこれも人類の病気だ。病名は……
2度目はつまらないな、と自分に呆れた。
重い腰を持ち上げ、ふらふらと歩くや否や、そのままベッドに倒れ込んだ。
ゆっくりと息を吐き天井を見上げていると、明日のことが頭をよぎる。
僕の頬は微かに緩み、そのままゆっくりと目を閉じた。
目を覚ますと、散乱した部屋が目に入る。
掃除をしたのに、却って部屋が汚れているとはどういうことか。
…。
僕は支度を始めた。
支度は時間通りに進み、約束の5分前に駅に着いた。
いつも通り。駅は人で溢れていた。
待ち合わせの時間を10分程過ぎた頃、君と思しき人物が改札の奥に、小さく見えた。
「ごめん、待たせちゃったよね」
申し訳なさそうな顔で謝る君は、僕の目の前に来ても小さなままだった。
「大丈夫、僕もさっき来たところだよ」
ドラマ俳優よろしく、決まり文句を口にする。
本当に悪いと思ってるなら、そろそろ時間通りに来てくれてもいいじゃないか。
なんて気持ちは、まるで無い。
「ありがとう。じゃあ、行こっか。
…なんで笑ってるの?
あ。
もう、先行っちゃうからね」
少し拗ねた顔をして、君は離れて行く。
慌てて君を追いかけ、しかし相変わらず笑いながら、僕は謝罪の言葉を二度繰り返した。
そっと、そして力強く、君の左手を握ると、君は僕を見上げるように首を回した。
透き通るような君の瞳が、僕の瞳と反射する。
君は少し不服そうな表情で首を戻すと、ゆっくりと俯き、可憐な微笑みでその瞳を隠した。
ああそうか。どうやら僕には、守りたいものが多いみたいだ。
見上げた空は蒼く、北風が僕らの間を吹き抜ける。
僕のコートを靡かせたその風は、いつもより冷たかった。
発症 @sarakou
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