第4話

「アマリエ!一体何が……打ち合わせと全然違う……うっベルローズ!」


「ごきげんよう、ジョルジュ様」


「……ッチ」


 舌打ちされたわ、仕方がない。私はこのジョルジュ・ルワイト公爵令息に蛇蝎の如く嫌われているからね。勿論私も良い印象はない。何せこのジョルジュこそが小説でお姉様の味方で、私とウェルズ様を断罪して、処刑に導く男なのだから!


 小説ではあの後ウェルズ様が私との婚約を発表。

 そしてジョルジュが殿下のアホ発言と私のやらかしをつらつらと述べて断罪。本格的取り調べ後、ウェルズ様は廃嫡の上、幽閉され、我が公爵家はお取り潰しで、お姉様はジョルジュと婚約、結婚をし幸せに暮らすのだ。


「あ、あの、ジョルジュ様……ベルローズが!」


「……ああ、フラベル侯爵と結婚するんだってな……どうして」


「ウェルズ殿下はアホだからですわ。あんな沈むのが確定の泥船に誰が乗りますか。お断りします。それならハンサムでお金持ちのフラベル侯爵の所に参ります。あの人ロリコン気味ですから可愛がってもらえそうですし?」


 廊下からバターン!と人間が倒れる音が二回した。お母様とお父様ね。あ、そう言えばまだフラベル侯爵の話をしていなかったわ。


「……アマリエ……ベルローズはどうしたんだ?悪い物を食べたのか?頭を打ったのか?」


「中身が変わったと、本人は言っておりますが……」


 そうよ、中身が変わったのよ。


「ルワイト公爵令息の言い分ももっともですが、私も言いたいことがあります、発言してもよろしくて?」


「……なんだ、言ってみろ」


 では、読者から言いたいことを一発。


「アマリエお姉様が好きなら最初からそう言うべきですわ。策を弄してあーだーこーだするより、好きだ、結婚してくれと何故申し込まないのです?うざったいわ。さっさとしなさいよ!」


「はぁ!?な、なぜそのことを……」


「あんたがさっさと言わないから小説が10巻以上伸びんのよ!お姉様がパプリー頭と婚約する前から好きだったんでしょう!?言っとくけど、私は殿下と婚約はしませんからね。慌てて今頃お姉様を婚約者の席に戻そうとしている奴らがいるかもしれないんですからね!しっかりしたほうがいいですわよ!」


「お、おまっ馬鹿ローズ!なんてこと!」


「羨ましそうにお姉様を見てるからよ!みんな気が付いてんの!」


 このジョルジュ・ルワイト。本当に最後までアマリスに本音を言わない。今回も仕方がなしに婚約をしようみたいな流れになって、小説が長引く長引く。あーもーさっさと結ばれろよ!と何度も思ったことか!


「えっ……ジョルジュ様……本当なの……?嬉しい」


「え、っあの……アマリエ……」


 お姉様だって初恋がジョルジュなのよ。それなのにあのパプリー頭殿下が横から持ってくんだもん。読者としてはやってられんぞ!だったわけ。


「やったぜ、これで幸せ一直線~!」



 こうしてその場でお姉様とジョルジュ様はおたがいの気持ちを確かめ合い、婚約を結んでしまいます。勿論後からウェルズ殿下の婚約者に戻って欲しいと何度も打診されましたが


「あのような公衆の面前で婚約破棄を叫ばれたのに……無理です」


 と、突っぱねましたし、私も


「私のようなものでは王子妃は務まりません!勘弁してくださいませ!」


 と、固辞した。勿論フラベル侯爵と婚約を結び、素早くフラベル様と結婚してしまいましたの。ホホホ。3年前に病気で奥様を亡くしてしまったフラベル様と奥様の忘れ形見のランベルト君6歳は両手を挙げて歓迎してくれたので仲良く暮らしていますよ。


「ウチの跡取りがいないではないか……」


「遠縁から来ていただけばいいでしょ!ライオネルなんていいんじゃない?」


「……来てくれるかなあ」


 普通来るわよ、ライオネルは3男だもん、当主になれるんだから飛んでくるわよ。話を振ったらホントに飛んできたみたいだけどね。あいつ魔術使えたんだ。


 お姉様もジョルジュとラブラブしちゃっていい感じにルワイト家を盛り立てて行くと思うの。ぶっちゃけあの殿下と結婚したって何にもいいことなかったと思うんだよね。

 だって殿下ったら次の婚約者が決まらずに、あわてているみたいだし。そりゃそうよね、婚約者を裏切って訳の分からない断罪をして、その妹を次の婚約者に据えようとする人間はちょっと信じられないわ。

 ……そうさせたのは私だったけど……。ゴメン。でもあのパプリー頭じゃいつかやらかすと思うのよ。


「はあ、ホント危ない所だったわ」


 あのままウェルズ殿下の婚約者になっていたら、ジョルジュの野郎に断罪返しをされて、平民落ちだったのよ。


「どうしたの?ベルお母様?」


「何でもないわよ、ランベルト君!さ、中でおやつにしましょ!」


「うん!」


 二人で手を繋いで散歩から帰ってくると皆にこにこと迎え入れてくれます。あーよかった、ホント!フラベル家はお金もあるし、こうやってのんびり暮らしていけるなんて最高だわ。平民じゃ使用人なんて雇えないもんね。


 こうして私はギリギリでざまあを回避し、幸せに暮らすことが出来ましたとさ!良かった良かった。おしまい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姉から全て奪った妹の私は手のひらを華麗にひっくり返す 鏑木うりこ @uriko333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ