第11話 凱旋
行方不明になっていた住民を伴って街に帰ってきたグレイ伯爵たちの事件解決の知らせは、すぐさま街の住民たちにもたらされた。
街へと続く門をくぐったその先には、人、人、人、見渡す限りの人がいた。その年齢の幅は広く、足腰弱い老人から元気に駆け回る小さな子供まで、老若男女様々な年齢の人たちがグレイ伯爵たちの帰還を歓迎していた。
「ありがとぉおおおッ!!!」
「伯爵様は俺たちの希望だぁあああーーーッ!!!」
「エリーちゃん、可愛いよぉおおおーーーッ!!!!」
住民たちからグレイ伯爵への感謝の言葉があちこちに飛び交う。一部、別のことを言っている人がいたが気のせいだろう。
……うん、気のせいだ……
それよりも住民たちだ。
大勢の人がグレイ伯爵に感謝しているのが一目見てわかる光景だ。
その様子を目を丸くしてアリエスは見ていた。ここまで、集まるとは思っていなかったからだ。
「凄いですね……」
ポツリと言葉をこぼす。
アリエスの言葉を近くにいた、グレイ伯爵に仕える騎士が答えてくれる。
「それ程までに、今回の事態を重く見ていたのだろう。しかも、それを解決したのが領地の領主様だ。住民はそれはそれは誇らしいのだろう」
確かにいきなり人がいなくなるというのは誰にとっても心配になるものだ。それを解決したのが領主様だとしたら、もう安全と考える。住民たちは感謝の念で胸一杯なのだろう。
それがこの歓声ぶりという訳だ。
「解決できて良かったですね……」
「そうですね……」
この目の前の光景を目にして感慨深いものがアリエスの胸のうちに湧き上がってくる。
ぼんやりとこの光景を眺めていると、いつのまにか街の中を進んでおり、既にグレイ伯爵の屋敷の門の前まで着いていた。
門が一人でに開くと屋敷の玄関前にはグレイ伯爵邸のメイド、及び執事たちがアリエスたちの帰りを出迎えてくれた。
「「「お帰りなさいませ」」」
声を揃えた出迎えの挨拶がメイド達から聞こえてくる。
その挨拶には屋敷の主人であるグレイ伯爵が黒の馬に乗りながら返す。
その姿は堂々としており、まるで英雄の帰還のようだ。
今、帰った。そう言うとグレイ伯爵は黒馬から降りると、後ろについてきていた兵士たちの方に振り返る。
玄関前に整列していた兵士、屋敷の前に集まっていた住民たちも言葉を閉じる。
そこは先ほどまでの賑やかな雰囲気はなく、火山の噴火前のような静けさが辺りを漂う。
その沈黙のなか、グレイ伯爵がついに言葉を紡ぐ。
「勇敢なる兵士たちよ!! 此度の騒動、其方たちの活躍により無事、犠牲出すことなく終えることが出来た。私は其方たち優秀な部下を持つことを嬉しく思う。そして、今ここに、領内失踪事件の終幕を宣言する!」
ーー……ワァアアアアアアーーッ!!!!
グレイ伯爵の締めの言葉により、本当に此度の騒動が無事終わったのだと改めて認識できた。兵士たちからは雄叫びが、屋敷の前に集まっていた住民たちから再び歓声が広まっていく。
その日のグレイ伯爵領は今までに見ない盛大な宴が町の至る所で開催された。
◇ ◇ ◇ ◇
場所は変わってグレイ伯爵邸、庭園。
そこには大勢の人と、豪勢な料理が山のように並べられていた。今回の騒動の解決を祝い、グレイ伯爵が兵を呼んで盛大なパーティーを開いてくれたのだ。
庭園では至る所から笑い声が、今回の活躍を仲間に話す兵たちの声が聞こえて来る。
「俺は遠征では、襲ってくるナイトウルフたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍よ!」
「いや、お前。後ろの方から弓で攻撃してただけじゃないか……」
それを聞いていた、一緒に遠征に行ったと思われる兵の一人が知らない人のために呆れたように訂正する。
「こ、細かいことは気にするな。そ、それより今回依頼で来てたアリエスさん。あの人は凄かったよな〜」
「そうそう、変な黒い渦の中から筒みたいのを出してな。そこから、ドンッドンッと音を出したと思ったら敵が倒れてれいたんだ。ほんと、あれは凄かったな」
なにやら、アリエスの話題が出たようで、その話を聞いた人たちからアリエスに視線が向けられる。
アリエスは冷や汗をかきながら、その場をそそくさと離れていった。異世界に銃なんて兵器が広まった日にはこの世界の武器の概念が酷くなってしまう。一般の人にも使えるのは良いかも知れないが、逆に言えば一般の人でも人を傷つけることができるからな。
そのため、アリエスはそのことを聞かれないようにその場を離れた。
あ、危ない危ない。銃のことなんて絶対に言えない。もし、聞かれてもなんとかして誤魔化さないとな……
そんなことを思っているところに、ある一人の少女がアリエスの前に出てくる。
「あ、あの……アリエスさん?」
声をかけてきたのは騒動の一人とも言える、グレイ伯爵の娘、エリー嬢だ。肩には新たに吸血鬼の守護神となった神獣キィーちゃんが林檎を両手に持ってそれを食べていた。
なんとも、ほんわかする雰囲気になるがそれが良かった。緊張することなく普段通りにエリーと話す事ができたのだから……馬車の中とは大違いだ。
「エリーさん、どうしましたか?」
笑顔を浮かべてエリーに言葉を返す。
「あ、あの今回は本当に、本当にありがとうございました! おかげでキィーちゃんともこうして堂々と居られます」
その場でエリーは深く頭を下げた。
本来、貴族の娘がそう簡単に頭を下げてはいけないが、どうやら見逃してもらえるようだ。遠くの方でエリーさんの母親のメアリーさんが何やら意味深に微笑んでいたが……きっと気のせいだろう……
「いえいえ、僕はただエリーさんからの依頼を全うしただけですよ。これからもキィーちゃんと仲良くね」
その言葉を聞いてアリエスにお礼をしに来たエリーは、今までとは違い、まるで向日葵が咲いているような素敵な笑顔を顔に浮かべて頷いてくれた。
その姿は本当に幸せそうで、これこそがエリーさんの本当の姿なんだと思い、今回の依頼を無事に終えることが出来て本当によかった。
それから、エリーさんとは他愛の無い話をしてしばらく過ごしたが、そのほとんどはキィーちゃんの話だった。まぁ、楽しければいいだろう。
そうしてキィーちゃんが林檎を食べ終え、エリーさんの頬をペチペチと軽く叩いて次のものを催促するまで話は続いた。
エリーさんは仕方なさそうな顔をしていたが、その顔を嬉しそうにも思えたのは僕だけだろうか……それから僕に頭を下げてテーブルの方に行ってしまった。
こんな時でもキィーちゃんは平常運転だったようだ。
夢羊の夢喰い日記 〜僕だけの特別なユニーク魔法で依頼主を幸せに〜 うらら @Yyuu328
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