第10話 コウモリくんの処遇


 ミッドナイトウルフを討ち取り、此度の襲撃が終わったアリエスたちは帰還に向けて準備を始めていた。


 いや〜、本当にどうなるかと思ったよ……怪我をした人はいたけれど、戦死者がいなくてほんと良かった。それにしても、あのコウモリ、もう皆んなに馴染んでるよ。


 アリエスが向ける視線の先には、エリーを筆頭に助けられた兵たちから大変可愛がられていた。


 その様子を微笑ましく眺めていると、後処理から戻ってきたグレイ伯爵がアリエスの元に歩いてくる。


「ほんと参っちゃうね。こんな激闘するなんて、思っていなかったよ」


 木株に座っていたアリエスの横に腰を下ろす。


 グレイ伯爵の服は当初とは全くみる影もなく、服には穴が空き、白のシャツは血で汚れており、どれほどの激闘だったか伺える。


「僕もこんなことになるとは、まったく思っていなかったですよ……」


 しばらくの沈黙の後、グレイ伯爵が口を開く。


「……それにしても、うまくやったね」


「なんのことでしょうか?」


 惚けたようグレイ伯爵に言葉を返す。


 アリエスも当然わかっている。


「あのコウモリくんのことだよ。流石の僕でも神獣なんて言われたら、退治するわけにはいかなくなる。それに、あんなにも友好的なら反対意見も少ない」


「……そうですね」


 実際、アリエスはこれを狙って神獣と言ったのだがうまくいって本当によかった。もし、これであのコウモリが兵たちを攻撃したら大変なことになっていた。


「アリエスくん、ありがとう」


 唐突にグレイ伯爵が礼を言う。


「なんのお礼ですか?」


「娘のことだよ。娘は最近、表情が暗くてねあんなにも笑顔になったのは本当に久しぶりだよ」


 そう言われてアリエスは、エリーの方を見ると貴族令嬢らしからぬ満面の笑みでコウモリと戯れていた。


 当初の氷のような表情とは打って変わって、太陽の輝きのような笑顔だ。


 笑えなかったのは恐らく、コウモリのことを気にしていたのだろう。でも、今はもうその心配もない。


「これは伯爵ではなく、一人の父として言う。本当にありがとう……」


 そう言って、伯爵はアリエスに頭を下げる。本当は伯爵が簡単に頭を下げてはいないのだが、周りにはほぼ身内しかいないため誰もが目を瞑っていた。



 期間の準備も終わり、アリエスたちが領地に戻る時間が来た。つまり、神獣コウモリとのお別れの時間だ。


「キィちゃん、またね」


 どうやら、エリーさんはこの神獣コウモリにキィちゃんと名付けていたようだ。


 キィちゃん、キィちゃんか……神獣ぽくない名前だけど別にいいのだろうか? 


 エリーの言葉を聞いた、神獣キィちゃんはエリーの頭の上にしがみつく。どうやら、お別れは嫌なようだ。


 そもそも、今回の事件の発端。なぜ、キィちゃんは人ばかりを自分の住処に集めたのだろうか? 周りには動物もいれば、魔物もたくさん生息しているはずなのに……


「……あっ!!」


 何かに気づいたようにアリエスが声を上げる。


「どうしたのかね?」


 グレイ伯爵がアリエスが声を上げた理由を訪ねてくる。


「あの〜、もしかしてなんですけど……」


 アリエスは今回、なぜ人ばかりが狙われたのか、その理由を推測だがグレイ伯爵たちに話し出す。


「このコウモリ……キィちゃんはエリーさんを探して人ばかりを集めたんじゃないですか?」


 そうすれば、あの洞窟に人しか居なかったのかが説明がつく。


 魔力を食べるだけなら、動物や魔物だけでもいいはずだ。つまり、食事以外に理由があったということ。

 あの時助けてくれたエリーさんが近頃来なくなってしまったため、人を手当たり次第さらい始めた。


 キィちゃんが人をさらい始めた理由を聞きエリーさんは唖然とする。


「それじゃあ、……今回の事件の原因って……わたし?」


 呆然としたようにエリーさんがキィちゃんを見つめる。対照的にキィちゃんはそのつぶらな瞳でエリーさんを見つめ返し、嬉しそうにキィキィと鳴く。


「いやっ、でも全員無事に戻って来れたんだし、そこまで気にしなくても……」


「でも……」


 明らかに自分が原因のため、罪悪感から先ほどの笑顔から暗い顔に戻ってしまう。


 なんとかしようと、領主兼父親のグレイ伯爵に助けを求め横目でチラリとみる。

 そんなアリエスの反応に気づいたグレイ 伯爵は、気まずそうにエリーに声をかける。


「あ〜、エ、エリー。そんなに気にしなくても大丈夫だ。アリエスくんの言う通り、全員無事なんだから終わりよければ全て良し。よーしっ、帰ったら宴会だ!!」


 何も思いつかなかったグレイ伯爵は、強引に話を切り替えこの話を終わらせる。



 話を終わらせたグレイ伯爵たちは、街に向けてようやく帰還する。





 読んでくださりありがとうござました。


 少しでも面白いと思われましたら、評価のほどよろしくお願いします。

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