第45話

 喫茶店はこの前来た時と同じく、静かな曲が流れていた。何度来ても本当にいい雰囲気だ。窓際の席に座ると、すぐにウェイトレスの女性がやってくる。


あの時と同じ人だ。わたしのことを覚えているかな?そんなことがちょっと気になったりする。


「ご注文がお決まりの頃にお伺いします」


「あ、はい」


にこやかに言われ、涼華も返事をした。


 メニューを開いて目を通す。前はサンドイッチとケーキのセットを頼んだけど、今日はどうしよう?たぶんどの料理も美味しいんだろうな。


だからどれを選んでも後悔はしない。いや、逆にするかも…。うーん…。どれにしよう、いつまでも迷っているわけにもいかないし。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


ウェイトレスの女性が戻ってきた。


「ブレンドコーヒーをください」


青井がすぐに答える。


「えっと…サンドイッチとケーキのセットをください」


「お飲み物はいかがなさいますか?」


「ブレンドコーヒーで」 


「かしこまりました」


店員はそういうとお辞儀をし、店の奥に戻っていった。


 無言の時間が流れる。会話があってもいいと思うのだが、何を話せばいいのかわからない。何かないかな…。考えていると、あることを思い出した。


彼に出会った最初の時のことだ。


「あの…」


涼華が声をかける、すると青井は読んでいた本から視線を彼女へと移した。

 

「なに?」


「屋敷で最初に会った時のことなんだけど」

 

あんまりあの屋敷の事は話したくないけど、どうしても気になるのだ。


「どうして誰にも言うなって言ったの?」


「え?」


彼女の突然の質問に驚いた表情になった。


「なんのこと?」


「悪霊に取り憑かれたわたしを助けてくれた時、最後に『さっき見たことは誰にも言うなよ』って言ったじゃない」


「あー…」


やっと思い出したようだ。


「あれは…。なんでもない」


「……」


嘘をついているのが、ばればれの言い方なんだけど…。

 

「…嘘つかないでちゃんと理由があるんでしょ」


少し鋭い口調で訊いた。


「本当になんでもないから、気にしなくていい」


「どうして嘘をつくの?」


「嘘なんかついてない」


「ついてるでしょ」


「どうしてそう思うんだ?」


そう訊き返され返事に困った。嘘をついてそうだから、と言えば同じ事をまた訊かれる。彼が嘘を言っているというちゃんとした証拠は無い。自分で勝手にそう思っているだけだ。


「…なんとなく」


「なんとなくって」


青井は呆れたように言った。


「いいから教えて!」


やけになって思わず大きな声になってしまう。自分でもしつこいとは思うが、気になるのだから仕方がない。


「わかった、わかったから落ち着いてくれ」


涼華の勢いに青井も観念した。


「あれは…かっこつけただけだ」


「…は?」


想像していたのと全然違い、拍子抜けしてしまった。


「それだけ?」


確認のためにもう一度訊く。


「ああ」


「なんだ…」


自分はもっと重要なことかと思ってたのに。誰かに話せば呪われるとか、そういう怖いものを想像していたのだ。


「だからなんでもないって言っただろ」


その一言にまたもやムッとしてしまう。


「なんでかっこつけたの?」


無意味だとわかっていても、このまま終わるのも悔しいのでそう訊いてみる。


「なんでって…特に意味は無いよ。小説の真似をしただけだ」


「ふーん」


冷静沈着で少しキザっぽいと思っていたけど、子供みたいなところもあるんだ。またもや彼の意外な一面を知った。

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