第29話

 旅館に荷物を置き、月鏡寺に向う。舗装されていない、でこぼこした坂道を上る。都会の平坦な道ばかり歩いていたから、少し歩くのが大変。


「大丈夫か?」


「あ、うん」


「もう少しだから、辛抱してくれ」


それから五分ほどして目的地についた。思っていたよりも…。


「小さい寺だろ」


「う、うん…」


「でも、霊媒師は本当にいるから安心してくれ」


口には出さないが思っていた疑問に答えてくれた。


「兄さん」


二人に声がかけられる。


二人が声のする方を向くと袈裟を着たお坊さんが立っていた。


「よお」


青井が返事をする。


「早かったね」


「まあな、それでこの人が小野さんだ」


いきなり紹介される。


「こ、こんにちは。小野です。本日はよろしくお願いします」


「兄からお話は伺っております。本日は遠いところをおいでくださり、ありがとうございます」


深々と頭を下げられる。


「すぐに準備いたしますので中でお待ちください」


そう言って住職は寺の中に入っていく。


「行こう」 


 住職こと青井の弟に案内され、寺の中を進む。そういえば、お寺の中って入ったことないかも。あちらこちらに目を向けながら歩いていると、やがて一つの部屋の前で住職が止まった。


「こちらの部屋でお待ちください」


二人は部屋に入り畳に座った。涼華は正座で青井はあぐらだ。…そうだよね。青井さんは実家なんだから、かしこまる必要無いよね。少し羨ましい。実は正座は苦手なのだ。すぐに足が痺れてしまい、立ち上がる時にいつも苦労するのだ。


本当は自分も足を崩したいけど、ちょっと気が引ける。


「…どうかしたか?」


「…え?」

 

「さっきから俺のこと見てるけど」


慌てて顔を前に戻す。


「どうもしないけど」


さすがに本音は言いづらい。


「そんなにかしこまらなくてもいいんだぞ」


思わず彼の方を向いてしまう。


「正座、キツくないか?楽な姿勢とってくれていい」


「で、でもー」


「気にしなくていい、無理してたら立つ時苦労するだろ?」


じっと彼の目を見つめる。どうしてこの人はわたしの考えていることがわかるんだろう。思い出してみればずっとそうだ、自分が言葉にしなくても、心の内を読んだように思っていることを次々と当てる。わたしはどんなに彼の目を見てもわからないのに…。


「…ありがとう」


お礼を言い足を崩した。

 

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