第28話

 改札を出ると最初にバスターミナルが目に入ってきた。最初、というよりもそれしか無い。喫茶店や売店などは一軒も建っておらず、人もバスの運転手以外いない。寂しい、その一言しか思い浮かばなかった。


「日曜日はいつもこんなかんじなんだ」


「…そうなんだ」


「住んでる人も少ないし、若者はみんなこんな田舎は嫌だって言って都会に行くから、桜城みたいな活気はないんだ」


「ふーん…」


「俺もその一人なんだけどね」


「…あっそ」


涼華が素っ気ない態度をとると青井は不思議そうに彼女を見つめた。それに応じるように彼女も見つめる。きっと忘れてるんだ、あの路地裏で会った時にわたしが言ったことを。


「…どのバスに乗るの?」


「え、ああ…」


彼はターミナルを見渡すと一台のバスを指さした。


「あのバスだよ」


普段見ている物より一回り小さい。乗る人が少ないからかな。


 バスに近づき乗ろうとすると、突然青井に止められる。


「あ、待って。このバス後ろから乗るんだ」


「後ろ?」


出口から乗るの?言われるまま後ろから乗ると、青井はこう言った。


「ここのバスは後ろから乗って前から降りるんだ。料金も後払い」


「ふーん…」


それからしばらくは、窓から見える景色を見ていた、ビルも無くどこまでも田んぼが広がっている景色。


殺風景な気もするけど、都会のごちゃごちゃした景色よりもずっといい。


「次は月鏡寺、月鏡寺です」


青井が停車ボタンを押した。


 バスを降り、歩き始める。


「ここから、五分くらい歩いた所に旅館があるから、そこに荷物を置いて、それから寺に向う」


青井が言う。旅館か…学生の時に修学旅行で泊まって以来だ。思えば旅行というものも社会人になってからはしていない。土日は、ひたすら寝ていたのだ。本当は自分を引き取ってくれた両親と旅行に行きたいのに…。


「はぁ…」


思わずため息が出る。


「どうかしたか?」


青井が不思議そうに訊いた。


「…なんでもない」


 そうこうしている内に旅館に着く。ふと疑問が湧く。


「ねえ、どうして青井さんが旅館に泊まるの?」


「え?ああ、ちょっと訳ありで…」


「訳あり?」


青井はバツの悪い顔をする。


「さっき俺も田舎が嫌で都会に行ったって言っただろ?実はその理由が、寺を継ぐのが嫌だったからなんだ」


「ふーん…」


「だから俺が旅館に泊まるのは、実家に居づらいからだ」


「でも今は霊を祓う仕事をしてるんでしょ?」


「仕事っていうか、それはタダ働き。本当の仕事は会社員」


「会社員?霊を祓う会社?」


「は?いや、違う。普通の会社だけど…」


???頭がこんがらがってきた。そういえば、路地裏で有給をもらったって言ってたような…。


「霊を祓う仕事は親父の霊がやれって言うんだ」


「ああ…」


やっと理解できた。普段は会社員で、裏では霊を祓っているのか。なんだか漫画に出てきそうでー。


「カッコいいね」


思ったことをそのまま言った。


「そうかな」


青井は少し戸惑ったような顔をした。







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