第22話

 「そうなのかい?」


老婆の質問にもう一度柚華は頷いた。


「小野さんに何かあったのかい?」


「……」


再び押し黙ってしまう。すると老人は立ち上がり、こう言った。


「ちょっと小野さんの屋敷まで行ってくる」


「え…」


柚華が小さく声を上げるも、それに気づかず出ていってしまう。


「おねえちゃん…」


涼華は不安そうに姉のことを呼んだ。そしてそれから十分後、玄関が勢いよく開くと老人が慌てた様子で入ってきた。


「ばあさん大変だ!屋敷の中で人が血を流して倒れてる!」


 その後、警察官が何人も屋敷に駆けつけ、父、母、そして次女が亡くなったことが確認された。森の中の屋敷で家族三人が亡くなっていたことは、ニュースにもなり多くの人に知れ渡った。


殺人事件ともいわれたが、結局警察は父親が無理心中を図ったものとして捜索は打ち切られた。


残された二人のことも、ニュースで取り上げられるも未成年ということで名前は明かされない。誰も彼女たちの本名を知ることはなかった。


そして姉妹は孤児院に行き、それぞれ里親に引き取られる。涼華の方は偶然にも名字が同じ小野という夫婦に引き取られた。姉は妹よりも後に引き取られたため、涼華は姉がどこに行ってしまったのか、全くわからなかった。二十五歳になった今でも会えていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る