第18話
次の日涼華が起きると異変に気づく。いつもと雰囲気が違うのだ。部屋を見回すと一緒に寝ているはずの姉がいない、先に起きたようだ。
自分も早くみんなのところに行こうとベッドから出て一階へ向う。なぜかはわからないが、不安だった。いつもと同じくように楽しくおしゃべりをしたい、そう思い階段を降りる。リビングに行くと父と二人の姉がいた。
「おかあさんとおじいちゃんは?」
「おじいちゃんは具合が悪くて病院に行ってるんだ、お母さんはおじいちゃんのことが心配で一緒に行ったよ」
父が答える。
「びょういん…?」
「うん…」
「かぜひいたの?」
「風邪ではないけど…」
口ごもるとそれ以上話さなかった。
「お花、見に行こう」
涼華が朝食を食べ終えると柚華が言った。
「うん」
二人の妹は同時に返事をし立ち上がった。
「お昼になったら呼ぶからね」
父ががそう言うと三人はうなずいた。
庭の花はいつもと同じく美しく咲いている、しかし姉妹たちの口数は一昨日と同じように花を見た時よりもずっと少なかった。そんな中、涼華が姉二人に訊いた。
「おじいちゃん、だいじょうぶかなー?」
「……」
姉たちからの返事は無い。
「おねえちゃん?」
二人を見上げると、柚華も華那子も目の前の花壇に咲いている花を見ていた。だが、その顔に表情は無く花というより空を見つめているようだった。
「おねえちゃん!」
もう一度、大きな声で呼ぶと二人とも我に返ったように涼華の方を向いた。
「あ、ごめんね。聞いてなかった」
柚華が謝る。
「おじいちゃん、だいじょうぶかなー?」
「…大丈夫だよ」
「きっと、すぐに良くなるよ!」
姉に続いて華那子が不安を打ち消すように言った。
「うん!」
涼華も大きな返事をする。妹たちの力強い声に柚華は少し落ち着いた。
「お昼ご飯だぞー」
父の呼びかけに三人は屋敷に向かって歩き出す。
「おじいちゃん、いつかえってくるかなー?」
涼華が訊くと華那子が答える。
「今日中には帰って来るよ」
「やった!」
早く元気になったおじいちゃんとお話ししたい、そう思いながら昼食のチャーハンを食べた。
昼食を食べ終え、子供たちが二階の部屋に戻ろうとしたとき電話がかかってくる。父が出て話し始めた。何を話しているんだろう、と思い見ているとやがて電話を切り、柚華たちに向かってこう言った。
「今、お母さんからの電話だったんだけど、今日帰るの遅くなるって」
「何時になるの?」
華那子が訊く。
「八時くらいだって」
「おじいちゃんは?」
今度は柚華が訊いた。
「おじいちゃんは…今日は帰ってこれないって…」
「え…」
三人の表情が変わった。
「大丈夫だよ、明日には帰ってくるから」
娘たちの様子を見て父が付け足す。それでも姉妹たちの不安は消えなかった。
「行こう…」
長女が促し二階に行く。
自分たちの部屋に入るも何もできず、会話も無い。三人ともショックを受けていた。そして、真っ先に浮かんだのが祖母だった。祖母は入院中に亡くなったのだ。彼女たちにとって病院に泊まるということは嫌でもそのことを思い出す。どんどん悪い方へと考えてしまった。
結局その日は母が帰ってくるまでほとんど物思いにふけっていた。
「ご飯にするから降りてきなさーい」
呼ばれて静かに階段を降りる。母は疲れた顔で椅子に座っていた。それでも、娘たちを見ると笑顔で話しかける。
「ごめんね、一日中いなくて。ご飯にしましょう」
姉妹たちは頷くと母の向かいに座った。夕食は買ってきたお弁当だ。
「明日はちゃんと作るからね」
そう言いながらテーブルに並べていく。みんなそれを黙って見つめていた。
「いただきます」
母の言葉で一斉に食べ始める。いつもならば楽しい食事の時間だが、今は違った。誰も一言も話さずに黙って食べている。父も母も子供たちに目を向けようとしない。両親のただならぬ雰囲気を感じとった姉妹たちも、うつむきただ手と口を動かしているだけだった。
本当は訊きたいことがたくさんあるのに、怖くて訊くことができない。もどかしい時間がゆっくりと過ぎていった。
「…ごちそうさまでした」
そう言い柚華が立ち上がる。
「もう寝るね」
「ちゃんと歯を磨いてから寝るのよ」
「わかった」
返事をして洗面所へ行ってしまう、華那子と涼華も急いで食べ終え姉に続いた。
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