小さな勇者の魔王退治
三奈木真沙緒
気象警報により臨時休校
「いくぞ、魔王!」
勇ましい声が響く。
「ふははは、来い!」
私はせいぜい威厳ありそうに声を低める。
「いくぞ~、えい! とお!」
小さなクマの姿の勇者は、ストライド的にあり得ない速度でとびかかってきた。手に持っているのは、花模様の剣。柄の部分にはキラキラ光るシール。案外丁寧に作られている。ちょっとおかしなところに折り目が入ってしまっているが、まあ仕方ない。
「これ、自分で作ったの?」
私は勇者に、いや、勇者の背後に向かってたずねる。
「うん!」
「そうかあ、上手だねえ」
思わず言うと、勇者の背後にぱっと、得意そうな笑顔の花が咲く。
厳密にツッコむなら、その剣は勇者の手、というか前足から微妙に浮いているけど……まあいいや。
「それええ~!」
「隙だらけだあ!」
魔王は、小さな勇者を横からたたき払う……つもりが、うまくいかなかった。ちょうど勇者の横腹に、あってはいけないものが――いや都合上なくては成り立たないものなのだが――「装着」されている。ぺちっ、と音がする。
「あ、ごめん、痛かったね」
「ううん、だいじょうぶ。それより、いくぞお~」
勇者の背後は、それどころではないらしい。小さな勇者は、ありえないほど高く跳躍し、私の鼻先で花模様の剣を振り下ろした。
「ずばあッ」
勇者の背後が、口で擬音を発する。
「ぐわわ~ッ、やられたあ~」
「……ぐわあ~ッ、でいいの」
台本と演技指導はたいへんキビシイ。
「はい、それじゃ、……ぐわあ~ッ(私はガチョウか)、やーらーれーたー」
「やったあー、魔王を倒したぞー!」
勇者とその背後は狂喜乱舞。倒された魔王は、ようやく起き上がった。
◯
今日は気象警報で、学校が臨時休校になってしまった。こうしている今も、窓の外で雨と風が狂乱のカーニバルを続けている。
……お友だちに会えなくなって、おもしろくなかったね。でも、家で楽しく過ごせて、えらかったね。天気予報見る限り、明日は学校に行けると思うよ。
さて、魔王その1はそろそろ、夕食の支度をしなくちゃいけないから、しばらくひとりでレベル上げにいそしんでおくれ。もうすぐ帰ってくる魔王その2は、きっととても手ごわいから。
小さな勇者の魔王退治 三奈木真沙緒 @mtblue
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