無痛

kento

第1話

「構造主義って知ってるか?」


そう言って偉そうに、話し出す辻本と言うこのセンコーは、皆から、嫌われている。


今年で定年退職らしいが待ちきれない、正直早くこの学校から消えて欲しい。そう思っていない人を探すのが大変なレベルだ。


不人気な理由は、明白で、言動がひどすぎる。すぐに生徒に向かってクズだの、ゴミだのとぬかすは、少しでも反抗的な態度を取れば、体罰をもいとわない。


最近、この辻本に、こぴっどく叱られた子が、不登校になってしまったのだが、


「最近の子供は、すぐそうやって拗ねる」

「昭和の時代はこうやって教育されてきたんだ」


といって、知らんぷり。全く驚いたものだ。

因みに、他に嫌われている理由があるとすれば、ちょうど今みたいに、授業と関係ない話をベラベラと話しだしては、止まらないからだ。


「この構造主義っていうのは、生まれた時代や国で、常識、感覚が違うっていう話をしているんだ」


このセンコーは、生まれた時代で人間は、感覚が違うという話をしているらしい。

なるほど、この考えはきっと正しい気がする。


きっと、このセンコーは、「心の痛み」という感覚を、鈍らせてきた時代で育ったんだ。


だから、悪びれもなく、無神経な言葉を連発できるというわけか。


このセンコーも、根性だの意志だのと言われて、ボロクソな扱いを受けてきたんだろう。そして、気づけば自分の痛みは、おろか、他人の痛みにすら鈍感になってしまったと。


痛みの感覚が昭和と平成という時代において、大きく異なる。辻本から唯一、学んだのは、これだけだった。


これから先も、時代の変化と共に「心の痛み」も変化していくのだろう。俺は、出来ることなら他人の痛みを少しでも、理解できる老人になりたいもんだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無痛 kento @kento910

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ