人型四輪免許を取った話

 停止状態でサイドブレーキをかける。四つのタイヤが全てロックされた事を示すランプが点灯したのを確認して、サイドブレーキの横に設置された変形用のレバーを押し込む。

 ゆっくりと上体が起き上がるのに合わせて運転席は常に正面を向くように回転する。

 続いて両手を前に突き出し、しっかりと路面を掴む。

 そうしてゆっくりと人型の車両は確実に立ち上がる。

 かかる時間はおよそ二分程度。ロボットアニメのように素早く変形する事はできないらしい。

 安全面を考えると仕方ないと思いつつも、起き上がるのにつれて気持ちも盛り上がるのは隠せなかった。

 ……さて、人型になったとはいえ前進と後退は四輪と変わらない。

 アクセルを踏み込むと歩き始め、深くなるにつれて走り出す。後退もレバーをリバースに入れるだけだ。

 思いのほか振動は少なく、倒れることもない。複数の、傾きや加速度、振動などのセンサーからの情報で高度に制御されているらしい。

 手元のハンドルは肩幅程度に広がり、そのまま左右旋回と両腕の操作に割り当てられている。

 旋回中は腕が固定され、腕を操作している間は旋回できない訳だ。技術的にどうこうというわけでは無く、万が一を考えて同時の操作は不可、という設計を採用しているらしい。

 左右それぞれのハンドルを押し込むと腕が前に出て、引くと元の位置に戻る。

 ハンドルの内側にあるトリガーを引くと対象を掴み、トリガーはロックされる。ロックを解除すると手を離す。

 運転席の正面に起き上がっている透明の板に、固定された円が表示されている。

 この円に掴みたい対象を収め、トリガーを引くだけで指の操作などは要らず、そのまま対象物を掴めるのだ。

 正直言って拍子抜けではあるが(もっと複雑なのかと思っていたので)、同時に精密な制御に感嘆を隠せなかった。

 合宿の後半はそういった人型特有の操作を覚えて習熟する事に費やされ、終盤はより実践的な(建築、土木や災害復旧などを想定した)場面を体験して締め括られた。

 終わってみるとあっけなく、しかし少しの高鳴りをその胸に抱えて私は合宿所を後にした。


 地元に帰り、翌日に管轄の免許センターへと出向く。

 免許の併記申請は書類と今持っている免許証を提出して、新たな免許証を受け取るだけだ。

(写真から何から新しくはなっているが)見慣れたはずの免許証には「人四」の二文字が追加されていた。

 人型四輪は今の私にとっては相当に高価だし、当分は購入の予定は無い。

 しかし、ただそれを動かすことができると思うだけで、思わず笑みがこぼれるのだった。

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人型四輪免許の話 長濱芳人 @be2note

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