人型四輪免許を取りに行った話

 人型『四輪』と呼ばれる(法律上の)車両は、基本的に変形機能を備えている。イメージとしては建築現場などに据え付けられる大きなクレーンが近いかもしれない。

 その能力を発揮できる場所までは四輪を転がして移動するので、人型の所以でもある二手二足の姿を公道上で見ることはまず無い、というか許されていない。

 通り抜けられない高さの小さなトンネルだったり、そもそも他の(一般的な四輪車などの)車両を踏み潰したり、つまづいて転んでしまうなどの事故が想定されるから、というのが理由だ。

 ——そういった車両に関しての法規などを学ぶのが合宿の序盤で、これは他の免許を受けていたとしても受けなければならない。

 もっとも、他の免許を受けている場合はその分の学科は免除される。

 そしてシミュレーターで操作の基本を学び、晴れて実車に乗れるのは合宿が始まってから四日目の午後だった。

 とはいえ、最初から人型の操作をさせてもらえるわけでは無く、まずは四輪の状態で合宿場内のコースを周回するだけだ。

 曰く「四輪自動車とは異なる操作があるから」という事だが、基本的にはハンドルを両手で握り、左右の足でブレーキとアクセルを踏むので大して違うとは感じなかった。

 四輪免許が無い人はその分の教習が必要となるため、多くの人型四輪免許の合宿参加者は四輪免許所持者に限定される(流石に一ヶ月かそれ以上のまとまった期間を免許取得に費やせる人はほぼ居ないであろうし)。

 運転席は周囲が透明な強化樹脂で囲まれている場合が殆どで、少しショベルカーなどに似ている。

 人型時の操作も兼ねるため、ハンドルは左右に向かい合う半円状に分かれている。足元のペダルはブレーキとアクセルで、これは一般的な四輪車と大差ない。

 他には人型時の制御用にレバーやボタンが幾つかあるが、基本的に細かい操作は自動制御なのであまり頻繁に使うものではないらしい。

 四輪形態での外観は、人間が正座したまま上体を反らした形に似ている。

 タイヤは膝にあたる部分、それと肩にあたる部分のそれぞれ左右に据え付けられている。

 重心が一般的な四輪車のそれとは異なるのか、独特の挙動に慣れるまでには少しかかった。

 そうして二週間ほどの合宿も後半に入ろうかという日、ついに念願の人型形態を操作する日を迎える。

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